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アストラド:終わりの始まり  作者: タブリス
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第8章

「はぁぁ…はぁぁ…いったいあれは何だったの?」


ロゼアンはまだ息を切らしながら、必死に状況を理解しようとしていた。そして家へと走って戻っていた。


この森で誰かが歩いているのを見たのは、何年ぶりだろう。母は近くに人間の村があったと話していたが、それはずっと前に消えてしまった。もしその村が今もあれば、姉は町まで働きに出る必要もなかっただろう。


「それにしても…あれは人間じゃなかった…」


ロゼアンが出会ったあの生き物は、彼女の知っている人間とは全く違っていた。大きくて醜い耳を持っていた。ふわふわした自分の耳とは違い、それはまるで羽をむしられた鶏のようだった。だが一番奇妙だったのは、あの生き物が薬草のような匂いをしていたことだ。自然の一部のような匂い——もしそれがなければ、ロゼアンはもっと早くあの存在に気づいていたかもしれない。滝の音で気配を感じ取れなかったとしても、彼女の犬のような嗅覚は決して嘘をついたことがなかった——


(匂い!)


家が近づくにつれて、彼女の鼻にとても馴染みのある匂いが入ってきた。それは濡れた動物の匂いだった。


だが、それは自分の匂いではなかった。誰か別の生き物の匂い。そしてその匂いは、彼女が最も恐れていた方向——ロゼアン自身の家の中へと続いていた。


つまり、何者かがロゼアンの家に侵入したということだった。


「まさか……家に侵入された…どうすれば……」


最初に思い浮かんだのは、さっきの薬草臭い生き物と関係しているのではないかということだった。だが匂いは明らかに違っていた。完全に別の存在かもしれない。それに、長い間帰ってこなかった姉の匂いでもなかった。


「ううぅ、なんで今なのよ……」


ロゼアンは髪をぐしゃぐしゃと掴んで考えるのをやめた。考えるのは得意ではなかった。それは姉の役割だった。今、彼女がしなければならないのは、家に入るかどうかを決めることだった。森で様子をうかがうか、それとも姉を探すか。


だが、姉のいる町への道は知らない。さらに、こんな臭い怪物がいる森に夜まで留まるのも無理な話だった。


両親の姿、そして彼らが家に残していった大切な物。姉の顔。ロゼアンに家を任せてくれた信頼。それらが脳裏に浮かんだ。


退くわけにはいかなかった。たとえ何者かがそこにいようと、家を取り戻さなければならない。


ロゼアンは家に着くなり勢いよく扉を閉め、音を立てずに中へと入った。感覚を研ぎ澄ませ、ただの小動物が雨宿りに入ってきただけであるようにと願いながら慎重に進んだ。


キッチンに入ると、彼女が苦労して狩った大切な肉が食べられていた。さらに、姉がまだ戻ってこないために節約していた貴重な乾燥果実と野菜までもが……


「グルルッ……」


怒りが抑えきれなくなった。誰かは知らないが、ロゼアンのささやかな幸せを奪ったその存在に対し、激しい憎しみが湧き上がってきた。


彼女は寝室に入ると、ベッドに横たわる大きな生き物を発見した。それはロゼアンよりも大きく、獣のような耳と尻尾を持ち、猫のようであり、どこか馬にも似たような奇妙な姿だった。


(死んでる?)


ロゼアンは静かに近づき、部屋を回るように観察した。しばらく観察を続けていると、その生き物はとても無防備な姿で寝ていることに気づいた。上半身はベッドから落ちかけており、まるで事件直後の死体のようだった。だが、呼吸しているのを見て、それが生きているとわかった。


(攻撃すべき?それとも起こすだけでいい?フレデリカは攻撃された時だけやり返せって……でも家に入ってるんだし……ああ、こんな問題、私には無理……)


彼女はゆっくりとその肩に手を伸ばしたが——


ケチュアが突然跳ね起きた。


驚きとともに、二人は身構える。まるで今にも飛びかかる猫のように毛を逆立てて。


「な、なに!?あんた誰よ!?」


「私?あんたこそ誰よ!勝手に私の家に入って!」


「……あんたの家……?」


ケチュアは周囲を見回し、自分の状況を理解し始めた。


「それに私のご飯まで食べて!!」


「……ああ、その……食べ物……」


ケチュアは食べた燻製肉の美味しさを思い出した。


グゥ〜


……


「ご、ごめんなさい!すごくお腹が空いてたの!揉めたくないの!」


ケチュアは少し恥ずかしそうにしながらも警戒を解こうとした。


(この子、簡単には扱えそうにないわね)とケチュアはロゼアンの鋭い爪を見ながら思った。


「ねぇ、雨宿りの場所を探してただけなの。もし出て行かせてくれるなら……友達がきっと食べ物代を払ってくれるから!」


(ふふっ、最悪あいつに全部押し付ければいい。こんな時に私を一人にしたんだから当然よね)


