万屋部に初めて来た日②
「行事が終わったらこの教室まで来てくれ」
そう言って渡された紙には簡単な校内地図に赤のペンで丸が書かれていた。
ここに来いってことだよな…にしてもなんの部活だろ…へんな部活じゃなけりゃいいんだけど…
行事が終わり、地図を頼りに校内を歩き回る。
にしてもほんとに広い中の学校。校舎なんかあるんだよ…
渡された地図がなかったら確実に迷子だろうな。
そう思いながら冬馬は目的地に向かった。
「ここ…だよな」
訪れたのは旧校舎の部室棟。道中、いろんな文芸部らしき名前のプレートが扉の上に書かれてある中、地図に記されている部室の扉の上には何も書かれていなかった。
ほんとにここであってるのか?
疑問を抱えながら思い切って部室の扉を開いた。
「お、新入生か?」
中には女生徒が1人だけしかいなかった。
明るい茶髪のロングを後ろに括ってポニーテールにしている。見た目はちっさい。かなりちっさい。椅子に座ってるせいもあるかもしれないがそれでも冬馬のお腹あたりくらいまでしかないんじゃないのかな…
「?、なんだ?依頼か?」
「えっと…行事が終わったらここに来て欲しいって…男の先輩の人に言われて、これ、渡されてきたんですけど…」
そう言うと渡されていた地図をちっちゃな女生徒に渡す。
「あ〜!琢磨が言ってたやつか!あいつらならもうすぐ帰ってくるからそこに座って待ってていいよ」
「はぁ…」
言われるがままに椅子に着く。目の前では女生徒がお茶とケーキを食べている。
…なんか気まずい…
「そう言えば君、名前は?私、藤村杏果」
「あ、えっと、川神冬馬です」
「そっか、冬馬って言うのか。これからよろしくな!」
「えっと、僕まだこの部活に入るとは決めてないんですけど…」
「あれ?そうなの?」
ケーキをまた一口、口の中に運びながら藤先輩はなーんだと口にした。
「あの、藤村先輩」
「あー、杏果でいいよ。先輩なんて硬っ苦しいの痒くなるから」
「じゃあ…杏果さん、この部活って何する部活なんですか?」
「琢磨のやつから何も聞いてないの?あのオタクみたいなやつから」
「いえ、地図を渡されただけです」
「なんだよ、あいつ部長なのに…ちゃんと説明してやれよな」
愚痴をこぼし、残りのケーキを口の中に放り込んだ杏果さん。そのあと部活のことを教えてくれた。
「この部は言ってしまえば便利屋みたいな部活なんだ。運動部、文化部、先生や用具員の人まで幅広い人達から依頼を受けてその依頼をこなす部活なんだ」
「依頼…ですか?」
「そ。例えば、運動部からだとヘルプできてくれ〜だとか文化部だと園芸部の収穫の手伝いとかそんな感じ」
色んなところから色んな依頼を受けてこなすってことか…正直やっていける自信はないなこの部活…
「なんで僕はそんな部活に呼ばれたんでしょうか?」
「それは君がその素質を持っていると感じたからだよ」
部室の入り口から声が聞こえた。数時間前に聞いた声。あのオタクみたいな人の声だ。
「おい琢磨、せめて説明してやれよな」
「いや〜すまんすまん。時間がなかったからな、来てくれた時に説明しようとしてたんだ。それより、新入部員だぞ」
後ろから1人の女の子がひょこっと出てきた。
真っ黒なストレートのロングでまるで絹みたいな髪の毛でお人形みたいな顔立ちの綺麗な女生徒だった。
「初めまして、雨宮美月と言います。これからよろしくお願いします」
「新入部員の紹介も済んだところで話を戻そうか。と、その前に名前を聞いてもいいかな?」
「あ、川神冬馬です…」
「よろしく冬馬くん。俺は部長の尾上琢磨だ。こっちは春野優斗だ」
「よろしくね」
「よろしくお願いします…」
「でだ、君は色んな部活から招待されていたね」
「まぁ、そうですね」
「それはなんでだ?」
「まぁ身長が高いから…だと思います」
「そう!それは大きな個性だ!誇っていいと思う。ただそれだけ多くの部活から紹介を受けているのだったらどこに入ろうか迷ってるんじゃないのか?」
否定はできない。どこもかしこも必要としてくれているのだからどこかに決めないととは思うけど…
「だったらいっそのことその時々にだけ必要とされている部活に行くと言うのはどうだろうか?」
それは…
「杏果さんから聞きましたが依頼ってことですか?」
「あぁ、話は聞いてたか。なら話が早い。そう言うことだ。どうだろう?」
「僕にできるでしょうか…?」
「できるさ」
「依頼を任せるときは僕の方から言うからそこは安心してね」
春野先輩が手をひらひらさせながらそう言ってくれた。
「それに依頼達成したらご褒美もあるからな。損はさせんぞ」
ここまで言われたらもう引くに引けないか…
「…わかりました。改めて、一年川神冬馬です!これからよろしくお願いします!」
「おう!よろしくな!」
「じゃあ歓迎会をしないとだね」
「お!ケーキか!」
「杏果ちゃんはもう食べたでしょ」
「固いこと言うなよ優斗〜」
「全く…仕方ないな」
こうして冬馬は万屋部に入部したのだった。