閑話・親子の会話。
二人を心配する家族のお話。
これはローベルト家での、とある平和な──しかし異常性を孕んだ──日常の一幕。
「リアンはしっかりアリアを落とせるだろうか……」
サロンのソファで紅茶を片手に、深刻そうな声を上げたのはうちの父、ローベルト卿。
窓の外にはよく手入れされたバラ園が広がっている。そんな優雅な雰囲気の中で、飛び出す発言がどうにも物騒だった。
「そんなに心配しなくても大丈夫よ、リアンは貴方にそっくりだもの」
その隣で、柔らかく微笑みながらそう答えるのは母。まるで天気の話でもしているかのように軽い口調だった。
「……」
一連の会話を聞いていた俺は思わず眉をひそめた。
口に運ぼうと手にしていたクッキーを置き、冷めた声で言う。
「その……“そっくり”っていうのがあの監禁部屋の事をさしてるなら、相当悪趣味だからな」
過去に一度、本人も閉じ込められかけた記憶がよみがえる。あの異様な“愛”の空間に。
「それもあるけど」
「あるのかよ」
「幼い頃からリアンはローベルト家の血筋がそれはもう強く出ていたんだもの」
母の言葉に俺はげんなりと天井を仰ぐ。
ローベルト家の“血”──それは、ただの性格や好みの問題ではない。もっと根深く、避けようのない“呪い”のようなものだった。
「あれは……アリアを見付けた時からだったな」
父の低い声に、俺は疑問に思う。
「……姉様がここに来たのって七歳とかそこらだったよな。その時点で兄様は目を付けてたって事?」
父と母は、顔を見合わせてうなずいた。
「そうよ。だから元々リアンのお嫁さん候補としてアリアちゃんを引き取ったのよ」
うふふ、とまるで悪戯がバレてしまったかのように笑う我が母の言葉に絶句してしまう。
「……我が親ながら考え方、ぶっ飛んでんね」
呆れ半分、本気半分。
思わず出た本音に、母はにっこりと微笑む。
「ルクルにもローベルト家の血が流れてるんだから、そのうちきっと分かるわ」
「分かりたくないんですけど」
速攻で突っぱねたが、内心では嫌な予感をヒシヒシと感じていた。
「ローベルト家の昔話、聞かせたでしょう?」
母に紅茶を一口含みながら問われ、眉間にしわを寄せながらも頷く。
「あぁ……覚えてるよ」
幼い頃、眠れない夜に母が語ってくれた神話のような“おとぎ話”──
一人の女性を愛してしまった神が、自身の姿も力も捨てて、ただその女性だけを想い続けたという狂おしい物語。
彼女が他の誰かに微笑みかけるたび、神は静かに嫉妬し、彼女が涙を流せば、この世界のどこかが崩れたという。
そして神は、とうとう人となり、彼女の傍に留まり続ける存在になった。
──その神と人の間に生まれた子が、ローベルト家の始祖……だと言われている。
「血には逆らえないのよ」
母の囁くような言葉に、俺は寒気すら覚える。
「……怖すぎ」
冗談ではなく本気だった。
そんな想いをするくらいなら、“運命の相手”なんて一生いらない、と心底思う。
──だが。
そんな俺がいずれ“身を焦がすほどの想い”に苦しむことになるのも……今はまだ予想すらしていなかった。




