表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アストラド:終わりの始まり  作者: タブリス
4/12

第4章

その後、エルフの女性は二人を村の東側にある川へと連れて行った。


方向感覚に自信がないザイオンにとって、最初の試みのように街道を行くよりも川沿いの道を進む方が安全だった。エルフは最も優れた川の航海者ではあるが、ザイオンのようにずっと閉じこもって本ばかり読んでいたエルフには航海の知識も、詳しい友人もいなかった。


それに、川の道は危険だった。大湖に着く前に、呪われた沼地を通らなければならない。安全で常に人が行き交う街道とは違い、川沿いの道には恐ろしい魔獣が棲んでいた。


困難な旅路になるが、少なくとも追手の心配はない。というより、他に選択肢がなかったのだ。


ガーディアンが先導し、ザイオンとケチュアが後ろについていく。しかし、彼女が頻繁に振り返り、厳しい表情で見張っている様子は、助けるというより早く出て行けと監視しているようだった。ザイオンは怒っていなかった。むしろ安心していた。ザイオンはこのガーディアンのことをほとんど知らず、子供の頃のわずかな記憶があるだけだ。結局、彼女についての情報は他人からの聞きかじりが多く、とても厳格な人物だと知っていた。だから、旅の間ずっと無言なのも当然だった。


まず彼女は橋近くの自宅に寄り、何か入った瓶を取ってくると、すぐにまた道を進み始めた。


しばらく森を歩くと、漁師たちとカヌーが並ぶ川岸に着いた。


「おい、フモさん! 調子はどうだい?」


ミティが声をかけた相手は、川岸でカヌーを磨いている中年のエルフだった。


「おお、ミティか! 元気か? お父さんは?」


「相変わらず頑丈です。修行ばかりしています」


「ははは、俺が『少し休んで俺と釣りでもしたらどうだ』って言っても聞かないよ。お前が跡を継いだら少しは休むかと思ったが、やっぱり頑固者だな。まさかまた息子のやつが問題を起こしたんじゃないだろうな?」


「いいえ、今回はお願いがあって来ました」


「後ろの二人のことか? うーん…」


男は二人をじろじろ見たが、なぜか最後まで何も言わなかった。


「ああ、それから北方の商人から預かっていたワインです。どうぞ」


ミティから瓶を受け取ると、男は赤ん坊を抱くようにワインを抱え、耳が裂けんばかりに笑った。


「ああ、お前は本当に良い子だ。いつも年寄りのことを気にかけてくれる。ははは。で、二人をどこまで送ればいい?」


「森の入り江までお願いします」


「あそこは危険だぞ。準備はできているのか?」


「その心配はいりません。すぐに出発できるそうです」


ミティが代わりに即答した。今の状況を考えれば、無料で送ってもらえるだけでもありがたかった。


「わかった。でも今出発すると夜になってしまうが、それでもいいか?」


「問題ありません」


ミティはすぐに立ち去り、ザイオンがエルフの男と食料や旅の詳細を話し合うのを任せた。ザイオンは街道を行く長旅に備えて十分な食料を蓄えていたので問題なかった。道中何があるか不安だったが、男は旅の間ずっと詳しく教えてくれると約束してくれた。


彼らは朝のうちに出発し、夜にはエルフの支配地域から遠く離れた沼地の南岸に到着した。


「さて、ここから先はお前たち次第だ。俺はここで引き返すが、また会える日を楽しみにしているよ」


フモはそう言い残し、村へと帰っていった。今日中に旅を終えられなくても、森の近くで野営する方が沼地で眠るより安全だった。


ザイオンは果てしなく広がる霧を見つめ、深くため息をついた。


「はあ…どうしてこうなったんだ?」


ザイオンはただ薬草の勉強をし、普通の商人のように旅がしたかっただけなのに、囚われの身から逃亡者になり、今では不気味な森で奇妙な生物と一緒にいる。村を出る選択をしなければ、今頃はハンモックで本を読みながら穏やかに眠っていたかもしれないと考えずにはいられなかった。


「そんなに悪くないよ。生きてるし、食料もあるし」


ケチュアが平然と言うのを、ザイオンは眉をひそめながら見た。


「そんな目で見ないでよ。今は同じ船に乗ってるんでしょ? 助け合わないと。大丈夫よ、街一番強い悪魔がついてるんだから」


「お前を誘った覚えはない。勝手についてきただけだ。寝ている間に殺されて食料を奪われないとどうして分かる?」


「ひどいな、そんなことするわけないでしょう」


「さっき殺そうとした冒険者たちは?」


「あれは違う。あの人たちがまず私を捕まえたんだから。ただちょっと懲らしめてあげただけ、えへへ」


ケチュアは悪戯っ子のような笑い声を上げた。


「でも、あの時エクソシストに連れられそうになった私を助けてくれたよね。あれはありがとう」


ザイオンは再びケチュアを見た。橋の上のあの瞬間を思い出していた。知らない相手だったが、ケチュアは悪い人間には見えなかった。おそらくその言葉は本心からだろう。ザイオンはこの場所について知識を持つ唯一の人間だった。それに、薬学に詳しいドルイドでもある。いくつかの攻撃魔法も知っており、ある程度は自分を守れる。最悪の場合、略奪に遭うかもしれないが、ケチュアも危険な場所で魔法使いを無駄にすることはないだろう。ザイオンの表情が和らいだ。


