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アストラド:終わりの始まり  作者: タブリス
2/12

約束する

「助かったよ。あの袋、ほんとに鬱陶しかったんだ。自己紹介が遅れたね。私はケチュアだ」


「ザ、ザイオン。は、はじめまして……」


「握手でもしたいところだけど、今はちょっと手がふさがっててね」


彼はその手が何かに縛られているのに気づいた。


「それ、手首についてるのは?」


「よくわからないけど、動きすぎるとトゲが刺さって、気絶するのよね」


ザイオンはすぐにそれが何かを見抜いた。


「そ、それは『黒蔦』だ。毒性があって、ナイフで切っても安全とは言えない」


「ふぅん? 毒に詳しいみたいだね」


「い、いや、その……僕、そういうのを研究してるから……」


「なら、毒を中和する方法も知ってるんでしょ?」


その瞬間、自分のミスに気づいた。


「あ、あぁ……」


「ねぇ、教えてよ。教えてくれたら、私たちをここから出してあげる」


「ご、ごめんなさい。でも、僕たちは教会に着くまで待つべきなんです」


「教会? 教会が“審判”にかける者たちに何をするか、知ってる?」


「な、なに?」


「首をはねるのよ」


「で、でも僕は悪魔じゃない……!」


「じゃあなんで捕まったの? たとえ違ったとしても、悪魔として裁かれたら、悪魔と同じように殺されるのよ」


「そ、そんな……」


「今、そう裁かれたでしょ? 武器を向けられて、ここに投げ込まれた。もう一人の悪魔と一緒に。人間はそういうものよ」


否定したかったが、彼女の言葉はどれも真実だった。


「ねぇ、協力してくれたら、二人で逃げよう。そしたら、何事もなかったことにできる。あなたには、もう失うものなんてないでしょ?」


「……わかった。でも、約束して。誰も傷つけないって」


「いいわ。約束する」


少女は笑い、ザイオンは手で印を描き始めた。


『インマトゥラ・カヌス』


植物は一気に枯れ落ち、まるで一瞬で老いたようだった。


「すごい……」


少女は自分の手……いや、まるで巨大な獣の前足のような爪を見つめて感嘆した。


「じゃあ、後ろ足の方もお願い」


ケチュアは身体をずらして後ろ脚を見せ、ザイオンは再び同じ呪文を唱えた。結果は同じだった。


「はぁ〜……」


少女は地面に伸び、巨大な牙を見せながらあくびをした。


「ありがとう。さて、私の番ね」


少女は立ち上がり、手をザイオンに差し伸べた。


ザイオンを引き上げたあと、ケチュアは後ろを振り向き、壁に拳を叩きつけた。壁は爆発したように砕け飛んだ。


「な、なんだ?! なにが起きたんだ!?」


「草と檻で私を閉じ込められると、本気で思ってたの?」


外の光がケチュアの真の姿を照らし出す。彼女は背が高い。角のように見えた頭の突起は、実は長い耳だった。服には複雑な模様が描かれていたが、今は色褪せて古びていた。さらにその服は身体にぴったりと張り付き、特に豊満な胸元が目立った。体の一部は、茶色からベージュまでの毛で覆われていた。


「フルト、毒!」


ララが叫び、フルトは剣に魔法をかけた。


『ポイゾヌム』


「その手はもう通じないよ」


ケチュアはララの斬撃を爪で防ぎ、逆に蹴りを入れた。ララは吹き飛ばされた。


「ララ!」


フルトが叫んだが、返事はなかった。


「クソッ……フレド、ララを頼む! イザ、援護してくれ!」


「ケチュア、攻撃しないって約束したじゃないか!」


ザイオンが叫ぶ。


「してないわ。私は、反撃してるだけよ」


ケチュアは自分に向かって飛んできた矢を簡単に片手で受け止めた。すぐに走り出し、イザにたどり着くと、平手打ちのような一撃で彼女を吹き飛ばした。同じように、魔法を詠唱中だったフルトにも同じ攻撃を仕掛けた。


ケチュアはゆっくりとフレドに近づき始めた。彼は倒れたイザをかばって立ちはだかっていたが、彼女はすでに治癒されていても意識を失ったままだった。


「け、けだものめ……」


フレドは震えながら杖を握りしめた。


『クリエイター・アルボリア』


突然、ケチュアの首にトゲ付きの首輪が現れた。


「それ、さっきの首輪と同じだ。何かすれば毒にやられるぞ」


ザイオンが言った。


「……どういうつもり?」


「僕はもう関わりたくないんだ。あなた! 行っていいから、皆を連れて行って。僕たちのことは放っておいてくれ」


「あなた……」


ララが立ち上がりながら言った。


「……いいだろう。行かせてやれ」


フルトが答えた。


「フルト!」


「行かせてやれって。勝ち目はない。これが最善だ」


ララは舌打ちをして、俯いた。


「ケチュア、行こう。お願い」


「了解です、ザイオン様」


二人はゆっくりと冒険者たちの間を通り抜け、その場を後にした。



「ご、ごめん……僕、ただもう争いたくなかっただけで……」


ザイオンはうつむきながら言った。


「いいのよ。無事に出られたんだから。それに、あなたの『魔法』はなかなかすごいわね」


「い、いや、その……君の方こそすごかったよ……」


「でしょ? 私、強いでしょ? あんな冒険者たち、私にとっては全然問題なかったわ。ただ、あの時はお腹が空いててー」


ケチュアの言葉が突然止まった。


「ど、どうしたの?」


ザイオンが彼女の顔を見ると、ケチュアは立ち止まり、前方を見つめたまま恐怖に凍りついていた。


その視線の先を見たザイオンは、遠くの道の向こうに人影を見つけた。視力の優れた彼でさえ、その人物の姿ははっきりとは見えなかった。


「『エクソシスト』……」


「えっ、今なんて?」


「『エクソシスト』が来る! 逃げて!!」


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