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魔術の才

シルバ視点


 「魔術が使える?」

 「つかえぅよー!」


 夕食のひと時、ラーナがアリアの回復魔術について話を振ったら、思わぬところから、思わぬ返事が来た。


 ガキが、魔術が使えるなどと宣ったのだ。子供の見栄っ張りかと思ったのだが、村娘の反応を見るに、どうやらマジらしい。


 なんでも、この村に森の調査に来た冒険者のうちの1人、シャンレイがこのガキの魔術の才を見抜いたらしく、練習用の杖を与えたのだという。


 そして、シャンレイの言う通りに、ガキが魔術を詠唱したところ、本当に出来てしまったらしい。


 もし、それが事実なら、このガキはかなりの才能を秘めていることになる。


 貴族の英才教育何かを受ければ、早いうちから才能が開花することがあるとは聞くが、何の教育も受けていない子供が魔術を発現させるなど、そうそう無いことだ。


 実際に見せてほしいというと、ガキは喜びながら、走って杖を取りに行った。すぐさま戻ってきて、自慢げに杖を見せてくる。


 この杖、練習用と聞いていたが、貴族なんかが使う練習用の杖じゃねぇか。50万ゴールドはくだらねぇぞ…。


 その杖は、先端に透き通った赤く丸い水晶が埋め込まれた杖だった。手触りの良い木を主軸として、両端に金属による装飾が施されていた。


 使い古されてはいたが、それでも貴重品には変わりない。


 木は、何かしらのマジックツリーの類だろう。魔力が伝わりやすい特殊な樹木のことをマジックツリーと言う。種類は様々あるが、そのどれもが貴重なものだ。


 種類によって、魔力の伝導率の違い、耐久性、重量、他にも様々な違いがある。


 この杖に使われているものは、おそらく耐久性が高く、魔力の伝導率が高いが、ある一定量以上に魔力を込めると霧散してしまう、そんなマジックツリーだろう。


 耐久性は言わずもがな、魔力の伝導率が高ければ、魔術の詠唱が成功しやすく、感覚を掴みやすい。加えて、魔力の込めすぎによる暴発を防ぐためのセーフティもある。


 つまり、練習用に用いるには最高の素材というわけだ。


 もちろん高い。10数万ゴールドはするだろう。練習用の杖は、感覚を掴む用のものなので、詠唱をマスターすれば、もう必要ない。


 威力を出そうとすれば、セーフティが邪魔だし、魔力伝導率に関しても、より良いマジックツリーがあるので、いつまでも使い続けられはしない。


 そんなものに、何十万もかけられるのは、貴族や富豪位のものだ。


 そんな杖を、シャンレイは特に何の見返りも求めずに渡したという。


 「そ…、その杖…、そんなに、た…、高いんですか…?」


 おそらく想像の埒外だったのだろう。村娘が顔を青くしていた。無理もないか。魔術に馴染みがなければ杖の相場なんて分からんだろうしな。


 「ま、その杖をどうするかは後でシャンレイと決めりゃいいさ。それよりもだ」


 そんなことよりも、興味があるのは、このガキのこと。


 本当に詠唱ができるのならば、その才能の片鱗をこの目で見てみたい。


 「じゃあ、いくね!」


 明るい声を発したと思った途端、あれだけ快活だったガギが、打って変わって静まり返る。


 俺も、アリアも、見たことのあるラーナでさえ、息を呑む。それほどの子供離れした集中状態。


 やがて、その小さな口から詠唱が紡ぎ出される。


 「…ひよ、わがもとにきたぇ!【ファイア】」


 詠唱が完成すると、その杖の先端に小さな炎が灯る。あまりに小さいその炎は、当たったところで大した火傷にもならないだろう。


 杖の先端に維持するだけで、飛ばしたり、形状を変えたりもできないだろう。それでも。


 たったの4歳の子供が詠唱を成し遂げた。


 「すごいじゃねぇか!やるな!」

 「えへへ!すごい?!ねぇ、すごい?!」

 「ああ、最高だ!」


 思わず、声を上げて喜んでしまった。これほどの才能の持ち主と出会えるとは、この村に泊まることにして良かった。


 「私、子供の頃から教育を受けて、初めて詠唱できたの8歳の頃なんですけど…」

 「それでも早い方だ、このガキが桁違いなだけだ」

 「そうとは分かっても、なんだか自信無くしちゃいます…」