「どうしたの? まさか私に惚れた?」


「はあ…今夜の野営地を探そう」


「ここじゃダメ?」


「水辺は危険すぎる。大蛇や巨大トカゲが出るかもしれない」


彼らは森の入り口にいたので、まだ安全なはずだった。体は空気より地面から多くの熱を奪われるため、理想は地上を徘徊する魔獣から離れ、木の上にハンモックを吊ることだ。少なくともエルフは森でそうする。この湿った森に安全な場所はないだろう。ザイオンは船頭と旅の間話したが、多くはなかった。どうやらフモは以前も他の悪魔を運んだことがあり、危険な渡しに慣れていたらしい。だからあまり質問しなかった。結局、とても静かな旅だった。


ザイオンは森の中の少し開けた場所を見つけ、急ごしらえの野営地の準備を始めた。水を沸かし、食事を準備し、暖を取る必要があったため、まず火を起こした。煙で目立つのは良くない。あのエクソシストが追ってきているかもしれない。そこでザイオンはトレンチファイア用の穴を掘り、ケチュアが火の燃料になる乾燥した材料を探しに行った。この湿度では火打石は使えないため、ザイオンは魔法で火を点けた。


「魔法で何でもできるんだね? あの戦いで私を止めた時から気になってた。あなた、結構強いじゃない。魔法戦士なの?」


ケチュアが尋ねた。


「いや、俺はドルイドだ。魔法の才能があるからもっと強くなれると言われたことはあるが、基本しか知らない。俺は薬学と薬草の使用にもっと興味がある。それに、誰も戦闘技術を教えてはくれなかった。今の知識を習得するのでさえ大変だった」


「どうして?」


「長老たちに育てられたから――」


答え終わる前に、ケチュアがザイオンの口を塞いだ。


最初は驚いたが、ケチュアが囁くとザイオンも理解した。


「何かが近づいてる。来た道から」


「エクソシストか?」


「違う。地面を這っている。もう周囲を囲まれている」


突然、地面が動いた。


正確には、周囲の落ち葉や小枝が、誰かがかき混ぜているかのように動き始めた。


そして突然止まった。


「地中蛇だ――」


ザイオンが言い終わる前に、巨大な口が彼の顔めがけて飛んできた。地面から直接顔に向かってきた。避けるのは不可能だった。ザイオンは無駄に身を引こうとしながら腕で頭を守ったが、蛇の方が速かった。


鋭い牙が視界を覆い尽くす瞬間、何かがザイオンの顔の前に差し出された。


ケチュアの腕だった。


ケチュアは口の中に腕を突っ込んだため、牙はしっかりと食い込まなかったが、それでもケチュアは痛みで叫んだ。


ケチュアは腕に食い込んだ蛇の頭を力いっぱい叩いたが、生物は離れなかった。


「『グラキウス』!」


ザイオンが凍結魔法を放った。


蛇は腕を離し、森の中へと退却していった。


しばらく沈黙が続き、ザイオンが尋ねた。


「もう行ったか?」


「うん、もう遠くまで逃げた。聞こえなくなった」


ケチュアは腕に手を当て、地面に座り込んだ。


「傷を見せてくれ」


「大丈夫、深くはない。消毒する」


ザイオンはリュックから液体を取り出し、ケチュアの腕に塗った。


「はあ…あのクソ野郎、どこから現れたんだ?」


「川からついてきたんだろう」


「歩いてる間は気配を感じなかった」


「おそらく匂いを嗅ぎつけ、我々がここに着いてから跡を追ったんだ」


「ちくしょう。あの生物が戻ってきたらどうする?」


「戻らない。すぐには。地中蛇は警戒心が強く、普段は姿を見せず戦おうともしない。だが非常に賢く、毒を注入して攻撃したら逃げ、毒が回った頃に戻ってくる。再び攻撃するには数日かかる」


「じゃあ私、毒されたってこと?!」


「大丈夫、言ったようにこの毒は即死しない。壊死性の毒で、効果が現れるには数日かかり、徐々に体力を奪う。特効薬は持ってないが、森で採った薬草で作れる。その間、症状を和らげる軟膏と薬草を使い、免疫力を高める魔法をかける」


「はあ、どうしてドルイドになりたいのかわかったよ。あなた何にでも備えてるんだね」


「ボタン草、セントジョーンズワート、ターメリック…これで痛みは和らぐはず…」


ザイオンの薬を塗られた後、ケチュアは木によりかかり、ザイオンが野営の準備を終えるのを待った。しばらくすると、ケチュアは寒気と疲労を感じ始めた。


「毒に対する反応が出始めたようだ。良い兆候だ。すぐに効果が弱まる。明日の朝には良くなるはず。休んでくれ。私は冷湿布を準備する」


「でも…魔獣が来たら?」


「心配するな。私には一晩中起きていられる薬がある。安心して休め」


ケチュアの頭に冷湿布を当てると、ザイオンは再び傷に薬を塗り、マッサージを始めた。


眠気でぼんやりとした視界の中、ケチュアは夢うつつになり、過去にタイムスリップしたかのようだった。なぜか、この光景はとても懐かしく感じられた。


「冷湿布を替えるから…」


ザイオンが立ち上がろうとするのを、ケチュアは弱々しく引き止めた。


「ああ…」


「あ、ああ、わかった。ここにいるよ。大丈夫、きっと大丈夫…」


ケチュアはこんな風に看病された記憶はなかったが、誰かの姿が見えた。懐かしい人物だ。その人物は彼女の手を握り、女性的な声で「大丈夫、きっと大丈夫…」と囁いていた。記憶と夢の中に迷い込みながら、ケチュアは眠りに落ちた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