バレンタインデーの万屋部③
「もうそろそろいいかな。じゃあみんな、これを梱包して靴箱に入れたら依頼終了だから、もうちょっとだけ頑張ろうね〜」
「これが終わればケーキ、これが終わればケーキ…」
杏果さんは何かに取り憑かれたかのようにブツブツと何かを言いながら、黙々と梱包していっている。
それに引き換え冬馬と部長は、ひとつ梱包が終わるたびにため息をつきながら作業をしていった。
「これで最後っと…優斗〜こっち終わったぞ〜」
「こっちも終わりました…」
「俺もだ…」
「僕の方も終わったから梱包はこれで終わりだね。冬馬くん、琢磨くん、お疲れ様だったね。とりあえず2人はこれで終わりで残りは杏果ちゃんにお願いしたいんだ」
「え〜私だけ〜?」
「靴箱に入れるのはさすがに男の子にやらすのはね。見られちゃうとあれだし、このチョコは杏果ちゃんが作ったって体を装わないといけないからね。ほんとは美月ちゃんもいれば2人に頼んでたんだけど…申し訳ないけどお願いするしかないんだ」
「まぁ仕方ないか。そのかわりケーキ大きめに頂戴ね」
「はいはい、分かってるよ」
「じゃあいってくるわ〜だとその前に、」
杏果さんは僕と部長の前に来ると、先ほど梱包したチョコを渡してくれた。
「あんまり可哀想だからふたつ余分に作ったから、あんた達にあげる。言っとくけどギリだからね。じゃ行ってくる〜」
そう言うと、梱包されたチョコを袋に入れて調理室から出ていってしまった。
「よかったね、2人とも」
「…はい、頑張った甲斐がありました」
「あいつもなんだかんだで優しいところあったんだな」
片付けを済ませ、杏果さんがくれたチョコを持ち、僕達3人は部室へと戻った。
部室に帰ると、そこには美月ちゃんの姿があった。
「あ、おかえりなさい」
「美月ちゃん、どこにいってたの?」
「すみません皆さん。実は家に忘れ物をしちゃって取りに行ってたんです…それで戻ってきても部室に誰もいなくって探してたんですけど…」
「僕達は調理室で依頼をしてたんだよ」
「そうだったんですか…」
「ところで美月ちゃん、忘れ物ってなんだったんだ?」
「あれそうでした!これ、皆さんにバレンタインチョコです!」
美月ちゃんはカバンから小さな箱を取り出し、僕達3人それぞれに配った。
「ありがとう美月ちゃん!」
「俺にもくれるのか!」
「僕にはよかったのに…わざわざありがとう」
「杏ちゃん先輩の分もあるんですが…そう言えばどこにいるんですか?」
「杏果ちゃんなら靴箱にあると思うよ。今依頼してくれてると思うから手伝ってきてくれるかな?」
「はい!じゃあいってきますね!」
そう言うと美月ちゃんは部室を後にしようとした。
「美月ちゃんはほんといい子だな〜こんな俺にもチョコをくれるだなんて」
部長は美月ちゃんがくれた小さな箱の梱包を丁寧に剥がしはじめた。
「琢磨くん、もうたべるの?」
「せっかく貰ったんだ、食べて感想を言ってやらないと」
部長が箱を開けると中には綺麗に装飾された丸いチョコが4つ入っていた。
「これは…ボンボンショコラかな?」
「まぁ食ってみりゃわかんだろ。いただきまーす」
4つのうちのひとつを部長が手に取り口の中に放り込む。
瞬間、部長は卒倒した。
ビクンビクンと身体を痙攣させている。
「優斗先輩…このチョコって…」
「まさか…手作り?」
嬉しいはずの贈り物はまさかの悪魔の産物だった。