誠実
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「ふう、満たされた!」
林檎とチャルミのケーキに爽やかな甘さが特徴のアンシアレンゲの蜂蜜をかけたものを、男たちの三倍は腹に収め、大満足の笑顔のフェリチェだ。
温かい茶で一息ついて、椅子にゆったりと背を預ける。
「どうだ、ルタ。美味かっただろう?」
「はい。食が進んで、つい限界を超えて食べてしまいました」
ルタはひとしきり謝意を述べた。
それから静かにティーカップを置くと、幾分か声を整えてかしこまる。
「次はぜひ、アンシアへお越しください。こうも手の込んだものとはいきませんが、フェネット伝統のチャルミ餅をご賞味ください」
「ああ、チャルミ餅なぁ……。秘伝のタレが美味いんだ。あれは里でないと食えない」
満腹と言ったはずが、フェリチェは涎を垂らす。
「お招きいただけるのなら、ぜひ行くよ」
「その際イェディェル殿は、どういったお立場で我らの長にお会いになるんです?」
「ルタ!」
少々不躾な言い方に、今度はフェリチェがルタをたしなめる。イードは案の定と言うべきか、いつものようにどこ吹く風だ。
「ごめんよ、ルタさん。食事が落ち着いてから、ゆっくり話せればと思っていたからさ。でもその様子だと、チェリから少なからず聞かされた様子だね」
「……ええ」
「じゃあもう、かしこまった挨拶はいらないね」
こんな時くらい、格好つけて話してくれたっていいのに、と少し残念に思うフェリチェは恨めしい視線を投げかける。
もちろんイードはそれも気に留める様子はない。
「アンシアに連れていってくれるのなら、俺をフェリチェの生涯の伴侶として、長殿に紹介してもらいたいな」
穏やかだがきっぱりとした口調で言い切った。
改まって――、それもルタらの前で堂々と宣言されると、フェリチェは期待していたくせに妙に照れ臭くなって、身を縮こませた。
どうしてだか、ギュンターまでもが顔を赤くしてはいるが、左目に光るのは歓喜の涙らしい。髭に埋もれた口許が綻んでいる。
「……お嬢様を深く想われる気持ちは、理解しました。ですが、それだけでは、フェリクス様のもとへお連れすることはできません」
「うん、そうだろうね。ルタさんは、俺の身元を洗っておきたいんだよね?」
固く握った拳を膝に置いたルタと、ゆったりと脚を組み直すイードは、その語気までまるで対照的だ。
「包み隠さず話すよ。ギュンターを呼んだ理由の一つも、そのためなんだ」
二人の関係性を語る上で欠かせない出自と素性を、イードは澱みなく言葉にした。
聞くのは二度目のフェリチェだが、改めて聞いても胸が痛くて、耳はしょんぼりと垂れ下がる。しかしそれだって大切なイードの一部。一言だって零しはしまいと、顔だけは上げていた。
やがて、すべてが語り尽くされると、わずかに重い空気が室内に迫ってきた。沈黙に飲み込まれる前に、真っ先に口を開いたのは、ルタだ。
「保身を図るなら秘するべきことを、お話しくださりありがとうございます」
「チェリの大切なひとたちに、隠し事をするつもりはないよ。いや……? そもそも、俺は別に誰に知られても構わないと思うんだけど」
ギュンターが青い顔で首を振っている。
少し同情を覚えて苦笑した後、ルタはすっと背筋を伸ばして、イードに向き直った。
「イェディェル殿がいかに篤実で、信用に足るお人であるかは、俺も判を捺せます」
フェリチェが、ルタの隣で「では」と瞳を輝かす。しかしルタはそれを見ないふりをして続けた。
「ですが……。オーウェン王家の者というのなら、話は別だ。やはり、あなたにお嬢様は渡せない」
ルタの態度は突如硬化して、イードを見る瞳が冷酷なまでに険を放つ。




