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第十四話「朝露」(5)
ーーーーーーイェルガ視点ーーーーーー
全身に走る痛痒に、意識が覚める。
「どこだ……ここ……」
深い深緑の森。
空はまだ青い。
どれほど気を失っていたのか……。
「ねぇ 」
年若い、少年の声。
視線を向ける。
そこにいたのは、小さな少年だった。
黒装束に身を包み、髪色も黒。
目元を黒い包帯で覆っているが、不思議と見えているかのようにこちらを見つめている。
肩には栗色のフェレットが一匹。
体格は体を包む衣服により判別しにくいが……鍛えられているのは、微動だにしない体幹から見て取れる。
「君、白竜騎士?」
耳の痺れるような甘い声。
口元に人好きのする笑みを浮かべて、少年は尋ねる。
「…………」
「そうなんだ、すごいね……!」
俺が何も言わぬまま、少年は機嫌良さそうに褒め言葉を口にする。
気持ちのこもっていない、空っぽの賞賛。
得体が知れない。
「丁度いいや 」
少年の口元が、三日月のように細く歪んだ。
ーー途端、世界が暗転する。
「おやすみ……」
沈む意識。
少年の妖しい声だけが、闇に木霊していく……。




