トリックオアトリート
「トリックオアトリート」
そう言って僕の前に座っていた杏果さんが手を伸ばしてきた。
「なんですか、いきなり」
依頼終わりのご褒美を再びつつこうと僕はフォークを動かす。
「トリックオアトリート!」
さっきよりも大きな声で言われた。
「僕、お菓子なんて持ってないんですけど・・・」
「あるじゃないか、いいのが」
そう言って杏果さんが僕のご褒美のケーキを指さした。
ちなみに今日のご褒美はパンプキンパイだ。
「ダメですよ。これ、僕のご褒美なんですから」
「ほほぅ・・・どうやらシロはいたずらが所望らしいな」
その手には油性マジックが握られていた。
一体その油性マジックで何をするつもりなのか。
「あーもう、優斗先輩助けてください」
「ダメだよ杏果ちゃん。わがままはほどほどにね」
「これはわがままじゃねーぞ優斗。1年に1度許される魔法の言葉なんだこれは。これを言うと問答無用でお菓子かいたずらかの2択を選択せざるおえない状況に出来るんだ」
ドヤ顔で何言ってるんだこの人。
「それが許されるのはせいぜい小学生くらいなもんですよ」
「小学生みたいなもんだろ。主に身長とか・・・」
「自虐してでもやりたいことなんですか・・・」
「うるせー!とにかくどっちか選べよ!」
こうなった杏果さんはもう止められない。油性マジックで何か書かれたら落ないしな~・・・
僕は渋々、パンプキンパイを杏果さんに渡した。
あぁ・・・僕のパンプキンパイ・・・
「へへ~ん。やった!じゃあいただきま~」
「杏ちゃん先輩。トリックオアトリートです!」
「へ・・・?」
杏果さんがパンプキンパイをつつこうとしたその時、今度は美月ちゃんが魔法の言葉を口にした。
「みーちゃん何言ってんの?私お菓子なんて持ってないよ?」
そう言いながらパンプキンパイを口にする杏果さん。
あぁ・・・僕のパンプキンパイが・・・
「今食べてるじゃないですか!」
「これは私の戦利品だから。手持ちのお菓子じゃないから」
パンプキンパイは杏果さんのおなかの中に消えていってしまった。
「じゃあ仕方ありませんね・・・いたずらです!」
「お、どんないたずらだ?私に対するいたずらなんて・・・」
「これを着てもらいます!」
美月ちゃんが手にしたのはピンクでもこもこでふりふりでロリロリな服だった。
それを見るなり杏果さんは脱兎のごとく立ち上がり逃げ出した。
「逃がすか!」
かろうじて杏果さんの手を掴み、逃亡の阻止に成功した。
「は、離せシロ!あれはダメなやつだ!」
「僕のパンプキンパイ食べたんですから甘んじて受けてください!」
「杏ちゃん先輩!覚悟を決めてください!」
「わかったよ!お菓子だろ!お菓子渡せばいいんだろ!」
バタバタ暴れながら杏果さんはいたずらではなくお菓子を選択した。
「持ってるんですか?お菓子」
「持ってない」
「美月ちゃん」
「杏ちゃん先輩、この服、暖かいんですよ♪」
「その服を持ったまま近づいて来るな!持ってなかったら今から作ればいいんだろ!」
今から作るとは?
「優斗、なんか材料ある?」
「ん~・・・この材料ならホットチョコなら作れるよ」
「よしそれだ。ちょっと待ってろ」
冷蔵庫の中からチョコレートと牛乳を取り出し作ろうとする杏果さん。だったのだが・・・
「おっと杏果ちゃん。お料理するならエプロンをつけないとね」
そう言う優斗先輩の手にはフリルがついてハートマークがいっぱい散りばめられたエプロンが握られていた。
それを見た杏果さんはあまりの衝撃に手に持っていたチョコレートと牛乳を落とした。
「お前・・・冗談だろ?それを私に着ろって?」
「料理するならね、エプロンはつけないとダメだから」
にっこり笑う優斗先輩はどこか怖かった。優斗先輩も杏果さんの横暴に怒ってるんだろうか。
「・・・じゃあやめt」
「お菓子がなかったらこっちですよ♪」
八方塞がり、前門の虎後門の狼状態の杏果さん。
この2人敵に回したら怖いんだなぁ・・・
半泣き状態でエプロンを付け、杏果さんはホットチョコを作ってくれた。
途中、部長が部室に帰ってきてエプロン姿の杏果さんを見て爆笑しながら写真を撮りまくっていた。もちろんそのあと杏果さんにしばかれてたけど。
パンプキンパイがホットチョコに変わったけど、珍しいものも見れたし、ちょっとだけお得に感じたのだった。
〜万屋部メモ〜
・春野優斗
〜プロフィール〜
・身長175センチ
・特技は料理とお菓子作り。ご褒美ケーキはいつも自作
・万屋部の副部長でもある
・杏果ちゃんが頭が上がらない人物。何かあればご褒美に響くため
・裁縫も少し出来る。手直し程度の実力
部員全員に優しくでも時折厳しい。お母さんのような存在
・杏果ちゃんには可愛い格好をして欲しいと思ってたりする。