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そして始まりに戻るのです。

──あれから、数分。


「……私に、魔法をかけてたのは……兄様なの?」


 転移魔法でリアンに連れられ、自室へ戻る道中。私は恐る恐る尋ねた。

 私としてはかなり勇気のいる質問だったのだが、思いのほか兄様はあっさりと頷いた。


「うん。追跡と保護、二つの術をね。──ずっと前から、かけていたよ」

「……そんなの、聞いてません」

「言う必要がなかったからね」


 さらりと告げられたその言葉に、私は返す言葉を失う。


「それにしても、ルクルも……やってくれたよ。まさか君を“わざと”迷子にさせるとは思わなかったな」


 リアンの声が、また一段とうっすら氷の膜を纏ったように低くなる。


「……後で、ちょっと“お仕置き”が必要かな」


 ルクルが私をわざと迷子にさせる意図が分からなかったけれど、兄様がそう言うのであればきっと間違いは無いのだろう。

 だからといってルクルに酷い目にあって欲しくは無い。


「……お願いだからやめて下さい」

「少し、考えておくことにするよ」


 ルクルの無事を祈りつつ、私は唇を噛んだ。



 やがて転移魔法の光が瞬き、私の足元がぐらりと揺れる。


 ──着地したのは、見たことのない部屋だった。


「え……ここは……?」


 すぐに気付く。

 不自然なほど閉ざされた空間。窓がない。扉も一つだけ。天井は高く、室内には何もない。

 見覚えの無い部屋だった。


「ここはね、僕の部屋の隣に作った──“アリアのためだけの部屋”だよ」


 リアンは静かに、けれどはっきりとそう言った。


「使うつもりなんてなかった。出来れば、使わずに済ませたかったよ」


 一つ、リアンが私の方へ歩みを寄せる。

 私は嫌な予感しか感じなくて後ずさる。


「でも──もう、限界なんだ」


 ぞわり、と背筋を氷の指で撫でられたような感覚が走る。


「に、兄様?」


 ここはまるで牢獄のようだと思った。

 壁は滑らかすぎてよじ登ることもできず、扉には錠前どころか隙間さえない。

 外へ通じる道は、リアンの部屋を通らなければ存在しない。


(逃げ道が、ない)



*****



 ──こうして、話は冒頭に戻るわけで。


「ね、アリア。どうして何度言っても分かってくれないのかな?」


(言ったって何を? 私は何も聞いておりませんが……!)


「ある程度のことは許容してきたけれど、俺から離れるのは駄目でしょう? 俺がどれだけアリアを大事に」


 大事にしてもらっていることはこの身をもって本当にもう重々承知しております。


「兄様、聞いて──」

「うん、聞いてるよ」


私が言い終わる前に即時返ってくる言葉。

けれど、その響きは優しいどころか、どこか最初から私の言葉など必要としていないようにさえ感じられた。


(“聞く”って、言葉を遮ることじゃないんです……兄様)


 なんて言ったら伝わるのかもう分からない。

 泣きたい気持ちに駆られるが、泣いていても状況が変わるわけが無いのを理解しているためグッと堪える。


「俺も、やっぱり……“閉じ込めるしかない”って、思ってた」

「──はい?」


 そして、すべては動き始める。


 これはプロローグのその続き。

 私が兄様の鳥籠を壊すための、始まりの一歩だった。


短いのでもう一本、追加で18時に上がります。

ルクル目線。

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