春のお花見大会⑤
「おーい、川神くん」
見回りをしていると後ろから誰かに呼ばれる声が聞こえてきた。
声の正体は夏川さん、手を振りながらこちらに駆け寄ってきていた。
「そろそろ休憩時間だから行ってきていいよ」
ポケットの中のスマホで時間を確認するともう12時をすぎている。
「もうこんな時間になってたんですね、気づきませんでした。じゃあお言葉に甘えて、行ってきますね」
「おう、食堂開いてるからそこでご飯食べてきてくれ。着いたら学生証見せたら今日は定食無料提供してくれるはずだから。1時間くらいでまた戻ってきてくれ」
「わかりました、じゃあ行ってきますね」
それだけ告げて僕は食堂に向かった。
「あ、シロくん!お疲れ様です」
食堂には美月ちゃんが先に来てたみたいで、おかずのほうれん草のおひたしみたいなのをつまんでいる最中だった。
「お疲れ美月ちゃん。美月ちゃんも休憩?」
「はい!30分ほど前に休憩貰いまして、シロくんも今からですか?」
「うん、そうだよ。先に定食だけもらったからね」
「私のオススメはBランチの鯖の味噌煮定食ですよ!」
目をキラキラとさせながらオススメを教えてくれた。
今日も彼女は元気いっぱいみたいだ。
そんな美月ちゃんのオススメのBランチを食堂のおばちゃんから受け取り、美月ちゃんの向かいの席に腰を下ろす。
「現場の方はどんな感じでしたか?」
「さっきまではほとんど道案内とかだったかな。あとはちょっとしたゴミ拾いとか。受付の方もやっぱり忙しい?」
「そうですね〜。どんどん人が来てて、休憩前くらいに少し落ち着いてきてたんですけど忙しかったです」
デザートのわらび餅を食べながら教えてくれた。
「なんだか嬉しそうだね」
「だってなんだかお祭りみたいで、色んな人に案内とか渡してたんですけどどの人も笑ってて、楽しみにしてたんだなって、そう思うと私も嬉しくなっちゃって」
にっこりと笑いながら美月ちゃんはそう言った。
「…そっか」
その言葉に、その笑顔につられて僕も微笑み返した。
「じゃあ私そろそろ戻りますね!シロくん、後半も頑張らましょうね!」
勢いよく立ち上がり美月ちゃんはお盆を返却棚に置きに入った。
「うん!美月ちゃんも頑張ってね!」
その声が届いたのか元気な笑顔と一緒に手を振って美月ちゃんはそのまま食堂をあとにしていった。
そんな美月ちゃんの姿に少しだけ元気をもらえた気がして目の前のお昼ご飯を勢いよくがっついた。
食べ終わるとすぐお盆を返却棚に戻して食堂を出て行った。
「よし、いくか!」
少し背伸びをし、気持ちを切り替え見回りに戻ろうとした。
そんな時、食堂横のテラスにぬいぐるみを持った小さな女の子が1人、目をうるうるさせながら立っていた。