プリンを作ろう①
スプーンを持つ手が震える。
目の前には真っ黒な物体、山型の「プリンであろうもの」が出されている。
部長は机に突っ伏して動かず、優斗先輩は口にしてからピクリとも動かない。甘い物好きの杏果さんも、スプーン片手に顔を真っ青にさせながら硬直している。
ただずっと止まってるわけにはいかない。この「プリンであろうもの」を作った張本人の美月ちゃんもこちらを心配そうに見ているからだ。
食べて感想を言わないといけない……
部長を一撃でノックアウトさせたこの黒いものを食べないと…!
〜時はすこし前に遡る〜
「暇だな〜」
新年が明けていつもの面々がいつもの部室に集まっていた。ただ冬休みもあってかやってる部活がほとんどない。ここにいるメンツも暇だから集まってるってだけだった。
「優斗〜なんか甘いものある〜?」
「そうだね〜パッと出せるものは無いんだけど時間があったら作れるよ」
「何が作れる〜?」
「プリンだったら作れるよ。材料もある事だし作ろうか?」
「プリンか〜、ありだな」
「もし暇だったら杏果ちゃんも一緒に作るかい?」
「えー、私食べる専門がいいんだけど……」
「そう言わずにさ、自分で作ったものって他のものより美味しく感じるよ?」
「あの、だったら私も作りたいです」
「あ、みーちゃん作りに行っちゃうの?」
「せっかくだったら私の作ったものを食べてもらいたくって、ダメですか?」
「ううん、ダメじゃないよ。他に一緒に作りにいく人はいるかな?」
「杏ちゃん先輩もいきましょうよ〜」
「えー、どうしよっかなー」
「じゃあこうすればいいんじゃないか?」
いつものパソコンの席から部長が声を上げた。
「優斗に作り方だけ教えてもらって冬馬くん、美月ちゃん、杏果の3人でプリンを作ってそれをお互いたべるってのは。審査員として俺と優斗が味の審査をして1番のやつにはご褒美って感じでどうだ?」
「ご褒美って何かあるのか?」
「俺の奢りで何か買ってやるよ」
「マジか、じゃあやるわ」
「冬馬くんもそれでいいか?」
「僕はかまいませんけど…いいんですか?」
「まぁせっかくだからな。前に家にお邪魔したのもあるし問題ないぞ」
「じゃあ僕も参加します」
「頑張りましょうね、シロくん」
「私が勝ったら近くのケーキ屋さんでホールケーキ買ってもらうならな!」
「じゃあみんな、調理室に行こっか」
『「はーい」』
これが地獄の始まりだった。