妄想令嬢はつぶやく〜ざまぁも断罪も婚約破棄もすべて見届ける
伯爵令嬢リーナ・ベイラルーー
この女はこれからクラスの同級生たちに断罪されようとしている。
きっかけとなったのは許嫁である王国第3王子シリウス・ハルバート。
この男も悪い男だ。
わたくしは知っている。
「み、みなさんそんなこわい顔されてどうされたのですか⁉︎」
白々しい女だ。
リーナは王子と親しくいている同級生ラティーナ・キャペルに嫉妬して彼女を執拗に虐げた。
入学したばかりの新一年生たちの親睦会を兼ねたダンスパーティーが催されたときのこと。
平民出身のラティーナに対してリーナ令嬢は、貴族の作法がわからない彼女にアドバイスと称してウソの情報を伝える。
「ラティーナ。あなたにはわからないでしょうから令嬢の身だしなみのなんたるかを教えてあげますわ」
「本当ですか!ひじょうにうれしいです。リーナ様」
ラティーナはリーナ令嬢に勧められるがまま令嬢のお下がりのドレスに袖を通す。
「これを被ってください。アクセントです。ラティーナさんによくお似合いですよ」
ラティーナは自分に親身になってくれるリーナ令嬢の言葉を一切疑うことはなかった。
自分が騙されているとも知らずに。
「ラティーナさん。これを着ていけばあなたを見て振り向かない人なんていませんわ」
「こんな私でもですか?」
「もちろんですわ」
ラティーナはわたくしから見てもわかるようなうれしそうな表情で控室を出ていった。
「あら? 見てらっしゃったの?」
もちろんですよリーナ嬢ーー
「あなたもあの女が衆目の前で恥を晒す姿が見たくて?なら楽しみになさるといいわ」
本当、あなたは相変わらずですね。
「すべてはあの女がいけないのよ。貧しい田舎娘のクセにいっつもシリウス王子と一緒に歩いて。
シリウスもシリウスです。なぜあの女と堂々と腕を組んで廊下を歩くのでしょうか」
見せつけたいのかしらね。
「それは誰にですか! なるほどシリウスも平民がめずらしいから珍獣感覚で連れ回しているんだわ。そうに違いない」
ダンスパーティーの会場に現れたラティーナに会場中の視線が集まる。
「ほ、ほんとうだ⋯⋯リーナ様のおっしゃるようにさっきからいろんな人が私を見ている⋯⋯恥ずかしい」
会場の雰囲気を盛り上げる楽団の演奏。
その伸びやかな音楽に“クスクス”っと笑い声が混じる。
『なんの冗談よアレ?』
『アレが平民が着ていくダンスパーティーの衣装なのか?』
案の定だ⋯⋯
わたくしが近寄ってそれとなく間違っていることを伝えてあげれればいいのだが
わたくしには見届けることしかできない。
しかもさきほどから皆が私の前に料理を差し出してきて食すのに忙しい。
『あら?ラティーナ』
「リーナ様!」
リーナ令嬢は突然、衆目の前で笑う。
「ラティーナ、なんなのその格好?」
「え?」
ラティーナはダンスパーティーの場にとうていふさわしいとは言えない黒のドレスにベール付きの黒い帽子を被ったいでたちだ。
「鎮魂歌でも歌うつもり?やめてよ湿っぽい」
「でもこれは⋯⋯はっ!」
さすがのラティーナも気づいたか。
自分がはめられたことを。
そして自分が着せられた衣装がなんなのかも。
会場中の人間が声に出して笑う。
ベールの下で見えないがこのときのラティーナの目には光るものが溢れていた。
『盛り上がっているじゃないか!』
「シリウス王子だ」
「シリウス殿下よ」
シリウス王子の登場に会場中の女が色めき立つ。
「ラティーナ⋯⋯どうしたんだその格好は⋯⋯」
「そうよねシリウスも開いた口が塞がらなくなるわよねぇ。ダンスパーティーも葬式の違いもわからないなんて。
これだから平民は。これにこりてシリウスもこんな珍獣を連れ回すのをやめなさい。王子の名折れよ」
「⋯⋯」
「ん? 今なんて?」
「す⋯⋯すばらしい⋯⋯」
「は?」
「ラティーナ! 君は素晴らしいよ。君は知っていたんだね。
今日が僕のひいひいお爺さまにしてこの国の英雄パトリック・ハルバート国王一世の命日であることを!」
「はぁ⋯⋯」
ラティーナはこの場で違うとは言えなかった。
「君は本当に素晴らしい王国民だ。始祖たる国王の命日を忘れずちゃんと喪に服すとは。
それに比べて、ここにいる貴族たちの堕落はなんだ!この日にダンスパーティーを催すこと自体、
私が抗議していたというのにも関わらず、派手に盛り上がりおって」
『見ろよ。王子の腕に黒の腕章が⋯⋯』
『マジかよ』
よく咄嗟に思いつくものだ。
わたくしはすべて見ていた。
シリウスは一部始終をそでで見ていて、慌てて近くにいたボーイのズボンの裾をカットして作ったのだ。
さすがのわたくしも感心するわ。
「ラティーナの服装はそんな私の嘆きを汲み取り、そしてここにいる愚か者たちに真の愛国心とは何かを示したのだ!
