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冒険者帰還

シルバ視点


 「なっ、なんであんたがここにいんのよ!シルバ・フレア!」


 村に戻ると、広場のあたりに人だかりが出来ていた。耳をすませば、どうやら冒険者たちが帰ってきているようだった。骨折り損…いや、薬草を取りに行ったんだから、損はないな、うん。


 近づいていくと、いきなり、呼びかけられた。よく聞いた声だ。リベリタリアで何かと突っかかってきた奴の。


 Bランクの冒険者、シャンレイである。


 「別に、いいだろう。俺がここにいても」

 「そういうことじゃないわよ!」


 特徴的な鍔広帽をかぶった、赤毛の女。ツリ目でこちらを見上げてくる。絵本に出てくるかのような、魔女然とした帽子とローブを身にまとい、先端に赤い玉石の付いた両手杖をを持ちながら、こちらに近づいてくる。


 後ろには、先程の戦闘の痕跡を残したであろう、3人の女の冒険者を引き連れていた。


 1人は黒髪を後ろに束ねた、生真面目そうな顔をした女だ。軽鎧を身にまとい、腰には東国、竜人族の国で作られる刀と呼ばれる、切れ味の鋭い剣を携えている。


 もう1人は、背の低い少女。薄緑色の髪を伸ばし、表情は無。というか、今にも眠ってしまいそうなほど半目である。半目で見ているのか、眠いのか、もとからそういう顔なのか判断がつかない。武器は背に背負った弓だろう。


 最後の1人は、シャンレイとは違い、腰に片手で扱えるステッキを持った女。栗色の髪色で、表情はにこやか。見ただけで、にぎやかな性格だとわかる。服装はシャンレイと違い、一般的な後衛職と変わらない。


 栗色の髪の下に、血の滲んだ包帯が巻かれている。やはり、負傷していたようだ。


 「シャンレイさん…、調査の方はどうなりましたかの」

 「ええ、この森の異変の原因を突き止めたわ」


 老人、おそらくはこの村の村長だろう、シャンレイに調査結果を聞く。原因を突き止めたのか。俺の予想があっていれば、この件は相当厄介だ。


 「あの…、そちらの魔術師のお方?」

 「えっ?ボク?」

 「よろしければ、怪我の治療を致しましょうか?」

 「え!いいの!いや~、助かる〜!うちのパーティ、回復魔術使える子いなくてさ〜、依頼の薬草使うと、まだ探さなくちゃいけないし。あんなことがあったあとでもうヘトヘトだったし、それは勘弁だったんだよね〜。でも、低級ポーションじゃ、効きが悪くてさ〜、傷も痛いし。ほんとあの魔物、ふざけんなって感じだよ!大事なボクの顔に傷ついて、嫁の貰い手がいなくなったらどう責任取るつもりなのよ!」

 「は、はあ…」

 「あ、ボクの名前はイアっていうんだ。あなたは?てか、髪ちょーきれいだね。どんなシャンプー使ってんの。顔もちっさいし、胸は………、…うん!あれだね、なんかお姫様みたいだね。あの、目つき鋭い人はもしかして…恋人とか?!ちょっと怖いけど、結構イケメっ…、もがっ」

 「すまない、イアは話し出すと止まらなくてな。初対面でもお構いなしなんだ。許してくれ。わたしの名前はキョウカという」

 「あ、は…はい。私の名前はアリアです。あなたは…?」

 「………。…サーシャ」

 「すまない。サーシャはイアとは真逆で極端な無口でな。悪気はないんだ、許してくれ」

 「は…はい」


 小娘が、おしゃべり娘の治療をする。しかし、すごいパーティだな。めちゃくちゃ喋るやつに、めちゃくちゃ無口なやつに、謝り倒しのやつ。凸凹つうか、いや、逆にあってんのか…?


 というか、あのだんまり娘、いつの間にかパンを取り出して、食べ始めてるし。喋るのに口は動かさないのに、食べるのにはめちゃくちゃ動かすな。こう言ってる間にもう無くなりそうだし。結構大きかったと思うが…。


 「アリアさんね。あなたも冒険者なの?」

 「いえ、わたしはシルバさんと一緒に、リベリタリアまで向かう途中で、ここに立ち寄ったのです」

 「へえ〜、シルバ・フレアと一緒にねえ…」

 「何だよ」

 「あんた、この子に変なことしてないでしょうね」

 「あほ。んなことよりも、話すべきことがあるんじゃないのか」

 「あほって何よ!…まあ、いいわ。確かに、調査の報告のほうが優先ね」


 村人を広場に集め、その中央にシャンレイが立つ。俺たちはその直ぐ側で報告を聞くことにした。


 何故か、ガキが俺の手を握って、ニコニコしながらシャンレイの話を待っている。


 村娘(ラーナ)は微笑ましそうに、女魔術師(シャンレイ)は怪訝そうな顔で、小娘は(アリア)は嫉妬の表情でこちらを見る。


 視線が鬱陶しいので、手を離したいが、ガキは離す気はさらさら無さそうで、諦めた。


 ちなみに、小娘も手を繋ぎたいとガキにデレデレした顔で要求していたが、ガキは俺と手を繋いでいた反対の手に、大事そうに、女魔術師からもらった杖を持っていたので、断られていた。


