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第3話

全身が痛みを感じる寒さの中、櫻は緊張した面持ちであるところに向かっていた。


空からは宝石のように輝く雪が降っており、その寒さを一層際立たせていた。


櫻の横には、櫻と同様の面持ちの美里もいた。


「まじヤバい。心臓が破裂しそう」


「私もだよ。どうしよう」


そんなことを言い合いながら歩いていると、遠くで見覚えのある二人が寒そうに肩をすくめていた。


櫻たちに気づいた二人は手を上げ微笑んでいた。


「お兄ちゃん達何で?」


「そりゃあ妹のこれからの人生を左右する大事な日だからな」


「ありがたいけど、練習は?」


「休み。こういう日はグラウンドが駐車場になるんだよ。明日のグランド整備が不安だね」


横で、今までと違った緊張感を漂わせているのは美里である。


そんな美里に気づいた櫻と亮太郎はクスクスと笑いだした。


「そんなに不安か?大丈夫だよ。櫻より成績良かったんだろ。櫻がこんなあっけらかんとしてるんだから美里ちゃんだって大丈夫さ」


蓮が美里に声をかけるも、美里の緊張はとけない。


「私だって緊張してるんだよ。さっきまでは美里の方がよく話してたんだから」


「近くなったら緊張しちゃったかな」


昔からこういうことには鈍感な蓮であった。


櫻は蓮のすねを軽く蹴ると「鈍感…」と笑った。


思いのほかクリーンヒットしたようで蓮は膝を抱えながら悶絶していた。


「鈍感って何がだよ。受験発表の時なんて、緊張をほぐすことなんて不可能だよ」


すると亮太郎は蓮に向かって手を合わせると「ご愁傷様」と頭を下げた。


蓮は何のことかわからず、すねの痛みがやわらぐまでひたすら耐えていた。




303…306…310…


櫻は亮太郎と蓮と共に自分の受験番号である『331』があるかどうか順に目で追っていた。


櫻の手は汗でびっしょり。


普段手汗をかかない櫻にとってどれだけ緊張しているかの現れであった。


「やべえ、俺が緊張してきた」


「お兄ちゃんが緊張してどうするのよ。落ちたってお兄ちゃんにはそこまで影響ないでしょ」


「そんなことないよ。妹が慶明に通ってるなんて俺の学校じゃ自慢だぜ」


「プレッシャー…」


すると、二人の気も知らなかったのか蓮がいつものボリュームで言った。


「あった」


櫻と亮太郎が蓮の声に反応するも、何のことか分からなかった。


二人の様子を見て焦れたように蓮が言った。


「だから、櫻の受験番号があったんだよ」


「えーーーー、なんかもっと感情込めてよー」


櫻は頬を膨らますも、亮太郎に向き直りながら、受験番号である『331』の番号が掲示された掲示板をしばらく眺めていた。


すると、櫻の横にいる美里も歓喜の声を上げ、櫻は美里と抱き合って喜んだ。


亮太郎がねぎらいの言葉を櫻にかけると、櫻は亮太郎に抱きついた。


「お兄ちゃんやったよ!」


亮太郎に抱きついた櫻は亮太郎の様子に気づくと少し離れた。


すると蓮が気づき笑いながら「泣くなよ!」と言い、続けた。


「受かったのは櫻であってお前じゃないんだから」


「でもよ、毎晩頑張って受験勉強をしている櫻を見ていたから、なんだか嬉しくて」


すると蓮は亮太郎の手を握り一言「おめでとう」と言ってニッと微笑んだ。


「ありがとな。櫻の事頼んだぜ。あと美里ちゃんのこともな」


蓮は頷くと櫻と美里と握手をして人ごみをかき分け校門を出た。


蓮にとって毎日通っている高校であったのだが、今日はいつにも増してこの高校が大きく見えたのであった。

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