あだ名②
「よし、じゃあまず美月から決めてやろう!」
「よろしくお願いします!」
最初の犠牲者は純粋無垢な美月ちゃん。
「ん~~・・・」
腕を組みながら悩む杏果さん。変なのに決まらなきゃいいんだけど・・・。
「みーちゃん・・・みーちゃんでどうだ!」
そのセンスは相変わらずだった。
「どうだ美月!みーちゃんで!」
「はい!猫ちゃんみたいで可愛らしいです!」
あ、美月ちゃん的にはありなんだね・・・。
「じゃあこれからはみーちゃんだな!」
「はい!私はこれからみーちゃんです!」
まぁ本人が満足ならそれでいいんかな・・・。
「よ、よかったね、美月ちゃん」
「違いますよ冬馬くんだね!私のことは、みーちゃんって呼んでください!」
前言撤回。これは良くない。
「流石にそれは・・・恥ずかしいんだけど・・・」
「じゃあせめて今日だけはみーちゃんって呼んでくださいね♪」
「わ、わかったよ・・・み、みーちゃん」
やっぱり呼びづらいって言うか恥ずかしい・・・。
本人は満足そうな顔してるんだけどなー・・・
「じゃあ次は冬馬だな!」
「あ、私も考えてもいいですか?」
乗り気なふたりに反して冬馬は半ば諦めていた。
だってみーちゃんとかオタクとかのレベルなんだもんな・・・
「川神・・・川の神だしヌシとかでいいんじゃないか?」
全く良くない。というか投げやりすぎじゃない?
「さすがにそれは・・・」
「じゃあ冬馬くんの冬の文字をとってシロくんなんてどうでしょうか?」
「それじゃあまるで犬みたいなんだけど・・・」
「えぇ~・・・可愛くて良いじゃないですか」
「よし、じゃあヌシかシロ、どっちか選んでいいぞ」
「僕に拒否権ってないんでしょうか・・・」
・・・どうやらないみたいだ。こうなったら選ぶしかないんだろうけど・・・どっちも嫌だなぁ~・・・。
どちらかというと、ということで僕は渋々美月ちゃんが考案してくれたシロを選んだ。
「そういえば杏果先輩にはあだ名とかないんですか?」
「ん~?そういや無いかな~」
「でしたら考えます!」
どうやら美月ちゃんはあだ名決めにハマったみたいだ。
「私はなんでもいいよ~」
「じゃあこんなのはどうだ?」
さっきまで凹んでた部長が息を吹き返したみたいだ。
「なんだよオタク」
「その低身長で幼い見た目とは裏腹な運動神経と攻撃性の高さと杏果の名前を取って強化(杏果)人間なんて」
ヒュン
部長の方向に何かが飛んでいった。
見ると部長の後ろの壁にシャープペンが刺さっていた。
「オタク~、もういっぺん言ってみ?」
にっこり笑いながら言う杏果さんの手には次弾が握られていた。
「ダメだよ杏果ちゃん。壁に穴があいちゃうからね」
「はーい」
優斗先輩に注意されて杏果さんはボールペンを筆箱に戻した。
「おい優斗、あれが当たったら俺に穴があくんだが?」
部長の声は優斗先輩には届かなかった。
「そうだ!杏ちゃん先輩なんてどうでしょうか!」
手をパチンと叩いて美月ちゃんがそう言った。
「うん、杏果ちゃんにぴったりの可愛らしいあだ名だね」
「うん、いいじゃんそれ」
「じゃあこれからは杏ちゃん先輩です!」
こうして全員分のあだ名が決定した。
「・・・そういえば優斗先輩のあだ名って?」
「優斗はあれだ、お母さんだ」
「お母さんだよ~」
優斗先輩も満更でもない笑顔でそう答えた。