杏果さんの運動紀行②
放課後、いつもの部室。
優斗先輩は万屋箱の中をあさり、今日の依頼を確認していた。
「う〜ん・・・今日は結構多いな・・・」
中身を確認した優斗先輩はそうつぶやいた
今日の依頼なんだけど結構量が多いんだけど大丈夫かな?特に運動部だから杏果ちゃんになるんだけど・・・」
「私は別にかまわないけど、そんなに多いの?」
杏果さんが椅子を漕ぎながら優斗先輩に聞き返す。
「えっとね、女子バスケ部の助っ人と柔道部のスパーリング、剣道部の対戦相手役、女子バレー部の監督が不在らしいからその代わりの計4つあるんだ」
「げっ、ほんとに多いな」
「明日は土曜日だからね、次の日練習試合が被ってるのかも。それでもかなり多いから今日はサポートに冬馬くんにも行ってもらおうかなって思ってるんだけど」
「僕ですか?」
「私じゃないんですか?」
美月ちゃんもおんなじ考えだったらしい。女子の部活なら女子である美月ちゃんが適任だと思ったからだろう。
「美月ちゃんの方にも依頼が来てるんだよ。裁縫部の顧問の竹中先生から代理顧問として来て欲しいんだって。だから今回は冬馬くんに杏果ちゃんの付き添いをしてもらいたいんだ」
「そういうことだったんですか」
てか美月ちゃんを代理顧問にしたいってくらい裁縫の腕あるんだな。確かに服も作れるくらいだからかなりすごいんだろうな。
「分かりました。じゃあ私の方は行ってきますね」
「うん、ご褒美用意して待ってるからね」
「はい、ありがとうございます!」
そう言うと美月ちゃんは鞄をもって部室をあとにした。
「さてっと、じゃあ私たちも準備していくかシロ」
「そうですね」
「ところで優斗〜、今日のご褒美ってな〜に〜?」
準備をしながら杏果さんは猫撫で声で優斗先輩に聞いていた。
こういう時だけ甘えた声を出すあたり卑怯なんだよな〜・・・
「今日は杏果ちゃんの好きなチーズケーキ、それもバスクチーズケーキでどうだい?」
「頑張ってくる!行くぞシロ!」
そう言うと杏果さんはすごい勢いで部室を出て行ってしまった。
「うぇ!?ちょ、杏果さん!?待ってくださいよ!」
「あ、冬馬くん、これ持って行って、きっと役に立つから」
そう言われ優斗先輩から保冷バックを受け取る。
「分かりました、じゃあ行ってきます!」
杏果さんの後を追うように僕は部室を後にした。
杏果さんの運動紀行②
「杏果さん、まずどこから行くんですか?」
廊下を走りながら杏果さんに尋ねる。
「柔道部と剣道部は顧問がいるからとりあえずバレー部経由でバスケ部からだな」
「バレー部はほっておいて大丈夫なんですか?」
「バレー部にはメニュー表渡しときゃとりあえず大丈夫だろう。まずはグラウンド20周くらいしといてもらって・・・」
グラウンド20周って・・・鬼コーチだな・・・
「とりあえずおんなじ体育館だからさっさと行くぞ!」
「は、はい!」
男女更衣室についた僕たち2人は、体操服に着替えて体育館へと向かった。
体育館に着くなり杏果さんは、女バレの人の1人に何かを話しにいってしまった。おそらくあの人が女バレの部長なんだろうか。
その人に何やら紙みたいなものを渡しているのが見えた。
話が終わったのか杏果さんがこちらに帰ってくる。
「じゃ、そのメニューでやっといて〜。よしシロバスケ部に行くぞ」
「さっきなんか紙みたいの渡してましたけどわれって・・・」
「ん?あ〜あれはメニュー表だよ。さっき着替えてる時に考えて書いといたんだ。ランニング終わった後、私らが間に合わなくてもやれるようにメニュー渡しといたからこれでバレー部はひとまず安心だ」
さすが杏果さん、顧問代理を任されるだけはある。
「ちなみにメニュー内容は・・・」
「絶対に終わんないと思うよ〜普段やってる量の倍くらいの量書いといたから」
わぉ・・・なんというか・・・すごい・・・
僕たち2人はバレー部がいた反対側のコートへとやって来た。
「じゃまーっす、来ましたよ〜」
「おじゃましまーす」
「おぉ、待ってたよ藤村さん。あれ?川神くんも一緒かい?」
女子バスケ部の顧問、英語の舘谷先生だ。
「こいつは今日の私の助手みたいなもんで、気にしないでください。じゃあ早速なんですけど何したらいいっすか?」
「あぁ、明日試合でその最終調整がしたくてな、藤村さんは2軍の黄色のビブスの方に入ってくれ」
「はーい、じゃあいってきまーす」
黄色のビブスを着て杏果さんはいってしまった。
そうして1軍と2軍の練習試合が始まった。
僕はじっと杏果さんのプレイを見ていた。杏果さんのプレイはのびのびとしていて、それでいてすごく楽しそうにプレイしているように見えた。
「あの、舘谷先生」
「ん?どうした川神くん」
「杏果さんはいつもあんな感じでバスケをしているんですか?」
「あぁ、藤村さんはいつもあんな感じだよ。いつも楽しそうに、そして全力でやってくれるからいつも助かってるよ。藤村さんは強いからね、彼女にはいつも試合前はこうして調整の依頼を出しているんだ。本当のことを言うと藤村さんをバスケ部に招きたいくらいだよ」
笑をうかべながら舘谷先生はそう言った。
僕自身も前からどうして杏果さんが万屋部にいるのか謎に感じていた。
正直、他の部活ならもっと活躍できてたんじゃないのかなんてことをふと考えてしまった。
ピピーっとホイッスルが鳴った音で僕は我に帰った。
前半が終了したみたいだ。
杏果さんがこちらにやって来る。
「シロ〜なんか飲み物とかある〜?」
「あ、えっとあると思います」
僕は優斗先輩が持たせてくれた保冷バックの中を漁る。
中にはスポーツドリンクが2本と謎のタッパーが入っていた。
「どうぞ、あとなんかタッパーが入ってたんですけど、これもどうぞ」
「サンキュー、なんだこれ?」
杏果さんがタッパーの蓋を開けると中にはレモンのはちみつ漬けが入っていた。
「やった!さすが優斗、わかってるね〜」
杏果さんはレモンのはちみつ漬けを2個、口の中に運んだ。
「それだけでいいんですか?」
「んー。残りもまだまだあるしな、残しとく」
「そうですか」
「どした?変な顔して?」
「変な顔してましたか?」
「なんていうか、暗い顔してたぞ」
どうやら顔に出てしまってたみたいだ。
「そんなことないですよ。普通の顔です。それより後半、頑張ってきてくださいね」
「おう、行ってくる」
少し首をかしげながら杏果さんは後半戦へと向かった。
こうして一つ目のタスクであるバスケ部の助っ人は無事に終わった。試合の結果としては、杏果さんの活躍もあったけど60対63で1軍の勝ちで幕を下ろした。
舘谷先生も結果に満足したみたいで僕たち2人は次のタスクである柔道部のスパーリングへと向かった。