イードとフェリクス、秘密の……。
豊かな白い髷を後光のように輝かせ、フェネットの長は堂々たる威容で客人を出迎えた。
大気を震わせ、野の獣たちさえ跪かせる声が、歓喜にわななく。
「おお、そなたが……。こうして見えるのを心待ちにしていたぞ」
フェリクスの視線は、イードに一心に注がれる。花婿探しに里を出た愛娘が連れ帰った男を目の前にしているのだから、当然と言えば当然かもしれない。
「お初にお目にかかります、気高き白の王。わたしもお会いできて光栄です」
いつにないイードの上品な振る舞いに、フェリチェは落ち着かない思いがする。
里に入ってから、今のところ粗相はない。
どうかこのまま気に入ってもらえますようにーーとフェリチェが祈っていると、何か感じるものがあったかフェリクスが突然おとがいを解いた。
「はっはっは! かしこまるでない! それより……先日の傷薬の調合法は、たいへんわかりやすく、効能も上々で、幼子を持つ者たちが喜んでおったぞ」
何のことか、と面を上げるフェリチェの隣で、あろうことかイードが口を開く。それも先程とは打って変わって、お馴染みの悠然とした物言いでだ。
「そう、それはよかった。材料を手に入れるのは大変ではなかった?」
「うむ、実はあの薬草がな……なかなか採れない」
「ああ、それなら今の時季は、別のもので調合できるかもしれない。アンシアにもあるかな? 調査も兼ねて、後で山に入ってもいい?」
「おお! それは興味深い。よいぞ、ルタに案内させるゆえ、好きなだけ見てくるがいい」
二人はまるで旧知の仲のように、砕けて語り合う。
フェリチェとルタは呆然と、同じほうに首を傾げた。
「お父様? お話が見えませんわ」
「うむ? なんだ、イードは話しておらんのか」
「実は俺たち……」
文通をしていたんだ――、と声が揃う。
思いも寄らぬ事実に、フェリチェは姫の品位も放り捨てて、大きな声をあげた。今日ばかりはルタも咎められない。なにせ、同じように驚いているのだから、言えた立場でなかった。
同じ郵便受けを使っていながら、フェリチェがこれまで気付けなかったことと、ギュンターが訳知り顔で頷いている様子を見るに、手紙の窓口はどうやら彼だったらしい。
最初の手紙は、フェリチェと出会った翌日に出したとイードは白状した。
「年頃の女の子を預かる以上、何も知らせないのもね」
アンシアに向かう船乗りに、大胆にもフェリクス名指しで手紙を託したという。
人間の娘と違って、住まいが明白で助かったと彼は揶揄した。
「フェリチェの手紙が届くより先に、わたしはイードからの手紙を受け取っておったのだ」
その後は、船便より速い隼便を使って、秘密裏にやり取りしていたという。
「そういうわけでな。かしこまった挨拶も紹介も不要。どれ、フェリチェ。お前の山程の土産話を聞かせておくれ」
「もう……もう、もうっ!! お父様もイードさんも、お人が悪い! フェリチェに内緒で、すっかり仲良くなっていたなんて!」
父の威厳を振り翳すフェリクスと、追い詰められたイードの間に入って、仲を取り持つ覚悟でいたフェリチェは、とんだ拍子抜けだ。
だが問題はそこではない。フェリクスの前では珍しく、ルタも口を挟まずにいられなかった。
「そうですよ。一言仰ってくれれば、俺だってあんな真似しなかったのに」
これではとんだ道化者だと、ルタは自嘲する。
すべてはフェリクスの掌の上。何もかもお見通しで、ルタがイードと対面するように仕向けたのだと気付いたら、面白くなかった。
その後もフェリチェとルタは何やかやと抗議の声をあげてはみるも、フェリクスは鷹揚と構え、イードも泰然としていて、まったく手応えを感じられなかった。
舅と婿……気が合うのは、どこか似ているところがあるからだろう。
終.




