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お決まりの展開

 喜び騒ぐイケメンの声で多くの者たちが顔を出してきた。


「これは何事でございましょう?」


 修羅が俺の前へと現れ、手にした光り輝く太刀を見ている。ここで説明しない訳にはいくまい。


「これか?こういう太刀だ」


 子供の体に合わせて少々小さな俺の鎧姿に、大太刀と言う不釣り合いなそれ。パワードスーツだからこそ振り回せるソレを、何の勢いも付けずに石へと添わせと、まるで水に沈むかのように抵抗なく石の中へと沈み込んでいった。カラッと斬れた石が分かれて音を立てる。


「輝鋼剣は世の理に従って、ほぼすべてのモノを斬る事ができる。斬れない物は幻のみだと言われているそうだ」


 そんな解説が、このチート武器にはなされていたはずである。詳しいことは知らんし、何ならニワカな俺は持っていなかった。運が悪いと万のカネをつぎ込まなければ手に出来ないのだと掲示板に書き込まれていたほどのレア武器であり、たしか、輝鋼石を揃える条件にもやり込み要素が必要だった気がする。

 やり込んだ上に課金まで要求するギャンブル性の高い武器。そんなモノは一部のプレイヤーしか手にはしておらず、実況動画で無双しているシーンを見た事があっただけだ。


「父上、これがあれば加田をも打ち倒せましょう!」


 やはりというか、イケメンがそんな事を口にし、より多くの輝鋼石を集めるなどと言い出した。俺に止める理由がある訳もなく、イケメンは「妖鎧閉装(ようがいへいそう)」と唱えて着物姿へ戻ると、早速行動に移すようだった。


 イケメンが飛び出して行ったあと、修羅な父親が俺へと詰め寄って来た。


「殿、このような妖刀、どのようにして手に入れられたので?」


 怖い顔を更に険しく聞いてくるので、しどろもどろになりながら、無いこと無い事話をでっち上げてみた。


「なるほど。たしかに鎧を呪符に収める事ができる以上、呪符を用いて武具を作り出すと言った事も可能かもしれませんが、かもしれないという話であって、どのように創り出されたので?」


 と、聞かれても知らん。ゲームの仕様がそうだったから、ガチャ回せるんじゃねぇ?と考えたに過ぎない。それ以上の事は製作陣ではないので解りはしない。


「まあ、良いでしょう。より多くの輝鋼石を用いて同じことをやってみれば、おのずとわかる事」


 そう、怖い顔により怖さを増している修羅。


「安威よ。その方は家久様の御身を守る事、忘れるでないぞ」


 そう言えば、目を離した間に石と言う石を切り伏せて遊んでいた美少年。修羅は目を離していた訳では無かったらしい。


「はい、もちろんでございます」


 返事だけは立派な美少年だが、後ろの惨状はどうするのだろうか。もはやどう手を付ければ良いかすら分からないのだが。館の庭がただの瓦礫で埋まっているではないか。


 数日後、また大量の輝鋼石を持ち帰った汚れ切ったイケメン。


「これだけあれば、いくつの妖刀が作れましょうや」


 ドヤってそう父親に言っている。


 俺が修羅にたいして祝詞を教え、主だった者たちが先日の俺たちの様に輝鋼石へと妖鎧符をかざして祝詞を唱えた。


 半分以上はただ砕けただけに終わり、成功したのは6人ほど。


 イケメンはそれでは納得せず、さらに輝鋼石を集め、18人すべてに輝鋼剣を装備させるという執念を見せた。

 ひと月かかったけどね。


「殿、時は今かと。太川貴直。宿敵加田を討ち滅ぼしとう御座います」


 館に居る主だった家臣に輝鋼剣が行き渡ると、修羅が畏まってそんなことを言い出した。


 喜多家と言うのが本来、伊那加を治める領主の家であり、加田家は家老の家柄だったらしい。しかし、時は戦国、自らが覇を唱え、下剋上に打って出て力を手にするのが世の習いとなっている。ド辺境でありほのぼのとした片田舎に過ぎない伊那加にも、世の趨勢が聞こえて来ていたその時、わが父、喜多玆久(きた これひさ)が病に倒れた隙を衝いて謀反を起こした加田がまんまと城を乗っ取り、今に至るらしい。

 俺は修羅の手によって弩伊那加の館へと逃げのびる事で生き永らえることが出来たが、手勢は僅か。わずか10歳の稚児の身では、この乱世で城を取り返す手段も無かったとの事らしい。


 そこに降って湧いたのが、近くで簡単に採れる輝鋼石という光り輝くとても硬い石。照明器具としては重宝するのだが、それ以外の使い道が存在しない代物とみられていたソレから作り出された光り輝く太刀である。

 何でも斬れる太刀は石を斬り、木を倒し、鉄も切裂いてしまった。試していないのは妖鎧だけ。


 試し斬り、したくなるのが男の子だよね?


 俺もだよ。


「そうか、貴直。その方もよくぞ決心してくれた!」


 などと芝居がかった事を口にする俺。


 戦ともなれば準備で多大な時間を要するものだが、そもそも、鎧をまとう武者は20人に満たず、付き従える小姓を加えても50人ばかりと言う小所帯。今回は「ちょっと試し斬りに行って来る」と言ったノリで伊那加城への奇襲をかけるという事で、小姓抜き、鎧武者18人でのお散歩である。


 何?宿敵を討つんだろって?


 家久君の記憶ないんだよな。父親なる人物の事を全く知らん。


 敵は伊那加城っていう砦に居るんだろうって?


 ああ、そうだな。見るからに威容を誇る平山城に見える。まるで日本最小天守を持つ讃岐丸亀城のごとくだ。石垣がキレイ。


 多勢に無勢だって?


 輝鋼剣なら、石垣も斬れるんじゃね?


 という、軽い気持ちで出陣が決まった。


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