冬馬の風邪③
部室を後にした冬馬と美月はゆっくりと靴箱に向かって歩いていた。
冬馬の足取りは部室にいた時よりはマシにはなっているが、それでも少しふらついていた。
「シロくん、本当に大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫」
「でもさっきからフラフラしてませんか?」
「そう…かな」
「そうですよ。やっぱり手を握っておいた方が良さそうですね、さぁ」
そう言うと美月ちゃんは手をこちらに差し出してきた。
「いや、それはちょっと、その…」
「嫌ですか?」
「嫌ではないんだけど…その…恥ずかしいって言うか…」
「こうなったら問答無用です!」
そう言うと右手をパシっと取られ無理やり手を握らされた。
美月ちゃんの手は冷たくて気持ちよかった。
美月ちゃんに引っ張られながら靴箱へと歩みを進める冬馬たち。
「シロくん、無理はダメですよ。夏菜ちゃんもすっごく心配してました。シロくんが寝てる間、杏ちゃん先輩も優斗先輩も部長さんもみんな心配してたんです。」
ぎゅっと握っていた手の力が強くなるのを感じた。
「だから今日と明日は安静に休んで、また元気に部室に来てください」
「……ごめんね美月ちゃん、ありがとう、先輩たちにもお礼を言わないとね」
「それは私から言っておきますよ〜」
美月ちゃんはにっこり微笑みながらそう言ってくれた。
気がつくと靴箱についていた。
「おにぃ!」
玄関先から聞き覚えのある声が聞こえてきた。どうやらここまで迎えにきてくれたみたいだ。
「大丈…夫…」
「ごめんな、夏菜。わざわざ迎えに来てくれて」
「ううん、いいの。ところでお兄ちゃん、どうして雨宮さんと手を繋いでるのかな?」
そのセリフに慌てて美月ちゃんの手を離した。
「いや、ちょっとフラフラするから支えてもらってて……夏菜…さん?」
「ふーん…」
じとっとこちらを見つめてくる。なにも言わないが何か圧を感じる。
「雨宮さん、兄がお世話になりました。部室の皆様にも後日お礼をさせてください」
「ううん、大丈夫だよ夏菜ちゃん」
「では、兄を連れて帰りますね、ほら行くよお兄ちゃん」
そう言うと少しそっけない感じに反転し、冬馬の手をしっかりと握り、学校を後にするのだった。
「おい、なんかそっけなくないか?」
「別に」
「なんか怒ってる?」
「怒ってない」
「ならいいんだけど…」
「……おにぃのばか」
「なんか言ったか?」
「なんでもない!早く家帰ってとっとと休んで!早く治して!」
やっぱりなんか怒ってる。
まぁこいつにも迷惑かけてるし、また何かお礼にどっか連れてってやるか…そう思いながら夏菜に連れられてなんとか家に帰った冬馬なのだった。




