表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/47

第五話「vs魔神獣」(2)



 そのとき。



 『law・fowdyen!!』



 男の声。


 夜空の向こうから、赤い炎の流星が三つ飛来し、闇虎に突き刺さる。


 途端、炎が一気に燃え上がって、闇虎の巨体を包み込んだ。


 小さく呻き声を上げる闇虎。


 闇虎は炎の飛んできた方向へ、視線を向ける。


 

 そこには、白竜が二体。


 鋭い爪と牙を持ち、首と尾の長い白銀の竜が、巨大な両翼をはためかせ、上空からこちらを睥睨(へいげい)している。


 一体はそのまま空中に残り、もう一体は真っ直ぐ僕の方へ降下してきた。


 

「キミ! 意識はあるか!?」



 先の詠唱とは違う女性の声。


 

 白竜は僕のすぐ側に着陸すると、白竜の背中から、一人の女性が飛び降りる。


 

 白い革製のコートに、背中には矢筒と灰色のロングボウ。


 両手の爪は黄金に輝き、背には翼が、肌には鱗がある。


 体格が良く、戦士らしい引き締まった体の女性。


 彼女は僕の元へ駆け寄ると、僕の顔を(のぞ)き込んだ。



 古傷の刻まれた顔。


 その瞳は爬虫類(はちゅうるい)を思わせる細長いもので、眼力の強い切長(きれなが)の目だった。



 竜人族(ドラゴニア)だ。


 竜神山の頂上、"竜神の里"に住む人類最強と(うた)われる種族。


 山を降りて人里に出てくることはなく、独自の文化と信仰があると聞く。



 僕はパク、パクと、口を(わず)かに開閉して見せる。



「よし、生きてはいるみたいだな……」



 彼女はそう言うと、明らかにホッとした顔をした。


 次に、彼女は表情を引き締めると、片手をそっと僕の胸に置く。



『光の竜帝・従順・薄明。森の神に乞い願う。傷付いた彼の者に、起死回生の奇跡をーーエクス・ヒーリング』

 


 帝級の魔法詠唱。


 霊級とは、効果も難易度も比べ物にならない。(もたら)される効果は、絶大だ。


 

 僕の体を、温かい光が包み込む。


 全身の傷から、(あふ)れ出る血の勢いが弱まっていき、やがて止まる。


 瘡蓋(かさぶた)もできぬまま、じわじわと赤い傷口の面積が縮まっていき、元から傷などなかったかのように、綺麗に傷が(ふさ)がった。


 体からあっという間に苦痛が取り除かれていく感触は、筆舌(ひつぜつ)に尽くして(がた)い。


 "救われる感触"とでも言うべきか。


 なんだか、神の奇跡に触れたような気分だった。



「まだ動かない方が良い。血を流し過ぎてる。治療はしたから、今すぐ死ぬことはないだろうけど、安静にしてないと後遺症(こういしょう)が残る可能性がある……分かったね?」



 僕の目を真っ直ぐ見つめ、ハキハキと語り聞かせる彼女。


 最後に、人差し指を立て念を押してくる。



 そのとき、僕の脳裏にパチっと閃光が弾けた。



 僕は焦燥(しょうそう)に焼け焦げてしまいそうになりながら、咄嗟(とっさ)に彼女の腕を掴んだ。



「助けてください! 向こうに、女の子がーー」


「アゥスファ!! 終わったんなら手伝え! コイツ硬いぞ! 」



 男の絶叫が、僕の声を()き消した。



 アゥスファ、と呼ばれた女性は、弾かれるように声の方へ視線を向ける。



 視線の先には、上空に滞空(たいくう)している白竜と、それに騎乗(きじょう)している筋骨隆々(きんこつりゅうりゅう)の男が一人。


 男は灰色のロングボウを引いて、炎の矢を三本同時に闇虎へ()る。


 それに対し闇虎は、炎の矢を体に生やしながらも、俊敏(しゅんびん)に地を駆け回り、上空の白竜に飛びかかった。


 迫る闇虎の牙を、ギリギリで旋回(せんかい)し、(かわ)す白竜。



「お願いします! ひどいケガなんです!あそこです!」



 僕はアゥスファさんの足に(すが)り付いて、必死に叫んだ。


 帝級の回復魔法が使えるこの人なら、あるいはリリィも……。


 きっと、まだ間に合う(はず)なんだ。



 僕があそこと指差した先に、視線を向けるアゥスファさん。


 そう遠くない位置に、千切れかけている小さな体が横たわっている。



「オイ! 早くしろーーぐッ!」



 跳躍(ちょうやく)する闇虎。黒龍の絶壁を駆け登り、飛翔。白竜に襲いかかった。


 男は咄嗟(とっさ)に、矢を闇虎の目玉目掛けて放つが、闇虎の勢いは(おとろ)えず。


 闇虎は白竜の首に喰らいついた。



「ゴォァアッ!」



 白竜の絶叫。


 二つの巨体が、木々を()ぎ倒しながら地面へと墜落(ついらく)する。



「イェルガッ!」


 

 アゥスファさんは見るや否や、血相(けっそう)を変えて落下地点へと駆け出した。


 一陣の風の如く疾駆(しっく)し、瞬く間に闇虎へと肉薄(にくはく)

 

