プロローグ
「知らない天井だ…!?」
先程まで、自分の家で大河ドラマを見返していたはずなのに、どうして俺は、知らない場所に寝ているのだろう。立ち上がり、周囲を見渡すと俺は結構な場所で寝ていたようだ。まるで、戦国時代の大広間のよう…。それと気になるのは、俺の背丈。俺縮んだ?天井が随分遠い。それに三十路になってからの最大の悩みであった腰痛もない。
俺は、気になり、襖を開けるとそこには見事な御庭が広がっていた。そうまさに、お見合場のようなお庭である。鯉が何匹も泳いでいる池を覗き込むと、今の現状が判断できた。
「体が縮んでる…。というか、誰だこいつ?」
池に映った顔は、見たこともない美男子。俺は自分で言い出すと悲しくなるが、フザイク寄りの人間だ。モテた経験など一度もなく、オタク生活を邁進していた。だが、こいつはどうだろう。どこをどう見ても俺とは似つかない。スタイルも良い、ジャニーズJrにいそうな子だ。この体にこのスタイルからうちの剣術もうまく運用できるかもしれない。俺は体重やら筋肉やらで型しかまともにできなかったが。どちらにしても、うちの剣術は、惨殺剣術だったわけだが。
「漸く目を覚ましたようだな…」
背後からの声に俺は、咄嗟に近くに何故か落ちていた木刀を拾うと、振り向きざまに振り抜いて、距離を取った。が、
ドボーン!!!!
池を背にしていたことをすっかり忘れていた俺は、距離をとった拍子にそのまま池に落ちた。
「ほぅ…。小童にしては良い反応だが、周りが見えておらんな。」
俺は、池からさっさと出ると、木刀を構え直した。歩術である深草兎歩と古流剣術の歩術を組み合わせた家の歩術で瞬間的に男のそばに近づくと喉元に木刀を突き立てた…つもりだった。
「まだまだ青いが、その歳でここ迄の歩術と剣技を持ち合わせておるとは、良い拾いものをしたものよ。」
そういったこの男は、気付かぬうちに刀を抜いており、俺が持っていた木刀は、根本から切り落とされていた。マジかよ…。一応型だけにしても俺の剣術と歩術は、高校と大学の全日本で優勝できるだけの実力はあんだぞ。このおっさん何者なんだ…。
「その顔…、わしのことを知らんのか。」
「公方様、名門武家の出でなければ、その問は分かりませんぞ。」
「それもそうか、儂はの征夷大将軍、足利義輝よ。」
なるほど…。鹿島新當流で知られる塚原卜伝の弟子であり、剣豪将軍として知られている足利義輝。…え!?俺、戦国時代に来てるってわけ?だとすると何か?俺は名のしれた武将なのか?でも、義輝に知られてないってことは、大したやつでもないのか?そもそも、倒れてたってことは、最悪追放された可能性もある…。
「それで?そなたはなんというのだ?歳は?」
まさに俺が今聞きたかったことを聞いてくれちゃったね、この人。何にしよう。どうせ、こんな時代に来たのなら思いっきり厨二病を爆発させてみよう!そうだなぁ…、名字は、緋村で良いでしょう。某漫画の主人公とおんなじ名前よ。一応俺も古流剣術の使い手だから、別に問題ないだろう。見た感じ、元服迎えている歳でもなさそうだ。見た目から行けば、10歳くらいだろうが、サバを読んで12にしとこう。じゃあ、幼名は、俺の好きな戦国武将のやつを使わせてもらおうかな。
「私は、緋村…源次郎。歳は12になります。」