前夜祭打ち上げ②
「お前・・・今なんて言った」
杏果さんが顔面蒼白になり、止まったまま部長の言葉をもう一度聞いた。優斗先輩も動かなくなっている。
「なんだ聞こえなかったのか杏果。全く仕方ないやつだな。今年の万屋部の出し物なんだが部室を開け放って喫茶店、さっきも言ったがメイド喫茶だ。それをしようと考えてる」
杏果さんが絶句したままそれ以上何も言わなくなってしまった。
「それじゃあ全員の役割を発表していくぞ~。まず受付とホールの担当なんだが、冬馬君、美月ちゃん、この2人に任せようと考えている。料理担当は言わずもがな優斗だ」
「あの、部長と杏果さんは何をするんですか?」
「俺はホールと料理担当の両方だ」
「待って、琢磨くんって料理できたっけ?」
「おいおい、馬鹿にするなよ。お前ほどじゃないにしろ、ある程度なら俺でもできる。まぁ教えてもらいながらになるんだろうが、当日はかなり忙しくなるだろうから人手がないよりはマシだろ?」
「まぁ・・・そうだね」
さすがの優斗先輩もがっくり来ているように見える。ほんとに全く知らされていなかったんだな。
「ゆうとはそれで納得しといてくれ」
「はぁ・・・了解だよ」
「さて、それで杏果なんだが・・・お前は今回、最重要人物だ」
「おま、私に何をやらすつもりだ!」
人差し指を部長に向けて力強く聞いている杏果さんなんだが、その腕はぷるぷると震えていた。
「お前にはこのメイド喫茶の看板娘になってもらう」
「なんだよそれ!看板娘って何するんだよ!?」
「簡単なことだ。以前の撮影会みたいに可愛い服を着てメイクして看板持って宣伝したり、撮影されたりするだけだ」
「なっ・・・」
「そして今回以前に杏果の人気がすごかったからな、杏果のチェキも配ろうと考えている」
「いやーーーーーーー!!!」
なんてことを考えつくんだろうかこの人は・・・
「注文金額がある一定金額超えた人に配っていくシステムにしようと考えている。そうすると来てくれる人は確実に注文をしてくれるって手はずよ。あと、撮影だけの人も来るだろうから、その人には撮影代金を頂戴して並んで一枚撮るって感じでやっていこうと思ってる。こっちは少し安くするつもりだが、その分並んで撮ってもらうことになると思う。まあなんにせよそういうことだからかなり忙しくなるだろうけどみんな頑張ってくれ!」
「待て待て待て待て!そんなのやるわけないだろ!」
「おいおい杏果、何のための焼肉だと思ってるんだ?」
「それは今日頑張ったご褒美で・・・」
「今日の褒美は確かにこれだ、だが全部俺のおごりでもある」
「・・・だからなんだよ」
「多少のお願いくらいは聞いてくれてもいいんじゃないのか?杏果さんよ~?」
ニンマリと笑う部長に杏果さんは何も言えなくなってしまった。
確かに額が額だし、いっぱい食べちゃったし・・・これはもう従うしかないんじゃないかな・・・
「ふ、服はどうするんだよ!そんなに種類ないはずだろ!」
「安心しろ杏果、この日のために美月ちゃんにいろんな種類の衣装を用意してもらってるから」
「みーちゃん!?」
「す、すみません、杏ちゃん先輩。まさかこんなことになるなんて・・・でも私も杏ちゃん先輩の可愛い格好がまた見たくって」
テヘッと笑った美月ちゃんはもうすでに悪魔の手に落ちていたみたいだ。
「衣装に関してだが、冬馬君は前の撮影会で使った燕尾服で、優斗は新しく美月ちゃんがコック服を作ってくれてるから安心してくれ」
「待って、僕ってまだ美月ちゃんに採寸されてなかったと思うんだけど・・・」
「見た目と目測で大体になるんですけど作れてますよ。部長さんには内緒で作って欲しいってことだったので・・・」
「そ、そっか・・・」
服って目測なんかで作れるんだっけ?それってどんな天才なの?
「俺はこのあと部室の改良に学校に戻るが、みんなはゆっくりしていってもいいし、あすに備えて早く帰ってくれてもいいからな」
そう言うとある程度説明が終わって満足したのか部長は焼かれたホルモンを頬張った。
「あの、ちなみになんですけど・・・もし来なかったら・・・」
「ん?そんなもん今後のご褒美がなくなるだけだぞ」
さらっととんでもないことを言ってきた。
(優斗先輩、なんとかならないんですか?)
(ごめん冬馬くん、今回はまんまとやられたよ。僕にも一切情報が来なかった・・・。それに琢磨くんが決めてここまで用意周到にされてるとなるともうお手上げだよ)
優斗先輩もお手上げとなるともうほんとに諦めるしかないんだろうな・・・
杏果さんは放心状態、優斗先輩もショックを受けてる。
当の部長はのりのりで、美月ちゃんも案外乗り気のもよう。
うん・・・明日どうなるんだろ、これ・・・