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アストラド:終わりの始まり  作者: タブリス
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第7章

ザイオンとケチュアは北の森を進み続けていた。


「『もうすぐ着く』って言ってたけど、で、その大きな湖はどこなんだ?」


ケチュアが言った。


「たぶんすぐ前に…」


「たぶん? お前、エルフだろ? エルフは人間が街を歩くように森を歩けるって聞いてたぞ」


「俺は普通のエルフじゃないんだよ。エルフとしての能力もちゃんと…あ、あった! 滝の音が聞こえる!」


ザイオンの言葉を聞き、ケチュアの目は喜びと期待で輝いた。


「うわーっ!きれいな水!! エルフの能力を疑ってごめんね!」


二人は茂みを抜け、湖と川が混ざったような場所に出た。巨大な滝が森に流れ落ち、独特の景観を作り出している。湖の中央には巨大な木が目立っていた。


「ああっ、でっかい木! こんなの見たことない! 近くで見てくる!」


「ただの木じゃない。『七つの抱擁の木』だ。昔、湖を救ったドライアドの犠牲から生まれたと言われてる。それに、その葉は完全に有毒だから気をつけろよ、ケチュア」


「葉っぱ食べるような馬面に見えるか?」


ケチュアは馬の耳をぴくぴくと動かしながら言った。


「おい、ザイオン! あれ見て!」


ケチュアは湖の向こう側を指差した。


「こんな危ない場所に空地なんかあるわけないだろ? 誰が住んでるんだ?」


「わからないが、気をつけた方がいい。でも、多分廃墟だと思う。誰かが用事で来て、そのまま放置したんだろう」


「はああ…ってことは今夜は寝る場所があるってことか?!?」


ケチュアの目はきらきらと輝いた。ザイオンは「可能性」と言いたかったが、自分も廃墟の小屋で寝られるかもしれないと思いたかった。


「まあ、俺は今夜のためのハーブと材料を集めてくる。あまり遠くに行くなよ」


ザイオンは滝に近い湖の西側に向かった。湖の水は中央の巨木によって汚染されているが、流れている水は浄化できるかもしれない。


「本当にここに来られる日が来るなんて…あの時言われたことを考えると、いつか本当に俺も…」


ザイオンは滝の前にいる「それ」を見て、思わず声を押し殺した。


恐ろしい生き物。ゾッとする光景。


もちろん、それは裸の女性だった。


明らかに人間ではなく、動物のようなふさふさした耳としっぽがあったが、ケチュアとは全く違う。


滝の音で気づかなかったのだろう、湖にいた雌はザイオンの存在に気づいていないようだった。


ザイオンはこの状況から逃げようとしたが――


「あっ!」


石につまずき、惨めに水の中に転がり込んだ。


気づいてませんように――


遅かった。雌は凍りついたように立ち尽くし、幽霊でも見るような目でザイオンを見つめていた。


ザイオンが雌を見る。

雌がザイオンを見る。

……


少女は追い詰められた動物のように防御姿勢を取り、牙をむいた。


「うわあっ…」


彼女は左右を見回すと、走り出した。


そして惨めに水に転んだ。

ザイオンは彼女を責められなかった。苔の生えた石は確かに滑りやすかった。


彼女は再び走ろうとしたが……


また転んだ。


ザイオンの脳は適切に反応できなかった。


彼女は逃げようとしたが、少女の足は濡れた滑りやすい石の上で無駄に滑るだけで、まるで滑った洗面器から逃げようとする猫のようだった。


「あ、あの…だ、大丈夫ですか? 邪魔してしまったならすみません――」


彼女は泣きそうな顔で、前髪で顔を隠しながら再びザイオンの方を向いた。


そして今度はザイオンの方へ走ってきた。


これは自然なことだった。全ての動物には二つの防衛本能がある:逃げるか、戦うか。


選択肢がなく、惨めな少女は攻撃を選んだ。ザイオンが反応する前に――


彼女はつまずき、ザイオンの上に倒れ込んだ。


ザイオンが異性とこんなに密接に接触したのは初めてだった。その柔らかさとエキゾチックな見た目の細部は確かに目を引いたが、感じたのは恐怖と不安だけだった。


耳も乱れた白い髪もふさふさしていた。青い目は印象的だったが、少女は今度は転ばずにザイオンが来た道を走り去ったので、よく観察できなかった。


全てはほんの一瞬の出来事だったが、永遠のように感じられ、今では信じられない記憶となっていた…


雨が降り始めた時、ケチュアは木の下にいた。一見廃墟のような家に入るべきかどうか一瞬考えたが、再び毛づくろいが濡れる記憶の方が強かった。


中に入ると、まず何も見えなかった。とても暗く、まるで住人が内部の熱を逃がしたくなく、外部の目に入られたくないかのようだった。


もちろん、暗闇にすぐ適応できる目を持つケチュアにとっては大した問題ではなかった。そして周囲を観察し始めると、手入れが行き届いていることに気づいた。確かに粗末な家だったが、誰かがここに住んでいることは明白だった。


(誰か寝てるのかな?)


ケチュアは家を調べた。難しくはなかった。部屋は二つだけ:台所兼居間のような部屋と、寝室と思われる部屋。


寝室とわかったのは、質素な家の雰囲気とはかけ離れた、非常に新しく手入れの行き届いたベッドと他の物品があったからだ。


そのベッドはケチュアが今まで寝たどのものよりも良かった。育った港町で見た金持ちの豪華なベッドほどではなかったが、旅の間ずっと寝ていた地面よりはるかにましだった。


(まあ、誰もいないよね?ちょっと休んで、警戒してれば大丈夫でしょ…)


彼女はベッドに座り、罪を犯しているかのように(実際そうかもしれないが)怯えた猫のようにきょろきょろと周りを見回した。

そして、数秒で全ての恥ずかしさが消えたかのように、超活発な子猫のようにベッドの上で跳び回り始めた。


「へへへ」


ケチュアはどれくらいの間、こんな快適なものに横になっていなかっただろうか?実際、干し草で寝ることに慣れていたケチュア自身もわからなかった。


「ザイオンにここに泊まろうって言ったら断らないよね?彼も疲れてるはずだし。ベッドの端っこぐらいなら貸してあげてもいいけど」


ケチュアは旅で疲れた足の痛みと、柔らかく清潔な布団を見ただけで休みを懇願する背中を感じた。


(ちょっとだけなら休んでも大丈夫、寝なければ…)


ケチュアは一日遊んだ子猫のようにベッドをふかふかにし始めた。疲れた背中をまっすぐにする完璧な位置を探しているかのように、さまざまな姿勢で落ち着き、自分の匂いをそのベッドに刻み込みたいかのようにシーツに体を擦りつけた。


(ただ警戒して寝なきゃいいんだから…)


そう思いながら、ケチュアは眠ってしまった…


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