 悲しいのは分かるが、俺を恨みがましそうな顔で見るなよ…。


 「順を追って話すわね。一昨日の早朝、私はローグ村に到着したは。理由は知っての通り、この地域一帯の異変調査のため」


 村人が依頼をするよりも先に、異変を掴んだ冒険者ギルドは、ここ一帯の調査を決定。白羽の矢が立ったのが、最近調子のいい女魔術師だったというわけだ。


 この辺り一帯の異変。動物や魔獣が消え、本来魔物が出没しないところまで、魔物が現れた。だが、これはある日突然こうなった訳では無い。


 徐々に、変化は訪れていた。事実、ここへ来るまでの道中、俺たちはやたらと魔物と遭遇した。行きでは、さほど襲撃は無かったが、帰りはそれとは比べ物にならないほど、襲撃の回数は多かった。


 「え?そんなに多かったんですか?」

 「お前な…、妙だなって話したろ。なんで実感ねぇんだよ」

 「い、いや~、外の話には疎くて…」


 そうだった。こいつ基本的に城の中で過ごしてたから分からないのか。一応冒険者の真似事もやっていたが、それでも城下町周辺のみだろうしな。


 「調べ始めて、半日以上立っても、成果は出ずに日が暮れ始めたわ。現場に行くのに、結構時間取られちゃうからね。この森は広いわ」


 女魔術師は、薬草の群生地を中心に調べつつ、この村の方面を重点的に調べたそうだ。ここの薬草は貴重品も多いしな。異変が起きたなら、まずはそこが無事かどうかを確認しておかなければ、依頼を受ける冒険者や、薬草を取り扱う商人たちが困るからな。


 「その日は、切り上げて寝床を探している時に、やたらと荒らされている場所があったのよ。争いの跡だったわ。わずかに残った薄い血痕から、魔物と何かが戦っていたようだった」


 その光景は凄まじいの一言だったという。村近くの木々とは比べ物にならない大木がなぎ倒され、地面がえぐられたような跡や、巨大な爪痕があったのだという。


 村人たちはその光景を想像し、顔を青くしている。そんな存在が村に来たら、ひとたまりもないだろう。


 「調べようかと思ったけど、辺りは暗くて視界が不明瞭だし、何より、とても嫌な予感がしたから、すぐにそこから立ち去ったわ。近くに、その痕跡を残した何かがいるかもしれないしね」


 その日は、痕跡を見つけた場所から遠く離れた、場所で休んだという。


 ここまでの話から推測すると、動物や魔獣がいなくなったのは、その何かが現れ、それから逃れるためだろう。魔物も同じ、森の奥地にいた魔物たちが、森の浅いところまで逃げてきたことで、このあたりにまで魔物が出没するようになった。


 俺たちが、ここへ来る道中に魔物の襲撃が増えたのはこの逃げてきた魔物たちに遭遇したわけだ。そして、魔物は人間を見たら必ず襲って来るので、襲撃が多かった。


 そして、魔物のこの習性から、森に現れたのは人ではないとわかる。まあ、巨大な爪痕なんかの痕跡が人のものによる可能性は低いが、ないとまでは言えない。そういう魔術もあるしな。


 「朝起きて、昨日のことをまとめて、この異変の原因は昨日見た巨大な爪痕を残したやつだと推測したわ。私はそいつを探すことにした」


 女魔術師は、昨日の痕跡を慎重に調べ、周辺にも似たような痕跡があることを発見した。巨大な爪痕。なぎ倒された大木。魔物のものと思しき血痕。そして新たな痕跡、地面や大木に焦げ付いたあと。それもかなり広範囲だったそうだ。


 この森の奥地にある木は、耐燃性が高い。ちょっとやそっとの火力じゃ、多少焦げはしても、燃え広がりはしない。それを、広範囲で焦がすほどの火力。


 嫌な予感が当たったな。


 実は、俺も女魔術師の見つけた痕跡を見ていたのだ。昨日の夜、森の奥地まで赴き、調べた時に発見した。女魔術師が見つけたものとはおそらくは違うが、同じような痕跡。


 つまり、この痕跡はかなりの広範囲でつけられたものだということだ。俺は、痕跡を残したやつを見つけられなかった。捜索範囲が広く、絞り切るには時間が足りなかった。


 それに俺は、冒険者の痕跡を探しに…、いや、薬草を取りに来ただけだからな。目的が終われば長居は無用だった。


 一体何が、なんのために?


 俺の予想があっていれば、かなり厄介な相手だ。


 「探しに探して、そして、私はその相手をようやく見つけたの」


 どうやら、女魔術師は謎の存在を見つけたらしい。


 「すごく遠目からだけど、巨大な赤い体躯をしていたわ。そいつはどうやら眠っているみたいだった。大きな日本の角、生え揃った鱗が、一塊となった甲殻に身を包んだ体」


 村人たちがざわめく。その特徴から、そいつが何か想像できたらしい。ガキはなんのことか分からず、キョロキョロしていた。


 「そいつは…、ドラゴンだったわ」


 ドラゴン。数々の伝承にて登場するが、実際に見ることはまずないとされる、正しく伝説の生物である。

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