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10.ぜんぶ夜遊びのせいだ


【しゅぞく<スライム>れべる4】

【<スリプライム>にへんしんか】

【アビリティ<すいみんえき>をかくとく】


 よし! やっとレベルアップしたぞ。

 しゃべれない僕は心の中で歓喜の声を上げる。


 視界を覆っていた体液の色が、紫から緑に変わった。

 ふうん。次は緑か。

 水色から始まって、黄色、紫色、そして緑色。

 さて、次は何色だろう。


 僕は周囲に転がっているモンスターたちの亡骸を眺めて、ぷるぷるんと身体を震わせた。


 あの悪夢のような朝を越えて、僕はスライムに変身する力を研究することにした。

 就寝時間を過ぎると、こっそり孤児院を抜け出して、夜中のうちにこそこそベッドに戻る。


 まあ、体力的に二、三日に一度が限界だったけど。

 だって、あんまり夜更かしすると次の日の、神学の授業に響いちゃうし。


 それでも、頑張ったなりに成果は出てきた。


 まずは変身のコントロールだ。

「スライムになりたい」「パラライムになりたい」と、ハッキリ変身後の姿をイメージすれば自由に姿を変えることができるようになった。


 そして「人間の姿になりたい」とイメージすれば元の姿に戻れることもわかった。


 思えばあのときは、スライムになってしまったことを嘆くばかりで、人間の姿に戻りたいなんて考えもしなかった。

 というか、そもそも「戻れるかもしれない」という発想すら浮かばなかった。


 できるようになってみれば、こんなに簡単なことだったのかと拍子抜けしてしまうほどに楽々と、人間とモンスターの身体を切り替えられた。


 とにかく、これは大きな発見だった。

 モンスターと人間の姿を自由に変えられるようになったことで、変身可能限界(だいたい5時間)がくるまで待つ必要がなくなったのだから。


 具体的には、「あー、今日はちょっと眠いから早めに切り上げちゃおっかなー」ができるようになったのだ。


 そこで早速、今日の僕は「レベルアップという目標を達成したから、今日は早めに切り上げちゃおっかなー」をすることにした。


 すっかり我が庭のように慣れてしまった魔の森(ただし入り口近辺に限る)を、緑色のスライムがぴょんぴょんと軽やかに跳ねる。


 アントラービットやアーマードボアが群れで出てきたところで、今の僕にとっては怖くもなんともない。

 だったら森の奥に入っていけばいいじゃないかって?

 それは普通に怖いからイヤ。森の奥って真っ暗だし、変な唸り声とかするし、空気はひんやりしてるし、めっちゃ不気味なんだもん。


 別に急いでレベルアップしなくちゃならない事情があるわけでもないから、手堅く狩れる相手でレベルが上がるなら、それに越したことはない。



 そんな甘くて高慢な考えを、神さまに見透かされてしまったのだろうか。

 森を出ようとした瞬間、僕の身体は一切の自由が利かなくなってしまった。


 ぷるぷると身体を振るわせてみるが、何かに引っ張られて動けない。

 こんな状態のところを襲われてはたまらない。


 僕は核をぐるぐると動かして、四方八方を警戒する。

 そして見つけた。


 この罠を仕掛けた犯人。

 暗闇に光る八つの赤い目。

 毛の生えた脚がカサカサと擦れ合う音。


 こちらが動けなくなっていることを確認して、用心深く八本の脚で近づいてくる。


 視認した瞬間、体中がぷるぷるっと震えた。


 敵は体長2メートル以上もありそうな、ジャイアントスパイダー。

 僕が囚われているのは巨大な蜘蛛の巣、ということだ。


 とにかく巣から逃げ出さなくては。

 僕は糸があるであろう場所に溶解液をぶっかける。

 しかし、ジャイアントスパイダーの糸はびくともしない。


 カサ、カサカサ。

 八本の脚で不規則なリズムを刻みながら、じりじりと僕に迫ってくる。

 捕らえた獲物を確認しながら、それでも油断せずじっくり慎重に。

 なおかつ、獲物の反応を楽しむように。


 糸がダメなら本体だ!

 僕は近づいてくるジャイアントスパイダーに向けて、麻痺液を飛ばす。


 ジャイアントスパイダーはサッと横に跳んで麻痺液をかわし、何事もなかったかのように近づいてくる。


 もう一度!

 やはりかわされる。


 もう一度! 今度はフェイントを入れて飛んだ先に!

 それでもかわされる。


 徐々に近づいてきているのに、一向に当たる気配がない。

 それどころかフェイントも全部読まれている。


 迫りくる巨大蜘蛛の恐怖。

 僕は為すすべもなく、ジャイアントスパイダーに飛び掛かられた。


 突き立てられた牙。

 僕の緑色の体液に、なにやら濁った液体が注入されていく。

 身体中に黒い筋が走る。


 そういえば前に、「蜘蛛は獲物に麻痺毒を流し込んで動けなくしてから、ゆっくり食事をするんだよ」ってマリウスが得意気にしゃべってたっけ。


 そうか。僕はこのまま動けなくなって、ジャイアントスパイダーに喰われていく運命なのか……。


 イヤだ! こんなところで死にたくない!

 せっかく、人間の姿に戻れるようになったのに。


 調子に乗ってごめんなさい。なんでもするから助けてくださいぃぃぃぃっ。


 こんな命乞いを聞いてくれるほど、神さまは優しくない。

 ああ、もうダメだ。僕は死ぬんだ。さようなら、みんな。

 マリウス、僕のぶんまで元気に生きてくれよ。 


 神さま。僕はこれより、あなたの御許に参ります…………。


 ……………………ん?

 ……んん?

 よく考えたら、僕の本体って核だから、体液に毒を流し込まれたところで関係なくない?


 ってことは、もしかしなくても、身体動くんじゃない?

 体内で麻痺液の生成をしてみる。うん。特に問題ない。


 身体をぷるぷると動かしてみる。

 引っ張られる感覚はあるものの、動けてはいる感覚がある。


 あ、これイケるな。

 体液を圧縮、収束。


 よし、いくぞ。

 えいっ!


 しがみつくようにくっついていたジャイアントスパイダーの顔面に向かって、僕は麻痺液をぶっかける。さらに毒液。ついでにさっきのレベルアップで覚えた睡眠液も喰らえっ。


 牙から麻痺毒を注入していたジャイアントスパイダーが、ゼロ距離からの攻撃を避けられるはずもなく、ドサリとひっくり返った。


 どんな悪夢を見ているのか。

 ジャイアントスパイダーは仰向けのまま、ひくひくと痙攣している。


 しばらくして、ジャイアントスパイダーの動きが止まり、神の啓示が鳴った。


【しゅぞく<スライム>れべる5】

【<ブライム>にへんしんか】

【アビリティ<くらやみえき>をかくとく】

【しゅぞく<ふし>をかいほう】


【しゅぞく<ふし>れべる1】

【<ゴースト>にへんしんか】

【アビリティ<コールドブレス>をかくとく】


 ……は?

 待って待って待って! 

 ちょっと待って。


 多い、多い。

 なんかいつもより情報量が多い。



 不死? ゴースト?

 な! に! そ! れ!


 どうやら僕が変身できるのは、スライムだけじゃなかったみたいだ。


カクヨムにて先読み更新中

→https://kakuyomu.jp/works/16818792437653682620

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