秋
「今年って秋あったっけ…」
冬馬がぽつりとつぶやく。
「急にどうしたんですか?」
突然のつぶやきに美月ちゃんが反応する。
「今年って夏の暑さが終わったらすぐ寒くなっちゃったからさ、秋ってあったのかなって思ってさ」
「たしかに今年はすぐ寒くなりましたよね」
「秋らしいことなら色々したじゃないか」
部長がパソコンの机から声をかける
「落ち葉集めして落ち葉焚きしただろ」
「やりましたね!部長さんからいただいたお芋で焼き芋もしました!」
「たしかに。あの焼き芋美味しかったよね」
「ああいうのが秋って言うんじゃないか?」
気温は一気に下がっていたが秋はたしかに来ていたんだ。
「他にも文化祭も秋の行事じゃないかな」
優斗先輩が紅茶を持ってきてくれる。今日はアールグレイだろうか。独特の匂いが鼻腔をくすぐる。
「あの時は忙しかったですね」
「なんせ万屋部が一番忙しい日だからな」
「あの時は杏ちゃん先輩大活躍でしたね」
「琢磨、私はあの時のことまだ許してないからな」
文化祭では杏果さんが衣装を変えいろんな写真を撮られていたな。どれもとても可愛らしかった印象がある。
「優斗のシュークリームをたらふく食べてたじゃないか」
「あれは大食い大会だからだ」
「あれをやろうと提案したのは俺だけどな」
「あ、そうなんですか?」
「まぁなんだ、全ては杏果の溜飲を下げるためだ。まさか優勝するとは思わなかったが」
「あの時の杏ちゃん先輩凄かったですよね。食べ終わって優勝したのにまだ食べてましたもん」
「やけ食いだったからな」
「僕的には残さず食べてくれて嬉しかったけどね」
「こういうのって食欲の秋になるんですかね」
「杏果の場合はいつもだけどな」
今もおやつとしてサツマイモのタルトをホールで食べている。
「そんなに食べて太らないんですか?」
「私太らない体質なんだ」
言いながらタルトをつつく杏果さん。
「…羨ましい…」
隣で美月ちゃんが聞こえないくらい小さくぽつりと呟いたのが聞こえた。
女の子って大変なんだな。
「もうすぐ球技大会もある事だしスポーツの秋も近づいてるよ」
「そう言えばそんな話言ってたような…」
「また近々何に出るか決めると思うぞ」
「シロは運動神経いい方だから当たったら勝負だな」
「男女ではなかなか当たらないと思いますが…」
「まあ楽しみにしてるんだな」
「こうやって思えば秋っていっぱいあったんですね」
食欲の秋にスポーツの秋、落ち葉焚きに焼き芋。この短い期間で色々やってきてたんだな。
換気していた窓から冷たい風が入ってくる。風だけだともう冬だ。
「これから寒くなってきますね」
「そうだな」
「なぁ部長さんよ〜この冬は部費であれ買おうぜ。こたつ」
「そんなもの買ったらお前依頼行かなくなるだろ」
「行くよ!ストーブだけじゃちょっと寒いんだよ〜」
「いけません!」
「けちけちすんなよ〜いいじゃんこたつ。買おうぜ〜」
こたつをねだる杏果さんにそれを嗜める部長。
そんないつもの光景を眺めつつ紅茶をすする。
今日も万屋部は平和である。