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ヒロインな兄様は私にだけ愛が重すぎる。

 かくして──私の“兄離れ計画”は、壮大に頓挫したのでした。


 閉じ込められた末に「俺も“兄”を捨てて──君を手に入れるよ」と言われたあの夜を境に、何かが決定的に変わったような、変わっていないような日々が続いている。


 相変わらずリアンは私を甘やかしてくるし、隙あらば触れようとしてくるし、時にはどこから持ってきたのか彼のようにとびきり甘いお菓子でご機嫌を取ってくる。


 変わったことといえば、私の呼び方が「兄様」から“リアン“に変わったくらい。


 それから……。


(リアンがあの“鳥籠の部屋”の鍵を手元から離さなくなったことくらいかしら……)


 それについてはもう乾いた笑いしか出ない。


「アリア。あんまり待たせると、またあの部屋が開くかもね?」

「冗談じゃなく聞こえるからやめてください!」


 時々、リアンが冗談とも本気ともつかない目で言ってくるその言葉には心底ゾッとさせられている。


 ちなみにルクルは、あの一件のあと何かしら“罰”を受けたらしいが──詳細を尋ねると、彼はただそっと目を逸らすだけだった。

 ……合掌。


 さらに驚いたことに父様と母様は、リアンの私への感情に最初から気付いていたらしい。


「旦那様もね、昔はリアンそっくりだったのよ。アリア専用の部屋を作り始めた時に『あっ血筋だわ〜!』って思ったもの!」


 そう満面の笑顔で語る母様に、私は引きつった笑いしか返せなかった。


 そして今日もリアンは、当たり前のような顔でこう宣った。


「アリア、ここにサイン書いてくれる?」

「……なぜ?」


 読書中、突如としてリアンが差し出してきた用紙を私は警戒して睨む。


「次のパーティの参加証の記入だよ」

「……その左手に持ってるのが、参加証ですよね?」

「そうだよ」

「……右手で差し出しているそれは?」

「婚姻届」

「リアン!!」


 一体何を考えてるの、この人は。


 ──変わらない日常、少し変わった関係。

 でも私は、これまで見ないふりをしていた兄の“気持ち”に、ちゃんと向き合ってみようと決めたのだ。


 ──変わらない日常、少し変わった関係。

 でも私はこれまで見ないふりをしていた兄の気持ちにちゃんと向き合ってみようと決めたのだ。

 これが家族としての愛なのか、それとも恋なのか──

 まだ分からないけれど、例えどんな形であれリアンを否定するつもりはない。


 私はもう逃げることはしない。


(そう、私はたぶん──)



“誰より重たい愛”をくれる兄様の、唯一のヒロインなんだと思うから。






*****



──それから、季節がいくつか流れて。


 鳥籠の部屋は未だリアンの部屋の隣に残っているけれど、私は辛うじてそこに閉じ込めらずに済んでいる。

 リアンはあいかわらず私に甘いけれど、無理に答えを求めるようなことは言わなくなった。

 ただ、当たり前のように私の隣にいてくれる。

 気付けば私も、そんな彼の名を呼ぶことに慣れていた。

 最初は照れくさくて、呼ぶたびに鼓動が跳ね上がったけれど……今では、もう自然に口をついて出る。


「リアン、なんだか今日の紅茶ちょっと苦くありませんか?」

「それはアリアが眠そうにしてたから、気付け薬の代わりにしたんだよ」

「また人に断りもなく!」


 けれどそんなやり取りもどこか心地いい。


「アリア、ちょっとだけいい?」

「何? また妙な書類ですか? 絶対にサインしませんからね」

「いや、今日は違うから安心して」


 差し出されたのは彼の手。

 どうやら握りたかっただけのようだった。

 リアンは普段容赦無くあちこち触ってくるくせに、たまにこういう事がある。

 それが妙に可愛く、愛おしく感じてしまって、私は小さく笑って差し出された手をそっと握り返した。

 握った手は暖かく、私は確かに幸せを感じていた。もうこの手を離す事など出来ない気さえした。


 妹から逸脱するのが怖かった。

 兄に対してよこしまな気持ちを持っている自分が恥ずかしかった。

 リアンの気持ちを知ってからすぐ答えられなかったのは、私に妹を辞める勇気がなかっただけ。

 リアンの歪んだ気持ちを受け止めてあげる自信がなかったから。

 けれど。


(もう決めたから、迷わない)


 これからもリアンは私を困らせるだろう。

 独占欲も、嫉妬も、きっと手加減なし。

 私のために全てを捧げて、どこまでも愛してくれる。

 ……その愛は、少し──いや、だいぶ歪んでる。

 でも。


 だったら、その歪みごと、まるごと愛せばいい。

 ただそれだけの話だ。


(たくさん困らせられてきた分、今日だけは私の番──それくらい、許してもらえるよね)



 とうとう、私の答えを伝える時が来たのだ。



「ねぇリアン。私ね──」



 もう貴方の妹は卒業することにする。

 

……だからその婚姻届は、もうちょっとだけ待って。



ここまでお付き合いいただきありがとうございました!

本編はこれで終了になりますが、18時から19時までの間に3本閑話が更新されます。

2人を心配する家族の話だったり、本編で甘々出来なかったので甘々にさせてみたり、ちょっとした未来の話だったり……。

よければそちらもご覧いただけたら嬉しいです。

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