それを平民の出身であるラティーナがだぞ!」
「シリウス様⋯⋯」
「もうよいラティーナ。泣くことはないぞ。いいか。ラティーナの格好を見て笑った者!言わせてもらうぞ!貴様らは愚民であると」
「シ、シリウス、私は知ってたわよ。愚民にわからせるために私がラティーナにその格好を⋯⋯」
「リーナ、お前だったのか」
「ひっ」
このときシリウスの放つ殺気に気を取られて誰も気づいてないかった。
庇われたラティーナがベールの下でニヤリと不敵な笑みを浮かべたことを。
わたくしを除いてーー
「またあなたなの」
そうですよ。
「まぁいいわ。あなたには本当のことを話してあげる」
どんな方も皆、私の前では本音をさらけ出す。
「本当は私、男爵家の生まれなの。そう貴族よ」
そんなあなたがどうして平民のフリなんて。
「これは復讐のためよ。私の家族をめちゃくちゃにしたベイラル家にね。
お父様は貧乏貴族だったわ。だから領地をベイラレル家なんかに簡単に奪われた。
そして家族はバラバラ。売られた私は平民の中に混じって暮らしていたわ」
あなたも大変だったのね。
「そんなあるとき私がお手伝いしていたお店にシリウス王子が現れた。
チャンスだと思ったわ。王子とお近づきになり成り上がる。
王子に私が学問を学びたいと相談したら、自分と同じ学校に通わせてくれてお金まで出してくれたわ」
それはよかったじゃない。
「これは復讐のはじまりよ」
あら、物騒。
「シリウス王子の婚約者がベイラル家の令嬢リーナだということは把握済み。
シリウス王子にリーナとの婚約を破棄させて私がその座を奪う。
私が妃になることでベイラル家への復讐が果たされる。
見てなさい没落させてやるわ」
そううまくいくかしら。
「ダンスパーティーのできごとでリーナから人心が離れた。みんな私派よ。
リーナの傲慢さに不満を持っていた女の子たちがみんな私に味方してくれる」
おそろしい子。
「さぁ断罪のときよ」
こうしてはじまった同級生たちによるリーナ令嬢に対する断罪。
出てくるわ出てくるわラティーナに対するリーナ令嬢の悪行の数々。
事実でないことも含めてよくこんなに⋯⋯
シリウス王子がたまらず口を開いた。
「リーナ・ベイラル! 宣言する。おまえとの婚約は破棄だ!」
「シリウス様!」
「いますぐこの学園から出ていき、遠くの島にでも流されるがいい」
「そ、そんな⋯⋯」
リーナ令嬢が崩れ落ちた。
ラティーナの勝ちね。
「シリウス王子。私ーー」
「これまでよく耐えたね。これからはラティーナのこと⋯⋯」
『王子、これでようやく私と婚約してくださりますね』
『なに言ってるの私よ!』
『違うわ。私よ⋯⋯』
「へ⋯⋯」
ラティーナは驚いているけどわたくしは驚きもしない。
シリウス王子は見初めた女性には『僕が愛しているのは君だけだよ。だから君は僕のことだけを愛してくれ』というのだ。
同級生だけでもこんなに、他には教師やメイドにも言っているからおそろしい。
かくいうこのわたくしも。
王子のその言葉を聞けば、女性たちの頭の中でリーナ令嬢との婚約は本意ではなく王の都合で致し方なくしたもの。
だから自分との恋が誠の愛だとロマンスな物語が出来上がってしまう。
自分は王子との許されざる恋に落ちる悲劇のヒロインだと思い上がってしまった。
そして目の前で婚約者という最大のライバルが崩れ落ちたのだ。
女性たちの想いが一気に噴き出すのも当然。
『どういうことですかシリウス様!』
『説明してください』
『この女とはどういう関係なの?』
ここからシリウス王子への断罪がはじまる。
『うわーん! ドークシャ!』
女とみたら見境なく遊ぶシリウス王子だけど、最後は必ずわたくしのところに帰ってくることは
わかっていた。
これも本妻の余裕ってやつ?
「やっぱり人間の女はこわいよ」
しかたない。今日は目一杯甘えてやろう。
「うわっペロペロ。くすぐったい。やっぱり僕が愛しているのは君だけだよ」
「ニャーン!」
おわり
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「無能ちゃんはさよなら」リュカ・ミティーネのやり直し
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聖女は戦わない〜悪役令嬢に追放されてはじまる旅の物語
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