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ドラゴンの生態

シャンレイ視点


 皆、静まり返ってるわね、無理もないわ…。ドラゴンなんて急に言われても実感がわかないでしょうし、わたし自身未だに信じられないもの…。


 まさか、ドラゴンに遭遇するだなんて…。


 ふと、気になってシルバ・フレアの方を見る。さすがのあいつでも驚いたでしょ。ドラゴンなんて伝説の生き物がすぐ近くにいるなんて。どんな顔して、驚いてるのかしら?


 しかし、想像していた表情とは違い、そこにあったのはいつもよりも若干険しく見える、不機嫌そうな顔と、いつものごとく死んでる目。


 ポーカーフェイスにも程があるでしょ…!表情筋死んでんの…!?


 「あ…、あんまり驚いていないようね…、シルバ・フレア」

 「まあ、予想してたしな」

 「…え?シルバさん、知ってたんですか…?」


 シルバ・フレア曰く、私の見たものと似たような痕跡を、昨日の夜に発見していたのだという。その痕跡から、ドラゴンがいる可能性が高いことを推察していたのだとか。


 あの痕跡だけで、ドラゴンだなんて考えないでしょ、普通…。他の魔獣か魔物かもしれないのに。


 というか、あの痕跡の場所までかなりの時間かかるんだけど…。そこへ行って、調べて、戻ってきたのが朝方…。短すぎるでしょ…、やっぱり、こいつやばいわね…。


 「どうして、その痕跡だけでドラゴンだと分かるんですか?」

 「そこには魔物の血痕が残っていたからな。この時点で魔物の線は無くなる。魔物は人しか襲わないから、魔物同士で争ったりはしない。魔物について分かっている、数少ない生態の1つだ」

 「では、魔獣の可能性は?」

 「爪痕だけならともかく、森の奥にある大木を広範囲に渡って焦がすとなると、可能性は一気に低くなる。火を吹く魔獣もいるにはいるが、それほどの火力を持っているものは、活火山なんかの高温地帯にしか生息していない」

 「その系統の魔獣の可能性は無いんですか…?」

 「そこに生息しているような魔獣は、そもそも体から炎が吹き荒れているような奴らだ。大木はともかく、辺りの草むらや茂みを燃やしながら移動したあとがあるはず。しかし、それはなかった。広範囲の焦げあとは、地続きではなく、点々としていた。加えて、あたりには爪痕や魔物の血痕。このことから、高火力の炎は、戦闘に用いたものと考えられるから、常に燃えている火山地帯の魔獣とは考えづらい」

 「…なるほど」

 「あとはまあ…、単純にそいつらは、ここの環境に適応できないんだよ。ここは、そいつらにとっては温度が低すぎて、すぐに凍えて死んでしまうからな」


 相変わらず、博識ね…。見た目からはそんな感じしないけど…。意外と勤勉なのかしら…?


 「シャンレイさん…、そのドラゴン追い払えたりしませんかのう…?もし、この村まで来たらと思うと…」


 村長さんが、途方に暮れたように言ってくる。他の村人も不安そうにこちらを見てくる。まあ、恐怖心を抱いて当然よね、ドラゴンが近くにいる状況なんて、私でも気が気じゃないわ。


 でも、もう安心よ。何故なら私がドラゴンを追っ払ったからね。それを伝えて、村の人達を安心させてあげましょう。


 「もう追っ払ーー」

 「やめておけ。そんなことをすれば逆に目をつけられて、襲ってくるぞ」


 え?


 「どういうことですか、シルバさん…?」

 「ドラゴンが残した痕跡はただの戦闘の跡じゃない。あれは縄張りを主張してるのさ」

 「縄張り…?」

 「何故ドラゴンがこの森を住処に選んだのかまでは定かじゃないがな。動物や魔獣はいち早く逃げ出し、魔物は住処を守るために戦ったか、動物や魔獣と同じく逃げ出した。それがこの森周辺の異変の正体だ」

 「…なんで、ドラゴンを追い払っては駄目なんですか…?」

 「ドラゴンは自分の縄張りを侵したものを許さない。特に攻撃を仕掛けてきたやつに関しては、死ぬまで追跡をやめない。例え縄張りから出たとしても、匂いや魔力を追跡してくる」

