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閑話・街中の邂逅と思い知らされる愛。

本編であまり甘々に出来なかったのでここで……。

※本当に極わずかですが、やんわり朝ちゅん要素有りのため苦手な方はご注意下さい。

──これは、とある休日のひとコマ。


 久しぶりの外出に心を弾ませながら歩いていたところ、歩く人と肩がぶつかってしまった。浮かれ過ぎていたのだろう。完全に私の不注意だ。

 慌てて振り返って謝罪を口にする。


「すみません……!」


 だが、そこで返ってきたのは、予想外の反応だった。


「あ」

「げ……」


 驚いたような声と、露骨に嫌そうな呻き声。

 顔を上げてみれば、そこにいたのは──かつてリアンファンクラブに絡まれた私を助けてくれた、あの二人の青年。

 変わった二人組だったから忘れられようもない。


(そういえばあの時のお礼を言えてなかった……)


 その事を思い出し、今度はお礼の言葉を口にする。


「あの時は本当にありがとうございました。お礼もろくに言えず……」


 ぺこりと頭を下げると、フードを深く被った青年が小さく微笑んだ。


「いや、大丈夫。それより──君も無事そうで何よりだ」


 その視線には、なにかを見透かすような含みがあった。


「全然無事じゃねぇけど。ったく、また会うなんて……ホント運がねぇ」


 もう一人の、金髪で寝癖の目立つ青年が舌打ち混じりに私を睨む。


「……なんかこの方、失礼じゃないですか?」

「礼儀がなってない奴で、ほんとすまない」


 フードの青年が困り顔で軽く頭を下げる。


「いやいや、俺は悪くねーでしょ? ……つーか、お前もマジで近寄らねー方がいいって。危険度、跳ね上がってるぞ?」

「それは分かってるが、無下にも出来まい」


 金髪の青年がぼそっと呟いたその言葉に、嫌な予感が背筋を走る。


「……今なんと?」


 聞くのがとても恐ろしいが聞かなければならない気がする私は怖々と聞き返す。


「お前が時限爆弾になってるってこと」

「……時限爆弾」

「前より“かかってる術”が強くなってんの。ていうかもう、あれは“呪い”ってレベルじゃね? バージョンアップエグすぎ」

「……ばーじょんあっぷ」


 嫌な言葉の羅列しか聞こえて来ず、私は頭がクラクラしてくる。


「確かに、威力は相当数上がっているようだ。次はお前の腕が完全に無くなると思う」


 フードの青年が冷静に断言する。冗談にしては冗談が過ぎる。


「触らねーよ? 絶対触らねーからね?」


 金髪青年が一歩後ずさると、フードの青年も小さく肩をすくめた。


 ──そしてその時だった。


「……アリア」


 聞き慣れた声が、私の後ろから降ってきた。


 次の瞬間、すっと腰に腕が回され、リアンに優しく抱き寄せられる。

 頬にかかる金髪が揺れて、甘い紅茶と香水の匂いがすぐそばに満ちる。


「……また会ったね?」


 リアンの微笑みは、いつも通りの柔らかさを保っていた。だがその眼差しには、あたたかさのかけらもなかった。

 “敵を見定める狩人”のように、静かに、残酷なまでの無言の圧力をその場に走らせる。


「……爆破予告されたじゃん、最悪」

「じゃぁ迎えも来たようだから俺たちはこれで。なんというか……君も難儀なものだな」


(なんか同情されている……)


 金髪青年は不機嫌そうに、フードの青年は苦笑。そんな不思議な二人組はあっさりと退場したが、残された空気は張り詰めたまま。


「……リアン?」

「……思ったよりお店が混んでいてさ、待たせて悪かったね。でも、アリアの好きな菓子はちゃんと買えたよ」


 何事もなかったかのように、淡々と会話を進めようとするリアン。

 だが私は先程言われた話の内容が気になって仕方が無い。


「……バージョンアップって、何?」


 その言葉に、リアンは静かに固まる。

 表情は変わらないまま──明らかに、言葉を失っていた。


「……さ、次はどこへ行こうか?」

「誤魔化さないの!」


 問い詰める私に、リアンは肩をすくめると──ゆっくり、意味深な笑みを浮かべた。


「本当に聞きたい? アリアの覚悟があるならちゃんと話すけど」

「聞きます」

「……そう、後悔しないでね」


 ──その日の買い物は、そこで終わった。

 リアンの含みがありそうな言い方が妙に気になったが、二人組が言っていた“時限爆弾“や“バージョンアップ“とやらが気になり過ぎてそれどころでは無かった。


 買い物から帰宅した私は、リアンが手渡してくれた菓子の袋を大切に抱え、自室のドアをくぐった。

 たったそれだけのことが、どうしようもなく嬉しい。思わず頬が緩みそうになるのを必死に堪える。


(今はさっきの事を聞かないと!)


