バレンタインデーの万屋部②
冬馬たち4人は動きやすいジャージ姿に着替え、エプロンをし、調理室に来ていた。
目の前には大量の板チョコ。
今から依頼主(男子約15人ほど)のためにこの板チョコを使ってバレンタインチョコを作らないといけない。
あれ?なんだろうこの感情
「はーいみんな〜今からチョコレート作っていくよ〜」
「はーい質問で〜す」
「はい杏果ちゃん、なにかな〜」
「今日のご褒美なんですか〜?」
「今日のご褒美はホットチョコにザッハトルテです。だから頑張ってね〜」
「がんばる〜♪」
「他に質問はありますか〜?」
「あの…これ僕達も作らないとダメですか?」
恐る恐る手を挙げる。
「みんなで作らないと時間的に厳しいからね〜…申し訳ないけど手伝ってもらいたいんだよ。その分ご褒美はちょっと豪華にするからね」
「はい……わかりました…」
「じゃあまずチョコを刻んで溶かしま〜す。この時温めすぎないようにね。大体50〜55度目安にしたら大丈夫だよ」
大量の板チョコを包丁で刻み、ボールに入れ、湯煎をしてあるボールにつけて温める。
その短調な作業のはずなのに今までで一番辛いのはなぜ?
「ねぇ部長…」
「なんだ冬馬くん…」
「僕たちって…何やってるんですかね…」
「………みんなの夢を作ってるんだよ」
「夢…ですか」
「そうだ」
「なんでこんなに辛いんですかね…」
「……なんでだろうな」
あれ、おかしいな…目から汗が流れてくる…
「はーい2人とも〜泣かないでね〜チョコがしょっぱかなっちゃうからね〜」
「優斗先輩、やっぱり辛いですよこれ」
「ちゃんと2人にもバレンタインのチョコ作ってあるから、だから安心して、ね?」
「はい……」
「じゃ、じゃあ次ね。次は湯煎から離して水で冷やして温度を下げてね。この時27〜29度を目安に冷やす事。全体を混ぜながら冷やしすぎないように注意してね」
「はーい」
杏果さんはルンルン気分でチョコレートを作っている。それに引き換えこちらはもう冷え切っている。温度差でチョコが固まるんじゃないかってくらい冷え切っている。
「冬馬くん、琢磨くん、次で最後だからね〜。頑張ってね」
鼻を啜り、涙を堪えながらチョコを作っていく。こんなに悲しいバレンタインは人生初めてかもしれない。
「じゃあ最後だよ〜。最後はまた湯煎にかけるんだけどちょっとつけるだけで大丈夫だからね。温度は31〜32度が目安だよ。これが出来たらパレットナイフにチョコを薄く垂らしてみて数秒くらいでしっかり固まったら完成だよ〜。出来たらこの型に流し込んで固めたら完成だからね〜」
優斗先輩から型が支給される。その型はハート型だった。
堪えていた涙が再び出そうになった。
何が悲しくてハート型のチョコを、しかもよりにもよって男に作らないといけないのか…自分でも貰ってないのに…
この頃には冬馬の心はひび割れていた。
「部長…来年バレンタインの依頼やめません?」
「そうだな…こんな虚しいものは今年限りにしよう…」
2人は悲しみに暮れながらチョコを型に流し込み、依頼主のためのチョコ作りは残すところ冷やすのみとなった。