プリンを作ろう⑤
「すみません〜遅くなりました〜!」
「お、やっときたかみーちゃん。結構かかったね」
「ちょっと失敗しちゃって…私はいいのでこれ、皆さんで食べてください」
そう言うと美月ちゃんは杏果さんにプリンが入ってるであろう紙袋をわたした。
「ちょっと私まだ片付け終わってないので片付けにだけいってきますね。皆さんは先に食べててください!」
それだけ言い残し、美月ちゃんはすぐに部室をあとにした。
「いっちゃった…まぁいいか。じゃあみんなで食べようぜ〜」
杏果さんが紙袋からプリンを一つ取る。
「なに……これ……」
手に取った小瓶に入ってるのは真っ黒な塊だった。プリンと言うには真っ黒すぎ…と言うか漆黒なんだけど……。
その光景に数秒、全員が固まった。
「ま、まぁとりあえずお皿に出してみようか。全体像が見てみたいし」
そう言うと、優斗先輩が小皿を用意してくれた。そこに美月ちゃんが作ったプリン?を出してみる。
形はプリンの形をしている。ただ、なんていうか……硬そう。
冬馬が作ったものも硬めのプリンではあったが、見た目が黒だからかなんか黒曜石みたいなんだけど……。
「じゃあ審査員の2人先に食べて」
「杏果マジでいってる?」
「言い出しっぺはお前だろ。早く食えよ」
「見た目はこんなだけど、もしかしたら美味しいかもしれないし食べよう、琢磨くん」
「じゃあいっせーのーでで食べるぞ」
「わかった」
「いっせーのーでっ!」
パクリっと2人同時に食べた。
ぶふぁっ!!
突然部長が吹き出し机に突っ伏し、ピクピクしている。
優斗先輩は顔色が真っ青になってピクリとも動かなくなった。
「………なぁシロ」
「なんでしょうか杏果さん」
「みーちゃん帰ってくる前に逃げない?」
「奇遇ですね、僕もおんなじこと考えてました」
冬馬たちは脱兎の如く部室の入り口へと向かった。あれはやばい。一口であれはやばい。
ガラガラっと扉を開く
可能な限り遠くに逃げないとーーーーー。
「わ、わ、2人ともどうしたんですか?」
どうやら判断が少し遅かったみたいだ。
扉を開けるとそこには美月ちゃんの姿があった。
〜そして今に至る〜
「ね、ねぇ美月ちゃん、これって何入れたの?結構真っ黒だけど…」
「聞いてください!今回の私のテーマなんですけど、健康をテーマにしてみたんです!」
「へ、へぇー…」
「それでですね、野外活動部から備長炭をいただいてそれを入れてみたんですよ!炭って体にいいらしいですから!」
備長炭!?確かに炭はいいって聞くけどその炭って食べるようじゃないんじゃないの!?
「ほ、他にこだわった点とかってある?」
「あとは園芸部にアロエをもらいにいきました!ぬるぬるで中々上手くできなくて…それで時間とっちゃったんですよ」
「そ、そうなんだ」
「あの…やっぱり見た目悪いから美味しくなさそうですか?」
「ううん!そんなことないよ!健康的で考えられてると思うよ!」
「そうですか?ならよかったです!」
(杏果さんこれ以上は時間稼げないですよ!そろそろ腹括らないと…)
(わかってるよ!…でもこの2人が動かないんじゃどうにも…)
「あの〜……たべないんですか?」
「いや!食べるよ!じゃあいただこうか杏果さん!」
「そ、そうだなシロ!」
スプーンで一口分とる。
予想よりも硬い。
ゴクリっと生唾を飲み、思い切って口に放り込む。
辛っ!なにこれ辛っ!
プリンだよねこれ!?なんでこんなに辛いの!?
あとこのぬるぬるなに!?苦いし辛いしなんだこれ!?
隣で口にした杏果さんも動きが止まっている。
「あの〜美味しくなかったですか?」
「いや……大丈夫。それはそうと美月ちゃんお願いがあるんだけどいいかな?」
「はい、なんでしょう?」
「これでみんなにお茶買ってきてもらっていいかな?」
「はい、構いませんよけど……」
「じゃあ申し訳ないけどお願い!」
「はい…じゃあいってきますね」
たたたった部室を後にする美月ちゃん。
「皆さん、もう大丈夫ですけど…大丈夫ですか?」
「な、なんとかな……」
「どう作ったらこうなるの……」
「辛いのはおそらく砂糖と塩を間違えたんだろうね。あとはもう、なんか色々と混ぜてるのが原因かな…」
「シロよく耐えれたな…」
「いや、僕も結構危なかったですよ…とりあえず本人には黙っておきましょうか…」
「だな…でも美月ちゃん料理下手だったんだな…」
「下手とか以前の問題な気もするけど、今後は気をつけないとダメだね、さすがに…」
「とりあえずお茶が届いたら頑張って食べ切りましょうか」
「これ……食べ切れるかな……」
このあと、何とか根性で食べ切り、得点は優しい気持ちにということで2人から7点ずつの合計14点を貰った美月ちゃん。
そして、美月ちゃんの知らないところで協定が結ばれたのだった。