 闇虎の頭上を、舞うように飛び越えーー夜闇に黄金一閃。


 闇虎の首から、真っ黒な血が(ほとばし)る。



「チッ、浅いか……!」



 着地と同時、悪態(あくたい)を吐くアゥスファさん。


 その右手の爪に黒い液体が付着している。



「ふッ!」



 僕が瞬きした一瞬、ドドドン!と重なった鈍い音がして、気付けば、闇虎は吹っ飛んでいた。


 巨体は地面を転がり、一回転すると、四足で地面に着地する。


 アゥスファさんの方を見ると、半身になって腰を落とし、爪を正中線(せいちゅうせん)に沿って構えていた。



 今の一瞬で、拳打を何度も打ち込んだらしい。



 上に乗っていた闇虎が退いたおかげか、白竜が首をぬーっと上げて起き上がった。


 その喉元からは、青い血が流れ出ている。


 しかし、白竜にそれを気にしている様子はない。


 瞳に揺るぎない闘志を宿して、白竜は静かに闇虎を見据(みす)えている。



 白竜の下から、イェルガと呼ばれた男が()い出てきて、アゥスファさんと同じように構えを取った。



「俺は大丈夫だ……!仕留める。合わせろ!」


「応!」



 目に矢を生やしたまま竜人たちを睨み、警戒を見せる闇虎に、気合い一拍、二人の竜騎士が踊り掛かる。







 そんな様子を横目に、僕は地面に()いつくばっていた。


 景色がうねって歪んで見える。


 込み上げてくる気持ち悪さに耐えながら、僕は必死に前へ前へと体を引きずった。


 リリィの元へ。


 その一心で不快に耐え、体を前へ運ぶ。


 どうせ、何をしてやれるわけでもないのに。


 それでも、早る気持ちが(おさ)えられなかった。



「フーッ……! フーッ……!」



 焦りのせいか、貧血のせいか、自然と呼吸が荒くなる。


 歯を食いしばって、ひたすら前に進んだ。



「グルァ……」



 僕の視界を、なにか白いものが覆った。


 獣臭い。


 視線を少し上にやると、大きな爬虫類(はちゅうるい)の瞳と目が合った。


 白竜が、鼻先で僕の進路を(ふさ)いでいるようだ。



 僕は、どいてくれ、と言おうとして、やめた。


 白竜の瞳が、あんまりに優しい光を宿していたから。


 言葉こそ交わさなかったけれど、(さと)された気がした。


 僕は白竜から目線を()らした。


 無力感に、そっと歯を食いしばる。







 大人しく、戦闘の状況に目を向ける。

 


 竜人二人は、闇虎の周囲を縦横無尽(じゅうおうむじん)に駆け回り、闇虎の肢体(したい)()いでいく。


 二人が腕を振るうたび、金の燐光(りんこう)と、黒い血飛沫が夜空に舞った。



 闇虎も攻撃を仕掛けているが、どれも二人には当たっていない。


 闇虎は完全に(おさ)え込まれていた。



 そして、激しい猛攻の間隙(かんげき)、ついにアゥスファさんが、闇虎の後脚(うしろあし)を一本、爪剣で()ぎ飛ばした。


 

 体勢を崩し、ズドンと倒れ込む闇虎。



「ォォオオオッ!」



 雄叫(おたけ)びを上げるイェルガさん。


 後脚(うしろあし)が飛び、闇虎の体勢が崩れた一瞬、イェルガさんは闇虎の眼前(がんぜん)に躍り出て、両拳を背後へ引き(しぼ)る。


 イェルガさんの存在感が膨れ上がったーー姿がブレる。

 

 瞬きひとつ、両拳をクロスさせた状態で、闇虎を通り越しているイェルガさん。



 ボフン、と爆発するように、闇虎の首から不定形の闇が膨張(ぼうちょう)した。

 

 膨張(ぼうちょう)した闇が弾け、辺りに飛び散ると、巨大な闇虎の生首が、ごろんと地面を転がった。



「やったか!?」


「悪い、イェルガ! 傷の治癒は自分でやってくれ!」


「は? オイ!」



 アゥスファさんは、闇虎の首が落ちたのを認めるとすぐに駆け出した。

 

 手を伸ばすイェルガさんの静止を振り切って、アゥスファさんは僕の方に真っ直ぐ走ってくる。



「無理をするな! 今そっちの子を見てやるから!」



 僕にそう言葉を掛けると、アゥスファさんは地面を()う僕を追い抜いて、リリィの元へ到着。


 アゥスファさんはリリィの(かたわ)らに立ち、それから、しばし硬直した。



「こ、れは……」



 言い(よど)むように、呟くアゥスファさん。



 不穏な様子に、喉が詰まった。


 

「アゥスファッ!!」



 男の叫び声。


 続く、巨体が地を駆ける疾走音(しっそうおん)


 意識の空白を切り裂くように、何かが僕に迫ってきた。



 背後を見る。



 首のない闇虎が、首元からモクモクと闇を(あふ)れさせながら走っている。僕に向けて。


 その足取りは忙しなく、体勢もグラグラで、しかし、途轍(とてつ)もなく速かった。


 殺意と執念(しゅうねん)が、物言わぬ首無しの体から有り有りと伝わってくる。



 僕は闇虎を、射殺さんばかりに強く強く(にら)みつけて、上体を起こす。


 平衡(へいこう)感覚が、狂ったコンパスみたいにブレる。


 異常は無視。片足を立て、迫る闇虎へ、僕は真っ直ぐ手を伸ばす。



「もう……くたばれ……!」



 吐き捨て、特大の蒼炎をお見舞いしてやろうと、"力"を込めた。


 そのとき。


 地平線が傾く。


 目の前の景色が丸ごと斜めになり、迫る闇虎も斜めの大地を駆けている。


 不可思議な現象を前に、僕の意識は遠ざかっていく。


 地平線が九十度傾き、垂直に変わった頃。


 

 僕の意識は、暗闇に落ちた。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