甘い過去
「今戻りました~」
今日の依頼をこなし終わった僕は1人部室に戻ってきた。
部室には優斗先輩が1人小説を片手に部室の机についていた。
「あぁ、おかえり冬馬くん。お疲れ様だったね」
こちらに気づき読んでいた小説にしおりを挟み、机の上に本を置いた優斗先輩はにっこり笑いながらそう言ってくれた。
「ありがとうございます。ほかの人たちはまだですか?」
「冬馬くんが一番だよ~。今お茶入れるからちょっと待っててね~」
優斗先輩はゆっくり立ち上がりポットが置かれているところに足を運ぶ。
僕は荷物を机のそばに置き、椅子に腰をかける。
椅子に座りながら僕は優斗先輩の方を見る。
慣れた手つきでお茶を入れ、今日のご褒美と思わしきお菓子を準備してくれている。
そんな姿を眺めながら僕はふと、あることが頭をよぎった。
「お待たせ。今日はカモミールティーと今日のご褒美はラングドシャを作ったからこれね~」
「あ、ありがとうございます。あの、優斗先輩」
「ん~?どうしたんだい?」
「優斗先輩って彼女とかいないんですか?」
「これはまた随分いきなりだね」
優斗先輩は読みかけの小説に手をかけながら少し驚いたようにそう言った。
優斗先輩って料理もできるし、身長も高いほうだし、顔立ちだって悪くない。正直イケメン顔だ。目が細いせいかおっとりしてる感じに見えるしモテないはずないと思うんだけど・・・。
「僕に彼女なんていないよ~」
「でも絶対モテますよね。こんなに料理もできるし・・・」
「ん~・・・僕は好きで作ってるだけだからね~」
少し困ったように笑いながら優斗先輩は小説をまた机の上に置いた。
「何か作るきっかけとかってあったりするんですか?」
「きっかけか~・・・そんなに大層なものじゃないんだけどね。昔好きな人がいたんだ。その子の誕生日の時になにかしてあげたいって思ってね。それでお菓子を作ってあげたら凄く喜んでくれたんだ。それがきっかけかな~」
「その渡した子とは何もなかったんですか?」
「そのあとその子は転校しちゃったからね。それにこれ小学校の頃の話だからかなり前のことなんだよ」
苦笑いを浮かべながら優斗先輩はお茶を啜った。
「そうなんですか・・・でも今も毎日お菓子作って来てくれるくれるのって大変じゃないんですか?」
「大変っちゃ大変かな~。でも僕のお菓子を楽しみにしてくれてるし、何より僕が作ったお菓子を笑顔で食べてくれてるのが僕は好きだからね」
大変でも作ってくれるのはほんとに僕たちのことを思ってなんだろうな。
「ちなみに今って好きな人はいるんですか?」
ラングドシャを一口食べながらさりげなく聞いてみる。
「ん~?それはね・・・」
優斗先輩が言いかけたその時、部室の扉が開いた。
「あーつっかれた~!帰ってきたぞ~!」
「戻ってきました~。あ、シロくんはもう帰ってきてたんですね」
「うーい、戻ったぞ~」
くそぅ、いいタイミングでみんなが帰ってきてしまった。
「みんなお疲れ様~。すぐお茶入れるから待っててね~」
「はーい。お、シロ、いいもん食べてるじゃん」
「今日のご褒美はラングドシャですって」
「優斗のラングドシャか、懐かしいな~優斗が初めてくれたのもラングドシャだったっけ」
「そうなんですか?」
「私の誕生日にな。なっつかしいな~。小学校の時だっけ?なぁ優斗」
「そうだっけ。忘れちゃったよ」
ん?小学校以来?
「杏果さんって小学校その後、転校とかしました?」
「ん?よく知ってるな。さては優斗か琢磨から聞いたな?」
「いえ、まぁ・・・」
ふと、優斗先輩の方を見る。
「どうかしたかい?冬馬くん」
お茶を入れながらにっこり笑いかけてくる優斗先輩。
「いえ・・・」
まさか・・・ね。