万屋部の忙しい日②
「おーいシロー、琢磨ー」
テント運びをしていると後ろの方から聞き慣れた声が聞こえてきた。
僕のことをシロなんて呼ぶのはあの人しかいない。杏果さんだ。
振り返ると手にいっぱいの荷物を持った杏果さんがぽてぽてとこっちに走ってきていた。
「お疲れ様です、杏果さん。なんですかその荷物」
「これか?買い物系の依頼全部まとめてやろうと思ってな、その結果だよ」
へへへっと無邪気に笑いながら体格に似合わない量の荷物を持っている杏果さん。
「早く終わらせないとな!焼肉が待ってくことだし!琢磨、今日はいっぱい食べるから覚悟しとけよ!そっちも早く終わらせろよな~」
そう言い残し、杏果さんはまたぽてぽてと走り去っていった。
「やはり食べ物はあいつに有効だな」
「すごいですよね・・・あんな量持っていけるなんて・・・どこにそんな力があるんですかね」
「あぁいうところが無けりゃあ華奢で可愛くて女の子って感じになるんだがな~」
「・・・部長って杏果さんのこと好きだったりします?」
「まさか、ただの親心だよ」
フッと笑われはぐらかされた気がした。
「よし、これが最後だ。次は体育館だが・・・冬馬君は先に体育館の方に行っててくれ。俺は松岡を呼んでくるから」
「分かりました」
そう言われ、僕は1人先に体育館に向かった。
体育館に着くと中から声が聞こえてくる。どうやら今まさに演劇部が予行練習をしているみたいだ。
手前に座ってるのって美月ちゃんかな?
近づいて様子を見てみる。やっぱり美月ちゃんだ。
「あ、シロくん、お疲れ様です。そっちの方は終わりましたか?」
こちらに気づいた美月ちゃんが声をかけてきてくれた。
「お疲れ様、美月ちゃん。こっちはこれから設備のチェックをしたら終わりだよ。美月ちゃんの方は?」
「私の方はだいたい終わらせられましたよ。それで今、予行練習で問題ないかの確認を任されてるところなんです」
「そうなんだ、じゃあ問題なければおしまいって感じ?」
「そうですね・・・終わりだと思います。あ、今終わったみたいなので行ってきますね」
「うん、行ってらっしゃい」
椅子から立ち上がった美月ちゃんは舞台の方へと行ってしまった。
「お待たせー」
ちょうどいいタイミングで部長の声が聞こえてきた。
「んじゃあとっとと見て終わらせるか」
「そんなに時間はかからないと思うから安心してくれ。じゃあまずは2階のライトの方からチェックに行くか」
「はーい」
こうしてチェックは始まった。舞台の裏側なんて今まで見たことなかったしすごい気になっていた。
まず2階の方から順番に回っていき、1階の舞台裏のチェックもやった。中はいろんな機材があってごちゃごちゃしてたけどチェック自体は簡単で20分ほどで終わってしまった。
「これで終わりか?~」
「すまんな琢磨、助かったよ。冬馬くんもありがとう」
「いえ、こちらこそいろいろ見れて面白かったです!」
時間はすでに8時になろうとしていた。
「よし、時間もいい頃合だし、部室に戻って飯に行くかー」
「あの・・・ほんとに焼肉奢ってもらっていいんですか?」
「ん?あぁ気にするな気にするな。賄賂みたいなもんだからな。当日はあしっかり働いてもらうし。かなり忙しくなる予定だから冬馬君も気合入れておけよ!」
「賄賂って・・・一体何するつもりなんですか・・・」
また部長が不穏な笑みを浮かべている。それに賄賂って言ってたし絶対よからぬこと考えてるんだろうなぁ・・・
そんな不安もありながらそれでも冬馬にとっては初めての文化祭なので楽しみでもあった。