 「アィアおねえちゃん、だいじょうぶ?元気ない?」

 「元気ですよーーー!!たった今すんごく元気になりました!!」


 こいつ、わざと落ち込んだふりしやがたったな…。


 「そんなに…、すごい才能なんですか…?」

 「ああ、とびっきりだ。正直、シャンレイがなんでこんな高い杖を渡したのか疑問だったが、その理由が分かったぜ」


 どうやら、村娘はあまり実感がわかないようだ。杖の話をしたときからこんな感じだ。後々、実感してくるだろうな。


 「ねぇ!」

 「ん?」

 「わたし、まじゅちゅすき!シルバおじさんもまずつすきなの?」


 キラキラした目で、こちらを見上げてくるガキ。さながら、同志を見つけたかのような眼差しだ。まあ、普通の村に魔術に詳しいやつなんかそうはいないだろうしな。


 「ハイハイ!わたし魔術好きです!!」

 「…鼻血吹けよ」


 ガキが魔術を噛んだときに鼻血を吹き出した小娘は、俺が答える前に割り込み、アピールする。必死過ぎる。


 「シルバおじさんは?」

 「ト…、トリシャちゃん…?私も…魔術…、好きだよ〜?」

 「シルバおじさんは、なんのまじゅつがすき?トイシャはねぇーー」

 「…ぐすん」


 必死のアピールも袖にされ、部屋の隅で蹲った小娘。村娘が励ましに行ったのでそっちは任せて俺はガキの質問に答える。


 「俺も魔術は好きだ。好きな魔術は…、そうだな、…【氷炎】かな」

 「しらない!!どんなまじゅつ?!」

 「冷たい炎を操る魔術だ。対象に触れるとあっという間に燃え広がり、氷漬けにする魔術。だが、この魔術は伝承にしか伝わっておらず、使い手はおろか、術式すら分からない謎の多い魔術らしい。その炎は光を受けて輝く真っ白な炎だという」

 「つめたいひ?!すごい!!わたしもできぅようになぃたい!!」

 「修行あるのみだな」

 「うん!!ほかにはどんなまじゅつしってぅの?!」


 それから俺は、ガキにせがまれるままに、色々な魔術の話をした。言葉を用いて操る魔術、全てを飲み込む闇の魔術、全てを見通す目をもたらす魔術、などなど様々な魔術の話をした。まあ、どれも眉唾ものの魔術だが。


 同じ魔術だからか、リアクションがいいからか、自分でも思った以上に饒舌に話してしまった。


 ふと、視線を感じると、そこにはふくれっ面の小娘と、なんだかニマニマした村娘がこちらを見ていた。


 「シルバさんばっかり、ズルいです。シルバさんは幼気な女の子が好きだったんですね」

 「人聞きの悪いことを言うな、というかお前に言われたくないわ」

 「トリシャの相手をしてもらって、ありがとうございます、シルバさん」

 「…いや、気にすんな。ただの暇つぶしだ」

 「うふふ」

 「なんだよ」

 「いえ、何も。うふふ」


 より一層ニマニマしている村娘の視線が鬱陶しいので、目をそらすと、ますます笑みを深めた。何が面白いんだか。


 そこからまたしばらく、ガキの相手をしたが、流石にもうガキは寝る時間。カクカクと船を漕ぎだしたので、村娘が一緒に風呂に入りに行った。


 小娘が一緒に入りたいと喚いたが、顔が少しやばかったので止めておいた。少し鼻血も出ていた。


 その後、小娘、俺の順番で風呂に入り、先に寝かしつけたガキに続いて寝ることにした。明日は早朝から冒険者の捜索に出るからな。早めに休むことにする。


 部屋は小娘と俺にそれぞれ一人部屋があてがわれた。どうやら、なくなった両親の部屋らしい。長らく使っていなかったらしいが、掃除はしていたのか、何もしなくてもそのまま使えそうだったので、ありがたく使わせてもらう。


 布団に入り、皆が寝静まったあとに、起きる。


 起こさないよう、静かに作業をしようとしてーー


 ギィ


 誰かが部屋を出た気配。その気配はそのまま俺の部屋の前まで来て止まる。


 コンコン


 控えめなノックの音。村娘やガキを起こさないように配慮した結果だろう。


 寝たフリをするか少し迷い、結局扉を開ける。


 「なんか用か?」

 「…その、少しだけ…お話してもいいですか…?」


 小娘は、俺の部屋へと足を踏み入れた

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