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現状確認

この時代に飛ばされて、早いことでもう一か月が経過した。この期間で様々なことが分かってきた。


まずは、現在は1550(天文19)年6月で、現在地が中尾城であること。史実では、この時期に細川晴元と六角定頼の軍も洛東に進出。三好方は三好長逸・十河一存の軍勢が上洛し膠着状態が続いたが、11月に長慶が大軍を率いて摂津から攻め上り中尾城を攻めると、義輝は近江朽木まで退却した。これによって、三好長慶等が率いる軍勢によって京から幕府勢は追放されることとなる。京を手中に収めた三好方だったが、六角・畠山家の断続的な攻撃や細川晴元と共同戦線を敷いた義輝からの進攻も続く。

1558(永禄元年)年、長慶は六角義賢の支援する義輝や細川晴元の攻撃を受け、戦況は優位に推移していたものの、六角の仲介を容れて和睦した。義輝は5年ぶりに帰洛し、長慶は御相伴衆に列せられて有力大名としての待遇を受けることとなり、幕府は将軍・三好氏が協調する形で復活した。


つまり、あと半年で何かしらの対応策を講じなければならないという訳なんだが、俺も流石に12歳という状況では、戦には出れない。だから、俺が今できることは、義輝の名前で幕府に味方する大名達に接触して、半年後の追放劇に対応すること。もしくは、他の連中に準備をさせて、8年も待たずに早々に帰洛させることだろう。


と…言うわけで。俺は、朝早くから大広間で義輝に各大名家への書状を書いてもらうように依頼した。と言っても、戦の最中に直接彼に合うことはできないので、側近である三淵藤英の弟の細川藤孝に経由経由で届けてもらった。すぐに、大広間に来るように言われ、甲冑で身を包んだ義輝に相対しているという訳だ。


「それで?書状を書いてほしいとはいかなることだ?」


「皆様も現状を理解しておいででしょう?」


「何が言いたい!?」


「三淵様、三好の軍勢は優勢です。今後の動向は私のような年少の身には図りかねますが、根回しはしておいたほうが良いと愚策いたした次第であります。」


「…ふむ。一考の価値くらいはあるか。」


「何を申されます、三淵殿!このような童の申すことなど、アテになさいますな!」


俺の言葉で一応は、納得してくれたみたいだ。まぁ、まともに聞いてくれたのは、義輝と藤孝、三淵だけではあるが…。他の連中は、俺の容姿を嘲笑い、童のくだらない妄想だと罵っている。歴代の将軍と比べても優秀であった義輝が、三好に中々勝てなかったのは、こいつらのような無能な家臣をそばにおいていたのが原因だ。


「源次郎。」


「は!」


「そなたの申すこと、一理ある。この戦、勝ちきれるやもしれぬ。」


「何を申されますか、公方様!」


「なら、勝てると申すか?連戦が続いておるが、負けずとも勝ちきれん。三好は、四国より援軍を呼び寄せているとも聞く。」


「それは…」


「源次郎。書状と申したが、どこに出すつもりだ?」


「本当なら朝倉、武田、今川を当てにしたいところですが、時間もありませぬし、武田も今川もすぐには動けますまい。朝倉とて、三好と争うだけの力はありませぬ。であれば、近江の諸大名に協力いただくしかありませぬ。六角様、畠山様、朽木殿。出来うるならば、本願寺にも声をかけたいところ。」


「…。朝倉はそうであろうな。武田も今川も今日から遠い。そなたの申すとおり、六角等が妥当であろう。だが、本願寺が動くか?」


「それは、わかりかねます。しかし、噂では三好は寺社勢力を蔑ろにしていると聞き及んでおります。本願寺には、朝廷を動かしていただき、仲介役をお願いすべきかと。」


「その見返りはなんとする?」


「それは皆様でお考えください。」


「貴様!そこまで考えておきながら、大事なところは儂らに丸投げするつもりか!」


「私は、幕政がよくわかりませぬ。財政も、軍事も何もかもです。だから、何を見返りにすべきかもわかりませぬ。そこらへんは、優秀な皆様でお考えさい。それとも、童の私のほうが優秀だと皆様は、考えておいでなのですか?」


「貴様…。言わせておけば、いい気になりおって!!」


一人の家臣が、怒りに任せて刀を抜くと俺に切りかかってきた。ただし、内政担当者なのだろう。打ち込みもなってないし、空きだらけだ。俺は、脇差を抜くと、相手の体重をうまく利用して、峰打ち刀を撃ち落とすと、そのものに向かって、脇差を向けた。


「童の私に勝てぬようでは、三好には到底勝てませぬぞ?」


そうこうしていると、公方様がこちらに歩み寄り、俺の手を掴んだ。


「そこまでにしてやれ、源次郎。書状の件、相分かった。見返り等の打ち合わせやら、書状をしたためるやらで時間がいる。明日の朝、もう一度来てくれるか?」


俺は、脇差をしまい、もとの位置に座ると深々と頭を下げた。


「畏まりました。」


 




「公方様。何故、あのような童の申すことなどに従うのですか…。」


「童に負けた奴が偉そうに抜かすな。」


「ゆ…油断しただけだ。次やるときには。」


「ここが戦場なら、そなたは死んでおる。」


先程の対応を見るだけでも、源次郎が只者でないことは容易に想像がつく。だが、見つけたときも脇差すら差しておらず、身一つで倒れておった。だが、その少年は、歳にはそぐわぬ身のこなしと、剣技を持っておった。先程の発言も儂らでは考えつかぬことであった。


儂は、源次郎が麒麟なのでは無いかと踏んでおる。父上から幼き頃から伝え聞いておった。泰平の世に現れるとされておる神獣だ。あの子は、天が儂に使わせてくれた存在なのではないかと思っておる。いや、思いたがってるのやもしれぬ。だが、儂はこの思いを違えるつもりはない。


これまでのやり方では、筑前守には決して勝てん。奴等を下すには、新しいやり方が必要なのだ。それが、源次郎の案であるし、源次郎という存在でもあるのだ。


「三淵、六角と畠山に書状を出せ。朽木には、藤孝、そなたが直接顔を出してくるのだ。本願寺は…」


「本願寺は、どうなさいますか?」


「奴等だけには、頭を垂れとうない。」


「左様ですか…」


「その代わりとして、朝倉にも文を出しておけ。」


「朝倉ですか?奴らが助力に応じるかどうか…。」


「形だけでも良いのだ。出したという事実がいる。」


「畏まりました。」


この案を使うことが無いように、気張って戦に取り組まねばならん。

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