 「…ドラゴンって、執念深い生き物なんですね…」


 アリアさんが顔を青くして身震いする。私も普段ならそういう反応をしたかもしれない。けれど、今の私はそれどころではなかった。


 「…攻撃したものを、ずっと追跡してくるって、本当…なの?」

 「…ああ、ドラゴンは一体一体が多種多様、様々な生態を持つらしいが、唯一共通しているのが敵への執着心。一度敵とみなしたら、その敵と決着をつけるまでは止まらない。ドラゴンと戦うのなら、確実に勝てるであろう戦力を揃えるまでは、絶対に手を出してはならない」

 「そんな…」


 目の前が真っ暗になり、体が浮遊感に包まれふらつく。


 もしかして…、私、やってはいけないことをしたんじゃ…。


 「シャンレイ殿…」


 キョウカさんたちが、不安げな顔で私を見る。私も、彼女たちと似たような顔をしているのかしら…。


 「…お前、ドラゴンに何をした…?」


 シルバ・フレアが私の様子の変化に気づいた。そして、私が何をしたのか察したのだろう。分かった上での質問だった。


 隠していても仕方がない。何より、村が危険だ。


 「…ドラゴンに、攻撃したわ」

 「…えっ?!」

 「…そ、そんな…」

 

 先程のシルバ・フレアの話を聞いていた、村の人達が絶望の表情を見せる。


 「…はあ、馬鹿なことをしたな。ドラゴンの生態について学ばなかったのか…?」

 「…それは」


 学んでなんかいなかった。伝説の生物であるドラゴンに会うことなんて、まず無いと思っていたから。他の魔物とかの情報は調べても、ドラゴンについては、大したことは知らないままだった。


 それどころか、最近はそういった座学すらしていない。知識と情報が足りなければ自身を危うくし、増えれば増えるほどに自身を守る。冒険者になった時に講習で教わったのに…。


 私は、ランク上げに躍起になってそれを疎かにしていた。


 「慢心したな…」

 「…っ!」


 返す言葉も無かった。私は慢心していた。Bランク最速記録保持者だなんてもてはやされて、調子に乗って、初心を忘れていたのだ。


 何時でも、ドラゴンについて知識を深められる環境にいたのに、どうせ使うことはないと高をくくっていた。この世に絶対なんて無いのに。


 「このままだと、ここまでドラゴンが来るのも時間の問題かもな…」

 「そんなっ…!」

 「どうすれば…!」

 「俺たちは何もしてないのに…」


 村の人達の恐怖と絶望の声が聞こえてくる。中には、言外に私のせいだと言いたげな言葉まで聞こえてくる。本当にそう思っているのか、私の罪悪感がそう思わせるのか。


 けれど、事実私の責任なのだろう。


 「待ってくれ、シャンレイ殿は何も自分からドラゴンに攻撃したわけではないのだ…!」

 「何…?」


 そんな中、キョウカさんが、私を庇うように前に出る。そして、私に代わって弁明をしてくれた。


 「ドラゴンが襲ってきたから、仕方なく迎撃し追い払ったに過ぎない…。シャンレイ殿は何も悪くはない…!」

 「それは本当か…?」

 「…ええ、私たちはドラゴンに追いかけられたの…」


 私は再び順を追って話す。ドラゴンを見つけたあとの話を。


 「さっきも言ったけれど、ドラゴンは眠っていた。私一人では敵うはずもないし、原因は分かったから帰還することにしたわ。気取られないように慎重に動きながら、村へと向かったわ。昼を過ぎて村までもう少しってところで、戦闘音が聞こえてきたの」


 それは、キョウカさんたちのパーティが、魔物たちと戦っている音だった。私が駆けつけたときには、イアさんが頭から血を流して気を失っていて、キョウカさんが担ぎながら走っていた。サーシャさんが矢を射ながら逃げていたけれど、魔物たちはまだまだいたわ。


 「ピンチなのを見て、私はすぐに乱入したわ。まともにやり合うには数が多すぎるから、水魔術を使って魔物たちを巻き込んで押し流した。その隙に、私は魔道具を展開してキョウカさんたちを乗せて、空へと逃げた」


 私の持っている魔道具は、折りたたむことで持ち運べる携帯型の飛行魔道具。風属性の魔石が使われていて、魔力を込めるとそれを風に変換して、それを推進力にして飛ぶ物。相手にできない以上、すぐさま逃げる必要があった。イアさんの怪我も気がかりだったし。


 「けれど問題があった。私のスカイウォーカーは一人用。無理矢理乗せても二人までが限界。四人を乗せて飛ぶために強引に魔力を込めたから、浮かびはしたけれど、案の定暴走して、無茶苦茶な飛行をした」


