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花婿図鑑〜もふもふ姫が真実の愛を掴むまでの研究記録〜  作者: もちもちしっぽ
六章 ブラックリストのオス/記憶の研究
33/53

お互いに混乱している


「……ードっ」


 同じく、一日を振り返り終えたイードは、けたたましく扉を叩かれる音で、夢から引き摺り出された。


「起きろ、イード。大変だ」


 寝ぼけ眼を擦って扉を開くと、白い影が部屋の内に滑り込んだ。まだほのかに温かい卓上ランプに火を入れ直すイードから、大きなあくびが零れる。


「……お腹が空いたの? プリンなら保存庫に……」

「違う! やっぱりダメだ。昼間のことを思い出して、眠れない! かくなる上はイード……お前にキスしてもらって、忘れるより他ない」


 イードは己の頬をつねった。痛覚はしっかり目覚めていて、夢の続きでないことを教えてくれる。


「いやいや……いやいやいや」

「だってもうそれしかないだろう。フェリチェは明朝から、朝市の仕事が入っている。早く寝なくてはいけないのに、もやもやして眠れない。寝不足でこなせるほど、甘い仕事でないのはイードも知っているだろう。親方が厳しいひとなのも」

「そうだけど。何でそうなるかな……」

「他に誰に頼めると言うんだ」

「いや逆に、何で俺なら頼めるの。そもそもさ、俺はチェリに触れちゃいけないんじゃなかった?」


 発情期の折に「頼まれたって金輪際触れさせてやらない」と口走ったことが思い出され、フェリチェはちょっとばつが悪い。


「フェリチェの方から頼むのであれば……、いい……だろう」

「いいんだ。……まあ、そう言うなら。おいで」


 驚いても困った様子は見せずに、イードはフェリチェの手を引いて、寝台に腰掛けさせる。

 瞬き一つする間に、フェリチェの体は寝台に横たえられていた。


 急に視界がひっくり返ったフェリチェは、何が起きたか頭がついてこず、幾度も目をぱちくりさせた。

 やがて理解が追いつき、慌てて飛び起きようとしたフェリチェだったが、ふとイードの何か真剣に考え込む顔を目にした途端、身動きが取れなくなった。フェリチェの顔はどうしてだか、かっかと燃えて真っ赤だ。


「……あの、その……」

「じっとして」

「ひっ……」


 覆い被さるように影が差して、フェリチェはぎゅっと目を瞑った。


 肩から爪先まで、ふわりと柔らかな温もりに包まれる。石鹸とひなたの香りの中に、ほんのりとイードの持つナツメグのような匂いを感じ、フェリチェは緊張で身を硬くした。

 しかし……、身構えたままでしばらく待ったものの、それ以上なんのこともない。


 恐る恐る目を開けてみると、フェリチェは毛布にくるまれていて、イードはその隣に腰を下ろし、何やら本を選んでいるところだった。

 目が合うや、彼は数冊の本を掲げてフェリチェに問いかける。


「眠れるように読み聞かせてあげるよ。どれがいい?」


 不朽の名作絵本に、街の子供らの間で密かに人気のイードお手製紙芝居「ギュン太郎」。紙芝居に描かれたギュンターらしき主人公の持つ謎の吸引力に、フェリチェの指が宙に浮く。もう少しで紙芝居に触れるというところで、フェリチェははたと思い至って手を止めた。


「やはりお前は、フェリチェを赤子か何かだと思っていないか?」

「そんなこと思ってないよ。――寧ろ、思ってないから、子供扱いするしかないんだけどな」

「……言っている意味がわからん。フェリチェの知らない人族語か?」

「うん。そういうことにしておきなよ、今は」


 イードは静かに微笑んで、毛布の上からあやすようにフェリチェを撫でた。




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