婚約者とどうしても結婚したいので男装して寮に入りルームメイトになりました。どうやら卒業までバレないようです
「第6回小説家になろうラジオ大賞」参加作品です。
拙作「ルームメイトのおかげで無事卒業できたけど卒業後の結婚相手が一度しか会っていない女の子で不安に思ってた。でも、全く心配なかった」のジョイ視点のスピンオフです。
【キーワード:卒業 ルームメイト】
「もうすぐ卒業だなあ。ノア」
「そうだなあ。3年って早いよなあ。ジョイ」
卒業まで後一週間。同室のノア様にはまだルームメイトである私ジョイの正体が婚約者のジョイ・ギルフォード伯爵令嬢だとは、ばれていないようだ。
幼き日、初めて婚約者であるノア辺境伯令息と会った時の第一印象は「腕白そう。ちょっと怖いかも」だった。
しかし、すぐそれは杞憂だと分かった。樹上高くに咲いた花を見つけた私が何の気なしに「綺麗」と言うと、「うん綺麗だな。よし」と言うが早いかするすると木に登り、枝をぽきんと折って、「ほら」と言って笑顔で渡してくれた。
こんなのは序の口で、別の木からは木の実をたくさん取ってきてくれたし、川に行ったら銛で魚を捕り、その場で焼いてくれるというサービスぶりである。だけど、私が一番ノア様に惹かれたのはこの後にあった出来事だった。
私は甘い香りに誘われ城の隣の畑にあるベリーを見つめていた。「食べたいな」とは思う。でも貴族だからと言って、勝手に取って食べてはいけないということは知っていた。
そんな私にノア様は「食べたいの?」と笑顔で問うた。私が小さく頷くと、ノア様は畑にいる人に声をかけた。「サイラスさーん。ここにあるベリーいくつか売ってよー」
あっけに取られる私を尻目に農家のおじさんは「ノア坊ちゃん。自由に食べていいといつも言っているじゃないですか」と呆れたように言う。
「そうはいかないの。領主の息子が領民の物を勝手に食べるなんてもっての他なの。銅貨一枚分ちょうだい」
「そんな悪いですよ」
「そう思ってくれるなら、この銅貨でいい肥料買って、もっとおいしいベリー作ってよ」
そのベリーはとても甘く、私は決心した。絶対にこのノア様と結婚すると。この人だったら絶対にいい国を作れると。
王立高等学院への入学前、私は王都で両親同席の上でノア様のご両親に「何ともしてもノア様と結婚したいので、悪い虫がつかないように、男装して男子寮に入り、ノア様のルームメイトになります」と打ち明けた。
初めは驚いていたノア様のご両親だが、最後は「ふつつかな息子だけど、よろしく頼む」と言ってくれた。
いかに鈍いノア様でも三年間もルームメイトをやっていたら正体を見破られるかもと思ったけど、大らかな性格なせいか全く気づかれない。
私はノア様のそういう大らかさも好きになっていった。
卒業まであと一週間。正体を明かした私にノア様はどんな顔をするだろう。
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