オープンハイスクールでの出会い⑨
気がつくとあたりは暗くなっていた。
楽しい時間はあっという間にすぎ、6時のチャイムが校内に鳴り響いた。
「もうこんな時間か」
「虹、そろそろ帰りましょうか」
「え〜、まだいいじゃん。まだ食べてないケーキもあるし〜♪」
「あなたはもう少し遠慮を知りなさい」
ビシッと木目さんの頭に果川さんがチョップをする。
「痛いよ〜三七姫ちゃん…」
「時間的にもうそろそろ帰らないと向こうに着いたら真っ暗になっちゃうし…」
「やだ!」
その日、初めて木目さんは激しく声を荒げた。その声に美月も冬馬もお茶の手を止めた。
「だって…せっかく仲良くなったのに…お別れするの寂しいよ…」
「虹…」
木目さんはか細い声でそう言い、残っていたケーキを頬張った。その目にはうっすらと涙が浮かんでいた。
「そうだ!じゃあ今度の連休に今度は私たちが行けばいいんですよ!」
パチンと手を叩き美月ちゃんはそういった。
「へ…?…来てくれるの?」
「はい!私もこのままお別れは少し寂しいので、今度は私たちからいきましょう!ね、シロくん!」
「あ、僕も一緒なんだね」
「もちろんです!」
「やったー!三七姫ちゃん!冬馬たち来てくれるって!」
「よかったわね虹、うちも嬉しいです!来てくれたら街の中案内しますね」
「冬馬、紙とペン貸して!行き方、教えてあげる!」
言われるがまま部室にある裏紙とボールペンを木目さんに渡す。
木目さんはその裏紙にサラサラッと街への行き方を書いて、はい!と冬馬に手渡した。
「これで私たちの街に来れるね♪」
そう言った時の木目さんの顔は笑顔に戻っていた。
そうして冬馬と美月は2人を校門まで送っていった。
「すみません、おみあげにお菓子までいただいて…よかったんでしょうか」
「はい!大丈夫だと思います!」
ほんとに大丈夫かな…結構な量無くなってるから杏果さんが後からなんか言いそうな気がするけど…まぁその時は部長になんとかしてもらおう。
「美月!ケーキありがとう!今日1日すっごく楽しかったよ!今度は私たちの街で会おうね!」
木目さんは美月ちゃんにハグしながらそう言った。そこには確かな友情があった。
美月ちゃんも、「はい!会いましょう!」とハグをし返していた。
こう言うのってなんかいいな
「冬馬も!今日1日ありがとう!」
そういうとすごい勢いで冬馬にもハグをしてきた。
「うぇ!?も、木目さん!?」
突然女の子からハグされるのに耐性がなかった冬馬は硬直したまま少しの間動けなくなった。
「虹、その辺にしときなさい、川神さんが固まっちゃってるから」
べりっと果川さんが冬馬にひっついていた木目さんを引き剥がす。
ごめんなさいうちの虹が…と言いながら果川さんはどこか楽しそうな顔をしていた。
美月ちゃんもそうだけど木目さんもなかなか距離感が近いから街に行った時もちょっと注意しないとな、と心の中で思いながら、照れ隠しに頭を少しかいた。
「じゃあね!冬馬!美月!今度は《となり街》でね!ちゃんと街の中案内するからね〜!!」
「はい!楽しみにしてますね!!」
「気をつけてね〜!!」
「今日はありがとうございました!川神さん!雨宮さん!さようなら〜!!」
こうして少し寂しいけど、また会う約束をして2人とさよならをした。
不思議な子たちだったけど、どこか暖かさがある2人だったな…。そう思いながら部室へと戻る2人だった。
「みーちゃん!シロ!ご褒美が!あれだけあったケーキがこれだけしか無くなってるんだけど!?どう言う事!?」
部室に戻ってくるなり、すごい勢いで杏果さんが詰め寄ってきた。
やっぱりこうなったか…
「えーっと…とりあえずチーズケーキだけ残してれば好きなようにしていいって部長から言われてたので…その〜…お客さん用に出しちゃいました…」
「琢磨〜!!」
「なんだよ杏果!!あんだけあったのはお客さん用にあっただけでお前用じゃないんだよ!!」
「それでもチーズケーキしか残ってないのはどういう事だよ!!」
「杏果ちゃん、ホットケーキならすぐできるから落ち着いて!2人とも、杏果ちゃんを抑えるの手伝って!」
「杏ちゃん先輩落ち着いてください〜!」
こうして賑やかな2人がさった後も万屋部は賑やかなままだった。
そんな2人の街に行くことになったのはまた別のお話。