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再会



『親愛なるお嬢様


あなたが里をお出になられて、早いもので季節が半分巡りました。

この手紙が届く頃には、ますます季節が進んでいることでしょう。


……申し訳ない。どうも手紙というのは苦手です。

これ以後は、お嬢様を前に話しているつもりで、筆をとらせてもらいます。いいですよね。


お嬢様からの手紙、読みましたよ。

あのことは、フェリクス様たちには内緒にされて、正解だったと思います。

正直、俺も気が気でありません。本当に、お怪我も何もされていないんですよね?


………………

………………

………………


さて、つい長々と書き散らしてしまいましたが、この度、筆を取りましたのは――。手紙の返事は勿論のこと、実は今度そちらへ訪問することが決まりまして、その旨をお伝えしたかったからなんです。


アンシアの港が凍る前に、この手紙を追いかける形で、船に乗ることになるでしょう。

お嬢様がこれを読んでいる頃、俺は案外、近くの海を漂っているかもしれませんね。』




 ※ ※ ※





 風を孕み大きく膨らんだ真白な帆が、閉じていくさまは、さながら花がすぼむようだ。

 アンシア公国の紅の旗をはためかせ、船はゆったりと波止場へ舳先を向ける。


 やがて渡された板を踏み締めて、乗客たちはヒルダガルデが要衝ユーバインへと降り立つ。

 アンシアからの乗客は少なくとも、次々入港してくる船から降りる者どもと、それらを迎える人々とで港はあっという間にごった返した。


 誰も彼も、手を振り声を上げる。汽笛と波音さえも押し返すような熱気に満ちた港で、友人なり恋人、家族――お目当ての相手を探すのはなかなか骨が折れそうだ。

 しかし皆、不思議なことに、己の求める声しか聞こえていないかのように、振られる御旗のもとへ吸い寄せられていく。


 ルタも、その一人だ。

 どんなに人混みに紛れていようと、特徴的な耳と髪が外套に隠されていようとも、その輝く笑顔を瞬時に見分けることができる。

 アンシアの豊かな大地で育まれた、フェネットの至宝の姫は、ぴょこぴょこと飛び跳ねながら大きく手を振っていた。

 里長譲りの鮮やかな翠の瞳も、同じようにして、ルタを捉えているのが一目でわかる。


 二人はどちらからともなく駆け出して、およそ一年ぶりの再会を大いに喜び合った。


「ルタ、お久しぶり! 変わりなく元気そうで、安心したわ」


 船旅の間、アンシア語で書かれた手紙を何度も読み返しては想像していた声と、そっくりそのまま同じだ。

 最初に口を開くのは自分のほうだと決めていたのに、先を越されたルタは悟られないよう苦笑を隠した。


 お変わりなく――、そう言おうとしていたのに、久しぶりに目にしたフェリチェが、あまりに美しく見えたものだから一瞬迷ってしまったのが勝敗を分けた。

 姿形が変わったわけでもない。誰より輝いて見えるのも昔からのことなのに、「変わった」とルタは感じた。磨きがかかったというのが正しい。

 ルタの知らない空白の月日に、大切な姫を掠め取られたようで少しだけ寂しかった。だがそんな思いは我儘が過ぎると、ルタはやっぱり苦笑を隠しきれなかった。


「お嬢様も元気そうで何よりです。でもですねぇ、変わりなく……はちょっと傷付きますよ。一応はちゃんと他所行き用に、おめかししてきたんですからね。見違えたと、少しは褒めてくださらないと」


 わざとらしく、ルタはフェリチェに見せつける格好で、胸を張った。

 アンシアにいる時はいつも、動きやすい格好を心掛けていた。汚れてもいい、丈夫な素材の服に慣れているルタにしたら、絹のシャツなどかえって着心地が悪くて落ち着かない。

 ユーバインでするべきことを済ませたら、とっとと脱いでしまいたかった。そのうちの一つが、まずはフェリチェの感想を伺うことだ。


「もちろん、すぐに気付いたわよ。見慣れないのに、とても自然で……なんと言おうか迷ったの。ルタは何でも着こなせるのね」


 だけど……とフェリチェは、ルタの頭に手を伸ばす。


「この布だけ、ちょっと浮いている」


 いつも巻いている草木染めの飾り布も、今日は特別な一枚にしている。なんと言ったって、姫自ら刺繍して、ルタの成人祝いに贈ってくれたものだ。もったいなくて取っておいたのを、今こそとアンシアから連れて来た。


「ほら、ここ。ここの針運びが覚束ない。今ならもっと上手に刺せるのに」


 ルタにしたら、今日身につけたものの中では、その飾り布こそ一張羅だ。他でもないフェリチェに気付いてもらえたことが、何より嬉しかった。


「それは今度こそ、出来のいいものを俺にくださるってことですね。楽しみにしていてもいいですか?」

「まったく、相変わらず言うな……! いいわ、後で布と糸を選びに、店に行きましょう。でも今はここを離れるのが先ね」


 外套の上から耳を塞いで、喧騒から逃げるようにフェリチェは歩き出す。その影を追うのを懐かしく感じるルタの足は、姫の歩幅を忘れていない。それがまた嬉しくて、足取りは軽かった。

 フェリチェもまた、尻尾のリボンではなく、振り返れば本物のルタがいることに、頬が緩みっぱなしだ。



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