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花婿図鑑〜もふもふ姫が真実の愛を掴むまでの研究記録〜  作者: もちもちしっぽ
一章 研究者のオス/被毛と耳の研究
11/53

運命の始まり


 耳をまさぐる摩擦音に、全身が囚われたようだ。

 くすぐったさが背筋を走り、やがては(はら)の奥までむずむずとし始めた。

 胎が震えるたびに、熱を孕んだ甘ったるい吐息が零れる。


「やっ……も、もうやめ……」

「うんうん。この形状だと垂直耳道かな。ちょっと湿っているのは種族共通? それとも個体差かな。まあ検体不足は仕方ないか……」


 満足したのか、するりと指が引き抜かれた。

 おかげで、ようやく息をつけたフェリチェだったが、酔ったわけでもないのに体がふにゃふにゃになってしまって、ソファから身を起こせなかった。


「ありがとう、おかげで貴重なサンプルが取れたよ。……あれ? どうしたの、大丈夫?」

「大丈夫だ……。しかし貴様……研究と言いながら、とんでもないことをしおって……。なんてオスだ……」


 息も絶え絶えなフェリチェに、イードは表情一つ変えず首を傾げる。


「何のこと? ……ああ。もしかして、耳を触られて()()()()気持ちになった?」

「そっ、そんにゃわけ、あ、あ、あ、あるもんか! フェリチェは気高いフェネットの姫だぞ! 人間のオスに耳朶を弄ばれたくらいで、へっ……変な気など起こすものか!」

「……ふうん。フェネットも耳が快いと感じる、と――。これも個体差?」

「おいい、聞いてるのか! やめろぉ! 何を書き付けている!」


 抵抗してみるも、立つことすらままならない。それでも懸命に手を振り回して帳面を奪おうとしたが、台所に逃げられてはどうしようもなかった。

 ややあってソファに戻ってきたイードは、フェリチェに高杯状の硝子の器を差し出した。


「疲れただろう? 甘いものはどう?」


 鶏卵を滑らかに溶き、甘く香り付けして蒸し焼きにした甘味だそうだ。


「食べさせてあげようか? はい、あーん」

「馬鹿にするな、自分で食べられる!」


 匙で掬えば、卵色の小山はふるふると零れ落ちそうに揺れる。どことなくスライムを思わせる姿に抵抗を覚えるも、漂う甘やかな香りにフェリチェは抗えない。


「まったく……こんなもので、フェリチェの機嫌を取れると思うなよ……っっっ!!? 何だこれは――! 美味いのに、蕩けて消えてしまったぞ!? おい、イード。これ、もっとあるか? フェリチェ、その……おかわりしたい」


 するとイードは、もちろんと頷きながら、なぜか帳面と羽ペンを持ち直した。


「じゃあ、俺も。君のおかわり、いいよね?」


 しくじったと思ったフェリチェだが、目の前にちらつくプリンの誘惑に勝てなかった。


「くっ……! 気高きフェネットの子であるフェリチェが、ここまで屈辱に堪えるのだから、図鑑とやらにきちんと活かさんかったら許さぬぞ」

「フェネットに関する図鑑、か。そうだね、それなら、もっとたくさん調べないと、ね?」


 ますます墓穴を掘って、フェリチェに逃げ場はない。

 気高いフェリチェに二言はないが、このままでは身がもちそうになく、研究に協力する上での条件を提示した。


「ただし、今日のようにカラダに触る時は、事前にどこまで触れるかはっきり言え! でないとお触りは禁止だ!」

「事前に言ったら大丈夫? それなら次は尻尾を調べたいんだけど。そうなると付け根周辺、まあつまり臀部……お尻だね。その辺りは確実に触るよ?」

「却下だ」

「言ったって駄目じゃない」

「場所によるに決まってるだろう! だから応相談なんだ!」

「まあ、君がそれでいいんなら構わないけど」


 イードは実にあっさりとしている。すべてが淡々としていて、残念がる様子もなく、帳面に向き直る。


 初めに描いたフェリチェの頭部に、調査で得られた情報から、断面の想像図を描き足し、メモ書きを添えていく。 

 されたことはともかくとして、イードの筆記の滑らかさに、フェリチェは思わず見惚れてしまった。

 観察記録が、すらすらと文字に起こされ、知識に変わっていくさまを眺めているうち、ある考えが浮かんだフェリチェは耳と尾をぴんと立てさせた。


「そうか、わかったぞ!」

「わあ、びっくりしたぁ」


 ソファから体を跳ね起こして、本棚から図鑑を選んでページをめくる。対象物の名称や希少性、特徴、注意点などが一目でわかるのがこの書物の良さだとフェリチェは記憶した。


「決めたぞ、イード。フェリチェも図鑑を作る! 花婿候補の図鑑だ! フェリチェはもっとオスを研究して、図鑑に記す。そして、その中から最高の婿を選ぶんだ!」

「へえ、独創的で面白いね。君のためだけの図鑑だ。夢があっていいんじゃない」

「そうだろう! だからな、イード。フェリチェに字の書き方を教えてくれないか? 読めるけど書けないんだ」

「うんうん、いいよ。ついでに街も案内しようね。財布のことも自警団に相談して……」

「イード……。お前、やっぱりいいオスだったんだな!」


 フェリチェは感激して、イードを見直したのだが――。


「じゃあ、尻尾も調べさせてくれる?」

「却下だ」


 こうして、フェリチェとイードの奇妙な共同生活が始まりを告げた。





✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼

お読みくださり

ありがとうございます

純粋で爛漫なフェリチェと、少し不思議なイード

二人のことを気に入ってくださいましたら

とても嬉しいです

ドロドロハラハラとは無縁、だけどちょっとニッチな

一風変わったラブコメではありますが

楽しんでもらえるよう頑張ります


次回は爽やか、ほのぼの回です♡



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