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13.ぜんぶ金縛りのせいだ


「だーはっはっはっは! 酒だ! もっと酒を持ってこい!」


 宿へと入ったデキムスは、陽も沈まぬうちから酒宴をはじめた。

 大量の酒を床の上に並べ、自分と部下はもちろん、酌をさせるために集めた村の娘たちにもむりやり飲ませる。


 若い女が、酔って痴態を晒すのを見るのが好き。

 それがデキムスの性的な嗜好であった。


 椅子とテーブルのある食堂ではなく、床に座らせて酒宴を開いているのもそのためである。


「こんなクソ田舎でも、酒と女があればそれなりに楽しめるものだな」


 もちろん代金を払う素振りなど一切ない。

 代官であるデキムスにとって、村人とは税を納める存在であって、金銭を渡す相手ではないからだ。


 酒宴は陽が沈んでからも続き、すでに六時間にも及ぼうとしている。


 デキムスは部屋を見渡した。

 多くの娘たちが酒で顔を真っ赤にしている中で、いまだ顔色の変わっていない娘がいるのを見つけた。


「おい! そこ青い服の女!」

「は、はいっ」


 ビクッと身体を震わせて、娘が返事をする。

 デキムスはジョッキを指差して言った。


「まだまだ余裕がありそうだな。飲め」

「いえっ、もう私は――」


 青ざめた表情で断ろうとする娘に、デキムスは声を荒らげる。


「いいから飲め! 代官である私が飲めといっているのに、逆らうつもりか!?」

「いえっ、そんな…………はい。ありがたく、いただきます」


 娘は意を決した表情で、酒が注がれたジョッキに口をつける。


 その娘は酔っても顔色が変わらない体質だった。

 しかも、どちらかと言えばアルコールには弱い方。


 一口、二口、三口と飲んだところで、娘は後ろ向きにひっくり返ってしまった。

 その拍子にスカートの裾が乱れ、真っ白な太ももが露わになる。


「なんだあ? もう終わりか。情けない」


 そんなことを言いながら、デキムスの視線は酔いつぶれた娘の太ももにたっぷりと注がれていた。口元もだらしなく緩んでいる。


 代官の隣で酌をしていた娘が、


「あの……代官さま。もうそろそろ――」


 この酒宴をお開きに、と言いかけたところを、デキムスの唇がむりやり塞ぐ。

 突然のことに反応できずにいた娘がようやく解放されたとき、デキムスの手は娘の胸元へと伸びていた。


「そうだな。そろそろ、大人の時間をはじめようではないか。……まさか、断ったりはしないだろうな?」


 血走った目と、下品な笑み。

 言葉の意味に気づいた娘の表情がサッと青ざめる。

 形式的に同席していた村長へと視線を向けるが、頼みの綱は明後日の方向を向いていた。


 もちろん、わざとだ。

 村長として、代官に言われるがまま村の娘を差し出すのは面子に関わる。

 かといって、代官に逆らえば命に関わる。


 ならば、ここから先のことは全て代官と娘が自由意志でやったことだ、としてしまうのが一番だ。


「こっちへ来い! おい、そこのお前もだ」


 もう一人。

 集まった娘たちの中でも器量が良い二人を選んで、デキムスは上の階にある部屋へと連れ込んだ。これも貴族の特権だとほくそ笑む。


「ほれ。顔を上げろ」


 右腕と左腕を、それぞれの娘の腰へと回し、順番にその唇を奪う。

 娘たちが震えているのが伝わって、それがデキムスの嗜虐心をくすぐった。


「よし。脱げ」


 娘たちに衣服を脱ぐように命じるが、商売女ではない娘たちの手はすぐには動かない。


「なにをしている? 脱げ、と言ったのが聞こえなかったか?」


 極めて静かに、冷たく聞こえるように言葉を発したデキムスは、同時にサーベルに手を掛けた。チャキッと金属が響き、娘たちが生唾を呑む。


 娘の一人が衣服の脱ぎ始め、続いてもう一人も観念したように衣服に手を掛けた。


 デキムスの口元がほころぶ。

 嫌がる女を、本人の気持ちなど無視してベッドに組み伏し、無理やり奉仕させる。

 デキムスはこの瞬間、自分が貴族であることを、支配する側の人間であることを強く実感するのだ。


 しゅるりと衣擦れの音がして、娘の肢体が晒されようとしたそのとき、天井からカタリと音がした。


「なんだ?」


 見上げようとしたところに、水滴がポツンと落ちてくる。


 その瞬間――デキムスのまぶたが鉛のように重くなった。


 バタン、と音を立ててベッドに崩れ落ちる自分の身体。

 娘たちの身体が二重、三重にブレる。


(……くっ、意識が……落ちる。これは、酒では、な……い)


 次の瞬間、大きなイビキが室内に響き渡った。


 突然眠ってしまったデキムスを、娘たちは驚いた顔で見つめ、すぐに手を取り合って喜んだ。自分たちを誘い込んだ代官が先に眠ってしまったのだから、これ以上するべきことはない。


 彼女たちが、さっさと衣服を着直して、部屋を出ていったことは言うまでもない。




「ぐごっ……がっ……」


(ん……、寒いな。ここは……どこだ?)


 しばらくして、妙な寒気と共に目覚めたデキムスは、見慣れない天井に困惑した。

 そして思い出す。


(そうか……。私は山奥にあるモンスの村まで視察に来て……宴を開いて……、あっ、そうだ! 女! 女たちはどこにいった!?)


 連れ込んだはずの二人の女。

 その姿がどこにも見えない。


 一体、自分の身に何が起こったのか分からず、ひとまずベッドから跳び起きようとして、デキムスは身体の異変に気づいた。


「あ、ん、あ? うごか、あい」


 まったく身体が動かない。

 唇も舌もうまく動かせないから、言葉も正しく発せない。

 視線だけは唯一動かせたものの、月明かりしかない部屋の中は暗い。


 金縛り。

 そう呼ぶしかない現象が、デキムスを襲った。



カクヨムにて先読み更新中

→https://kakuyomu.jp/works/16818792437653682620

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