「友達って……」


その時、扉がノックされた。


「きゃっ!」

「うわっ!」


さっきまで少し和らいでいた緊張が、一気に高まった。


「こんにちはー!どなたかいらっしゃいますかー?」


「やだぁああ!あの臭いハゲ鶏だ!ついてきたの?!うそでしょ、なんでぇぇ?」


「ハゲ鶏……?」


ロゼアンが怯えと泣きそうな表情を浮かべている間、ケチュアはこの混乱の中でようやく警戒を解いた。



今ではロゼアンもちゃんと服を着ていて、場もだいぶ落ち着いた頃。ザイオンがついに口を開いた。


「こ、今回の件で友人がご迷惑をおかけして、誠に申し訳ございませんでした!」


ザイオンは恥ずかしさのあまり、今にもひざまずきそうな勢いだった。


「さ、ささやかではありますが、この薬をお詫びの品として受け取っていただければ、ロゼアン様のご寛容な心に……」


ロゼアンの顔には、ザイオンが差し出した薬品から放たれる強烈な匂いに対する不快感が、はっきりと浮かんでいた。


「まぁ……姉さんも薬が足りないって言ってたし……ロゼアンでいいよ。『ロゼアン様』って呼ばれてたのはママだけだし……」


「し、失礼しました!ロゼアンさん、ありがとうございます!」


……


不器用な二人の間に、なんとも言えない気まずい沈黙が流れた。


「もういい?ベッドで寝てもいい?」


「ケチュア!!ロゼアンさん、本当に申し訳ありません!こ、ここで一晩だけでも泊めていただけないでしょうか!?ご無理を承知のうえでのお願いですが、報酬も差し上げますので、ど、どうか――」


「い、いいよ!お金なんていらないから!」


ロゼアンはまだ疑っていたが、これ以上匂いの強い物をもらうのはごめんだった。そして、少しだけ思った。


(パパとママが言ってた……丁寧な人には、丁寧に接しなさいって……そういうこと、なんだよね……)


「お父さんとお母さん、きっと素敵な方なんでしょうね。今はどちらに?」


ザイオンはその質問をしてしまったことをすぐに後悔した。ロゼアンの表情が曇ったのを見て、しまったと思った。


「あっ、ごめんなさい!まさか……すでにお亡くなりに――」


「ち、違う!死んでないよ!パパとママは……大事な用事で出かけただけ!絶対に戻ってくるって……フレデリカが言ってたから……」


「フレデリカ……?」


ザイオンはまたも口が滑ったことに気づいたが、今回は反応がまったく違った。ロゼアンの顔がぱっと明るくなり、まるで飼い主に再会した犬のように尾を振っていた。


「うん!お姉ちゃん!街で大事な仕事してるの!人を助けて、すっごく賢くて!いつもロゼアンのこと守ってくれて、おいしい食べ物もいっぱい持って帰ってきてくれるの!今回はちょっと帰りが遅いけど、でも……」


「なるほど。じゃあ、自分から会いに行くのは?」


「……それはできない。だって……もしパパとママが戻ってきたら?家に誰もいなかったら大変だよ……ロゼアンは、この家を守らなきゃ……誰が入ってきても追い出さなきゃいけないの……」


その目線は、黙々とお菓子を食べているケチュアに向けられた。ザイオンには、ロゼアンが何を考えているのか手に取るように分かった。


その時、ケチュアの目がキラリと光り、ザイオンは嫌な予感がした。


「あ〜〜、かわいそうに〜。ずっとここで家を守って、忠実で、けなげで、それなのにお姉ちゃんからは何の連絡もないなんて……つらいよねぇ?」


「う、うん……」


ケチュアが語りかけるたびに、ロゼアンはしっぽと一緒に首をふりふり。


「でもね、私たち、ちょうど今から街に行くところなんだよ!だから、もしよかったら……私たちがあなたのお姉ちゃんに会って、ロゼアンのこと伝えてあげるよ!どう?」


「ほんとに!?」


「もちろん!その代わり、数日ここで泊まらせてくれて、あともうちょっとだけ……あのお菓子をくれれば!」


「ちょ、ちょっと待って!誰が街に行くって言ったの!?」


ザイオンは慌ててケチュアを止めようとしたが、すでに流れは決まっていた。


「いいじゃん、ザイオン。補給も必要なんでしょ?ね、お願い!」


ザイオンが視線を向けると、ロゼアンとケチュアが揃って期待に満ちた瞳で見つめていた。ロゼアンのような純粋で孤独な少女の願いを裏切ることなど、ザイオンにはできなかった。彼自身も、ロゼアンの境遇が少し心配になっていた。


「はぁ……わかりました。ロゼアンさん、あなたの姉を探してきます。」


「やったー!」


「ありがとう!ロゼアン、今まで会った中で一番いい人たちだと思う!さっきザイオンのこと、臭いハゲ鶏って呼んでごめんね!」


「……なんだって?」




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