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井の中の蛙大海を知らず

「そのような話、乗るわけにはいかん。そもそも、儂らへの伝達役が小姓とは、いかなることか。」


「名門、畠山家のご当主であらせられる高政様から見られれば、取るに足らない小姓かもしれませぬが、これでも公方様から伝令役を仰せつかっておるのです。」


「幕府には、余程人材が少ないと見える。可愛そうなことよ。フフフ」


「なんとでも。私の役目は、この書状を義続様にお届けすること。後のことは、お任せいたします。」


「左様か。ならば、即座に出てゆけ。目障りじゃからの。」


「かしこまりました。失礼いたします。」


俺は、そそくさと高屋城を後にした。


どうして俺がこんな愚物に罵られなければいけないんだ。確かに畠山家は、名門だが、こいつは戦に負け続けて、没落させた無能だぞ。だからこそ、六角には取り込んでほしいと言ったのだ。こいつが頂点にいては、紀伊・河内国が安定せん。まぁ、こんなこと公方様には言えるはずもないのだが。俺が何もしなくても、義昭と信長の争いに巻き込まれて御家は没落するから、没落するのが早いか遅いかだけなんだけどな。


俺は、歩いても良かったんだが、雪が降り始める前に、越前を往復せねばならなかったので、馬に乗っている。と言っても、馬に乗ってるだけ、ペースは歩くのとさほど変わらない。幕府方が三好に追い詰められてるときに帰らないと、定頼殿との話し合いが無駄になるので。


俺の後方から、結構な駆け足で馬を走らせてくる人影が見えた。む…?2人いるか…。


「緋村殿!待たれよ!畠山高政が家臣、安見宗房である。お話したき議がござる。止まってくだされ。」


俺が馬を止めて振り返ると安見宗房と名乗りあげた男は、そばに近寄ってきた。刀も脇差ししか差しておらず、もうひとりの男に至っては、扇をパタパタさせながら、付き従っている。まるで、公家のような雰囲気を漂わせている。


「何用ですかな?」


「まずは、先の髙政の暴言に対して謝罪をさせて頂く。申し訳ない。」


「特に気にしておりませぬが、まずは?他になにかございますのですかな?」


「我ら畠山の家臣一同は、六角定頼殿を主君と定め、六角家への臣従をしたく思うのです。緋村殿は、公方様の伝令役として、既にお会いしているのではありませぬか?」


「まぁ、会ってまいりましたが。」


「やはり!ぜひ我らの紹介をお願いできませぬか?」


「2点お聞きしたいことがある。」


「何でしょうか?」


「まずは、このお話は、家臣のどの程度の方が賛同なさっておるのですか?我らと申されましたが。」


「8割方は、賛同するとお考えください。御家の主だった家臣らは皆、既に賛同側に回りました。残すは、髙政様に取り入って家臣となった商人上がりの成り上がり者たちだけです。」


髙政が愚物だとは思っていたが、まさか家臣たちからこれほどまでに見放されていたとは…。だが、どうしてここまでの状況を生んだのだろうか。もしや、もうひとりのこの男が要因となっているのだろうか。


「では、最後にこちらの御方は、どなたでしょうか?」


「こちらは、高政様の弟君で秋高様でいらっしゃいます。」


「なんと…。どういうおつもりですかな、宗房殿。高政殿がおられるにも関わらず、秋高殿を紹介するとは。兄弟仲が悪いと公言しておるようなものですぞ。」


「仰るとおりですので問題ございませぬ。御兄弟の仲は頗る悪うごさいます。秋高様は、容姿、性格、武芸、学問どれを取っても高政様に勝るお方。」


「ならば、家臣の皆様で隠居するように、申されたらどうか?」


「申し上げましたとも。それも主だった者たちで。しかし、あの男は、まともに取り合おうとせぬのです。自分は、名門畠山家の当主である。と罵るばかりで、聞こうとせぬのです。あの男が当主のままでは、いずれ畠山が没落するのは必至。ならば、秋高様に当主となって頂き、六角に臣従することにしたわけであります。」


「井の中の蛙大海を知らず…といったところですか。」


「おぉ!緋村殿はお若いのによくご存知で。左様。我ら畠山は、大海に出なければなりませぬ。公方様の助力は惜しまぬとお誓い致します。何なら、誓書もお書きしましょう。六角家とのお取次をお願い致します。」


「畏まりました。では、家中が纏まりましたら、朝倉家宛に伝令を走らせてください。私は、そちらの対応に向かいますので。」


「それはそれは。畏まりました。ではそのように。」


「ではこれにて失礼。あぁ、秋高殿、良いご当主にお成

くださいませ」


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