 私は覚悟を決めて彼の方を振り返る。


「リアン、さっきのことなんですが……」


 リアンに詰め寄り真剣な声で切り出すと、リアンは意外そうに眉を上げ──次の瞬間、愉しげに笑みを浮かべた。


「今日はずいぶん積極的だね?」


 そう言いながら、彼は私の腰に腕をまわし、そのままベッドの縁に腰を下ろした。


「ち、違います。ちゃんと話を──あの、リアン、誤魔化そうとしてますよね!?」

「やっぱり誤魔化されてくれないか、残念」


 くすくすと笑う彼は、全く残念そうな顔をしていない。むしろ、嬉しそうにさえ見える。


「“時限爆弾”って何のことですか? “バージョンアップ”って……あの方々に、明らかに以前より警戒されたのですけど」

「文字通りの意味だよ。君にかけてる術を、少し強化しただけ」

「……少し?……本当に少しですか?」


 私が疑いの目を向けると、リアンはバツが悪そうに顔を逸らしながら答えた。


「俺にとっては“ちょっと”なんだよ」


 即答されたその言葉に、胸の奥で警報が鳴る。いや、それはもう絶対に“ちょっと”では済まされない。絶対にそんな可愛らしいものではない。


「今すぐ解除してください」

「嫌」

「嫌って、そんな子供みたいに……」


 いつもは大人びて落ち着いた彼が、こうして子供のように拗ねてくるのは、決まって二人きりの時。

 そしてそれは、彼が本気で“甘えて”いる証拠でもあった。

 頑なに嫌だと言い張るリアンに私は解除させることを一旦諦め、嫌な理由を聞いてみることにした。


「……なんでそんなに嫌なんですか?」

「嫌に決まってるでしょ。なんで、分からないかな」


 ふっとやや苛立ちの感情が混ざった声音で呟くと、リアンは不意に私の唇を奪った。

 熱を孕んだキスが言葉の代わりに降ってくる。優しく、けれど逃がさないように──まるで私を“縛る”かのように。

 深く。熱く。繰り返し何度も行われるキスは私を言葉ではなく体で説得するように思えた。


 やがて息も絶え絶えになった私を見て、彼は満足げに目を細めた。


「俺はね、嫉妬深いんだよ、アリア」


(……嫉妬?)


 荒い呼吸を整えながら問い返すことも出来ずに見つめる。

 でもリアンはそんな私の言いたいことを全部分かっているようだった。


「アリアは俺のものになってくれたはずだよね?」

「……なって、ますよ」


 小さく頷く。

 数週間前──私は彼にちゃんと“答え”を渡した。リアンの想いを受け止めて彼の恋人になった。

 今日のデートだって、その延長のはずだった。


「なのに、なんで他の男と関わるの?」


 彼の声にはやっぱり苛立ちと、わずかな寂しさが混ざっていた。

 そして私以外に向けられている敵意も。


「あれは本当に偶然で……以前助けてくださった方々にばったり会っただけで──」

「それでも駄目」

「っ……リアン」

「駄目なんだよ。アリアが誰かに向ける言葉も、視線も、全部俺のものであってほしい。……正直に言うと、処分したくなる」


 不穏過ぎる言葉が飛び出してきてぎょっとする。リアンの顔を見るにどうやら本気で言っているようだった。


「やめて下さい」

「一応自制してるからしないよ、アリアが嫌がるし。でも……本当色々我慢してることはアリアにも分かってて欲しいと思ってるよ」


 項垂れるリアンが少し可愛くてその髪を梳きながら笑ってしまう。

 しばらくそうしていたが、やがて突然ベッドへと押し倒されてしまう。


「わっ……」

「こんな苦しい想いをするならやっぱり監禁しとく方がずっと楽だったよ」

「わ、私は監禁されたくないです」

「分かってる。アリアの嫌がることは──”なるべく”しない。だから監禁もしていないわけで」


(嫌がることは──“なるべく“しない?)


 “なるべく”がつく時点で、彼の本性を再び垣間見た気がした。


「でもさ、我慢ばかりだと俺にもいい加減限度があると思わないかな?」

「と、いいますと……?」

「ご褒美が必要ってこと」


 そう言って落とされたキスは、さっきのものよりも柔らかく甘く──けれどどこか妖しい予感を感じさせるものだった。


「俺の想い、まだまだわかって貰えてないみたいだからこれから朝まで教えこんであげるよ」


 明日が休みで良かったねとにこやかに言ってくるリアンの瞳は何故かやたらと艶めかしく細められて、私はその色気に身を震わせた。


「……ま、待って……!」

「待たない。俺はもう散々待ったから」


 甘く囁かれるその声は、優しいのにどこか狂気を含んでいた。


 ──その夜。

 私は何度も彼の“愛”を思い知らされた。


 翌朝、喉の奥がわずかに枯れていることに気づき、私はそっと溜息をついた。


 (やっぱり、愛されすぎるのも──少し困る)


 そう思いながらリアンの残した温もりに包まれ、そっと目を閉じた。


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