閑話・やっぱり血は争えないのね……。
──これは、少し遠い未来のお話。
陽だまりが差し込むローベルト家のサロンには、紅茶の香りと穏やかな時間が流れていた。
そんな中、まだあどけなさの残る少年──セラフがぱたぱたと音を立てて駆け寄ってきた。
目を輝かせながら、母である私のスカートにしがみつく。
「ねぇお母様! ルクルおじちゃんのところに、赤ちゃんが生まれるんでしょう?」
「そうよ」
ティーカップを置いた私は、柔らかく微笑んで頷いた。
「きっと小さくて可愛いわよ。優しくしてあげてね」
「うん、もちろんだよ!」
胸を張って答えるセラフの瞳は、きらきらと興奮に満ちていた。その様子があまりに微笑ましくて、思わず目を細める。
「僕、いっぱい大事にする! 毎日会いに行って、宝物みたいにするんだ!」
──うん……?
「た、宝物のように?」
一瞬、言葉を反復して聞き返したのはどこかで既視感のある表現だったからだ。
(……誰かに似ているような……気のせいかしら?)
「そうだよっ! しかもね、産まれてくるのは女の子だよ!」
「そう、なの?」
「そうだよ! 僕、分かるもん!」
根拠のない確信に満ちた声。
私が困ったように微笑を浮かべると、セラフは無邪気なまま言葉を続けた。
「女の子ならいいよね? ふわふわで、小さくて、可愛くて──僕のお隣にいてくれるの!」
「そ、そうね……いい……わね……?」
微笑みを保ったまま、頬がピクリと引きつる。
この感覚、どこかで──いや、何度も経験している気がする。
数年前にリアンに向けて感じたのと全く同じ嫌な予感が、背筋を這い上がってきた。
「ねぇお母様! その子の部屋、僕の隣にしてくれる? そしたらすぐに会えるし──迷子にならなくて済むから!」
屈託の無い無垢な笑顔を向けられるが、すぐに返事をしてあげることが出来ず笑顔のまま固まってしまう。
「……わぁ、さすが俺の子だね」
不意に背後から聞こえてきた声。
リラックスした様子で紅茶を啜っていたはずのリアンが、思わず椅子を少し乗り出して驚いていた。
「……ローベルト家の血筋、怖すぎませんか?」
冷や汗を流しながらつぶやく私にリアンはひょいと肩をすくめる。
「うん、ちょっと俺もびっくりしてる。やっぱり血は争えないってことなんだね」
リアンがあまりにも真顔だったので、私はそっと頭を抱える。
まだ何も知らないルクルは、今どこかで「名前はもう決めてあるんだ〜」なんて嬉しそうに笑っているに違いない。
(……ごめんね、ルクル)
心の中でそっと合掌しながら、アリアは我が子の未来を案じた──が、それはもうどうにもならない“運命”なのかもしれなかった。
ちょっとしたホラー展開だったかもしれません。
これにて完全に終幕です。
ありがとうございました!
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