 とても制御出来なくて、魔道具に振り回された。どのくらい飛んでいたかも分からずに、やがて葉っぱやら木の枝やらに引っ掛かりながら墜落した。


 「墜落した場所が…、最悪だったのよ」

 「…ドラゴンの近くに…か」

 「そう…、目の前よ。今度はしっかり目を開けた状態でね」


 あの時ほど、血の気が引いたときはなかった。まるで死という概念が目の前に可視化されたかのような、そんな実感があった。


 イアさんもその時に目を覚ました。不時着した時の衝撃だろう。そのまま再び気絶しなかったのは、本人にとっては幸か不幸か…。寝たままだったなら、逃げ切れなかったかもしれないし、かと言って起きたら目の前にドラゴンだなんてトラウマになってもなんらおかしくない。


 「ドラゴンは私達を襲ってきた。爪を振り下ろし、尾を薙ぎ払って…。私達はなんとか逃げ出すので精一杯だった。場所も分からずに、逃げて行ってたどり着いた先は、崖だった」


 最初は追い詰められたと思ったけれど、すぐにこの崖を逆手に取ることにした。そうしなければ逃げ切れない。


 「私はドラゴンを崖下に落とそうと思った。そのためには、ドラゴンと立ち位置を入れ替えなければならなかった。まずはキョウカさんたちを逃がすために、囮になろうとして、それで…」

 「攻撃したわけか…」

 「そう…、それはうまくいって、私もなんとか魔術を駆使してドラゴンを崖の方に近づけさせた」


 あとは土魔術を使って、足場をせり上げてドラゴンを落とそうとした。そのための目くらましで、私は氷の魔術【アイスジャベリン】で目潰しを狙った。


 普通に放っては避けられる。私は最近会得したばかりの、遠隔詠唱を使った。遠隔詠唱は通常の詠唱よりも遥かに難易度が高い。


 通常、魔術は術者のすぐ近くに発せられる。発せられたものを遠くに飛ばすのは普通だが、術者から離れた位置で発生させ、それを飛ばしたり操るとなるとわけが違う。


 魔術を術者から離れた位置で発生させることは難しく、距離が離れれば離れる程、さらに難易度が上がる。加えて威力も落ちる。例え、離れた位置に発生させられても、威力が伴わなければ意味がない。


 距離と威力、その2つの課題を克服して、始めて遠隔詠唱となる。


 私は本命の【アイスジャベリン】をドラゴンの背後に生成しつつ、手元にもう一本同じものを生成。それを陽動として放ち、避けたところを本命の一撃で狙った。


 会心の出来だった。今までで一番と言ってもいいものだった。目を潰されて悶えるドラゴンを見て、すぐさま土魔術を行使する。


 足場が徐々にせり上がり、ドラゴンの体が傾いていく。やがて耐えきれなくなったドラゴンが、重力に従って崖下へと落ちていった。


 「それを見届けたあと、置き去りにしたスカイウォーカーまで戻って、再びそれに乗って逃げたの。あれくらいでドラゴンが死んだとは思わなかったから。また暴走しながらの飛行だったけれど、方角だけはなんとか村の方面に制御したわ。ただ途中で私の魔力が尽きて、また不時着。そこからは今日の朝方まで、四人で野宿をしてここに戻ってきたの…」


 話を終えて、帰ってきたのは沈黙。私がドラゴンを攻撃してしまった。けれど、襲われたのだからやむなし、しかしこのままではここまでドラゴンが来る可能性が高い。


 皆どうしていいのか、何を言ったらいいのか分からないのだろう。いや、違う。きっと言いたくはないのだ。


 簡単に解決できる方法はあるのだから…。


 「シルバ・フレア…」

 「…なんだ?」


 何か考え込んでいたシルバ・フレアに問いかける。


 「ドラゴンは攻撃してきたものを敵として定め、殺すまで追いかける。なら、追いかけられるのは私だけってことよね。キョウカさん達は一度も攻撃していないわ」

 「ああ、おそらくな」

 「ドラゴンは敵を殺したあとはどうするの…?」

 「…何も無ければ、縄張りまで戻るだろうな」

 「そう…、わかったわ…」


 私のやるべきことは決まった。


 元はと言えば、私の不勉強が招いたこと。ドラゴンの生態を知っていれば、ドラゴンに攻撃しないでなんとかする方法を考えていたかもしれない。


 知らなかったから、簡単に迎撃しかないと判断してしまった。それしかないと思ってしまった。


 自分で蒔いた種は自分で片付けなければならない。


 例え…、それで死ぬとしても…。

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