第11章
夜の闇の中、ひとつの影がゆっくりと空を移動していた。
今これを見た人がいたら、ゴミ袋を運ぶ箒を見たと思って驚くことだろう。
しかし、実際に空を飛んでいたのはフレデリカだった。問題は、箒に乗って飛ぶには訓練が必要で、基礎的な魔法知識しか持たないフレデリカは、必死に箒にしがみつき、手足で抱きつくしかなかった。干されている洗濯物のように、箒にぶら下がる格好だ。
実は、フレデリカのクライアントの妻は夫と喧嘩した後、「いとこのいる街でしばらく過ごす」と言って出て行った。明らかに嘘で、実際は愛人と会うためだった。フレデリカが今必要としていたのは、妻の不貞行為の証拠だった。
「よし、坊や。稼ぎ時だわ。あーっ!」
鞄からアイテムを取り出そうとしてバランスを崩し、フレデリカは危うくそれを落とすところだった。拾い上げたアイテムを胸に抱きしめながら思った。
(はあ...この高価なアイテムが元を取れるといいんだけど)
それはレンズがはめ込まれた指輪のような魔法アイテムで、目の前の光景を記録することができた。画家がモデルを長時間静止させる代わりに使うものだが、画質は良くなかった。それでも使いやすさから、フレデリカはかつて取引のあった商人から高値で購入し、常に持ち歩いていた。
宿屋の前で、フレデリカは窓を覗き込みながら身を隠そうとしていた。長い待ち時間の末、ついに男と不貞妻が部屋でキスを始めた。
「この淫らめ!いきなりそんなことするの?」
フレデリカは魔法アイテムを調整し始めた。
「さあ見せてごらん、どうやるのか...」
「お母さん、あそこで誰か飛んでるよ!」
フレデリカが「行動」を記録しようとしていると、通りかかった子供が指さした。
「見ちゃダメよ、変質者よ!」
母親は子供の頭を押さえ、急ぎ足で去っていった。フレデリカは極めて恥ずかしい状況に置かれた。
(ああああ!なんで!こんな時間にたった一人の子供が私の真下を通りかかるなんて!)
顔を隠したい衝動を抑え、フレデリカは仕事を続けた。
◆◆◆
法廷では熱い議論が交わされていた。
「異議あり!彼女はプライバシーを侵害する違法な方法で証拠を集めました!」
「ポッサム・ヴェヌム!被告側は証拠の出所を問題にすることで、証拠そのものを無効にしようとしています」
「静粛に!」裁判官が槌を叩き、フレデリカと被告側弁護士を遮った。
「被告は証拠収集方法について別途訴えることができる。本案は証拠の内容に基づき判断する。証拠は明白である。原告の勝訴を認める。次回は持参金と財産分与について審議する。閉廷!」
裁判官が再び槌を叩くと、フレデリカは被告側弁護士に向けて勝ち誇った笑みを浮かべた。
怒った弁護士がフレデリカに詰め寄った。
「おいフレデリカ、お前みたいな下衆は売春宿で働くべきだ。まあ、無資格の藪弁護士が法廷に立つのを禁止されれば、すぐそうなるだろうがな」
「藪弁護士」とは無資格で法律業務を行う者を指す言葉だった。フレデリカは学業を終える前に家族が没落したため、実際「弁護士」より「藪弁護士」の方が正しかった。
内心イラつきながらも、フレデリカは肩をすくめて返した。
「売春宿の合法的な商売には何の問題もないわ。ただ、あなたのお母さんと働くのは耐えられないけど」
「何だって?この平民めが!」
「失礼、クライアントさんの脱税対策に行かなきゃ。あなたのクライアントさんからいただく持参金を有効活用するためですから。ではまた~~」
フレデリカは背を向けて立ち去った。
◆◆◆
「ふんふんふ~ん」
フレデリカは家兼事務所に帰りながら、これからのことを考えていた。
(そろそろロゼアンに会いに行かないと。前回持って行ったドライフルーツもそろそろなくなるころだ。今回は食べ物以外のプレゼントを持って行くべきかしら?でも彼女はドレスとか好きじゃないタイプだわ。いつまであの場所に閉じこもってるつもりなんだろう...)
そう思いながらも、フレデリカは現状に対する自分の責任を感じていた。両親の真実をロゼアンに話す勇気がなかったからだ。いや、実際は自分自身が真実に向き合う勇気がなかった。
(なんで?なんであのバカどもはあんなことを...?普通に学業を終えて、普通の人生を送れたのに...)
「はあ」フレデリカは立ち止まってため息をつき、自分の頬を軽く叩いた。
「ダメだ。こんなこと考えてる場合じゃない。ロゼアンのこと、私たちの人生をどう立て直すかを考えないと。あと少しなんだから!」
そう自分に言い聞かせながらも、働けば働くほど、学業を終えてロゼアンと首都で暮らすという目標から遠ざかっているように感じていた。
借金をすべきか考えながら事務所に近づくと、何やら騒ぎがあるのに気づいた。
(衛兵?私の事務所に踏み込んだのか?!)
「ちょっと!何してるのよ!私人の財産に無断で入るなんて!裁判所の令状は?!令状を見せなさい!」
入口の衛兵は彼女の訴えを無視して答えた。
「お前はフレデリカ・ナトゥラ・ディ・ファルコーニか?」
(待って!私の旧姓を知ってる?!)
「今はその苗字は使ってません。令状を見せなさいって言ってるんでしょう!また脱税の嫌疑なら何も出てきませんよ。ファビオ大佐とは友達ですから、確認してください」
「女を確保した。逮捕しろ」
衛兵は再びフレデリカを無視し、他の衛兵に指示を出した。衛兵たちはフレデリカの腕を掴んだ。
「ちょっと!待って!何の罪状も示さずに逮捕するなんて!放して!裁判を要求します!」
衛兵たちはフレデリカの抗議を無視し、連行していった。
◆◆◆
フレデリカは投獄された独房で叫んだ。
「ここに私を閉じ込めるなんて許しません!妹の面倒を見ないといけないんです!」
「無駄だよ。彼らは答えないから」
後ろの独房の奥から聞き覚えのある声がした。
「ヒューゴさん?!あなたも捕まったの?!」
ヒューゴ・フェリス・サンティスは小柄な新聞社のオーナーで、政府批判をよく掲載していた。フレデリカも「公共の敵」と呼ばれる政敵に対する摂政の裁判についてコラムを書いていた。
ヒューゴは力なく答えた。
「ああ。新聞社は閉鎖された。お前には逮捕理由を言わなかったのか?」
「いいえ。でもあなたが先に捕まったことを考えれば想像はつくわ。政治的弾圧ね。最低だわ」
「そうだ。摂政が近く大きな発表をするらしい。邪魔者は排除したいんだろう。すぐには出られそうにない」
「そんな...私はロゼアンの面倒を見ないと...」
(ロゼアン、どうか無事でいて)そう願いながら、フレデリカはどうすればここから出られるか、どれくらいかかるかを考え始めた...
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