学内新聞撮影会③
「優斗先輩、部長、着替え終わりましたよ〜」
2人ともまだ部室の入口のところ付近で立っていた。
「おー、似合ってるじゃないか」
「うん、サイズもぴったりだしなんだか雰囲気が変わった感じがするね」
なんかちょっと照れくさいな・・・というかそんなことよりも
「さっきのはなんだったんですか?杏果さんがいきなり入ってきたり、部長が渡してくれったあの筒状のやつとかなんかわかんないボタンとか・・・」
聞きたいことが山済みだ。
「杏果がな、服を見て逃げ出したんだ」
「確かフリフリがどうとかって言ってましたよね」
「そうだ。まぁ逃げ出すのは予想してたんだがな、それの最終対処法として冬馬君に捕獲用ネットを渡しておいたんだ。それとあのボタンなんだが押すと俺のスマホに通知が来る連絡用ボタンだ」
「なんで言ってくれなかったんですか・・・」
「言ったらボロが出ると思ったからな」
「そんな〜・・・」
否定はできないけど・・・
「それにしても、そんなに杏果さんフリフリの服嫌いなんですか?」
「まぁ逃げ出す程度には苦手なんだろうよ。いっつもズボンだとかジャージだとかで毎日過ごしてるからな。学校の制服のスカートでさえ嫌がってるくらいだしな。まぁあいつの感覚で言うなら罰ゲームで女装させられるような感覚だと考えてもらたらわかりやすいんじゃないかな」
「わざわざそんな服チョイスしなくても・・・かっこいい服がいいって言ってましたし・・・」
「いや、実際に見せてもらったが普通にかっこよかったっぞ?なぁ優斗」
「うん、黒がベースだけど要所要所に赤色が混じっててシックな感じでかっこよくもあり可愛くもあったね」
どんな服か想像もつかない・・・でもきっとすごいんだろうな。この服もすごかったし。
「杏果ちゃん元が可愛いからね。せっかくだからこういう場で披露させてあげたいって琢磨くんから相談受けてたんだよ」
「もしかして前に3人だけで話してたのって・・・」
「まぁそういうことだ。全部前から計画してたんだよ。これを機にちっとは身だしなみを気遣うことを考えるのもいいんじゃないのかなと」
部長なりの気遣いなんだろうか・・・
「じゃあ食べ放題も?」
「あ〜それは単に杏果の機嫌取りだ。終わったら確実に俺はやられるだろうからな。それに対してちょっとでも溜飲を下げたかった」
どこまでも用意周到なんだな。
と話していると部室の扉が開いた。
「出来ましたよぉ〜」
「やっとだな。お疲れさん美月ちゃん」
「杏ちゃん先輩やっと諦めてくれたんですよぉ〜」
くたくたの美月ちゃんからその苦労が見て取れた。
「杏果ちゃん、早く出ておいで」
「・・・やだ」
「往生際が悪いですよ、杏ちゃん先輩!」
美月ちゃんが強引に引っ張って杏果さんが姿を現した。
「なんだ、似合ってるじゃないか」
「うん、すごく可愛らしくていいよ、杏果ちゃん」
出てきた京香さんはの姿はベースは黒色なんだけどスカートが赤のワンピースに似たような格好だった。お腹周りを革の大きなベルトみたいなのできゅっと占められえており、赤いスカートの上に半透明の黒のスカートが被さっている複雑な造形になっている。頭にレースの装飾をつけてて全体的にカッコ可愛い感じだった。こういうのなんて言うんだっけ。ゴスロリだっけ?メイクも相まって印象が少し違う。身長の小ささも合って年相応には見えない。お人形みたいだ。
「なんか・・・すごいですね」
「自信作ですからね。杏ちゃん先輩元が可愛いからこういうゴスロリ系の衣装とかすっごく似合うと思ってたんですよ〜今回はかっこよくってことだったので黒と赤でちょっとクラシックな感じにしてみました!」
「いっそ殺してくれ・・・」
涙目の杏果さんがこの格好でぷるぷる震えてると可哀想だけど可愛く見えてしまう。
「まぁまぁ杏果ちゃん、これからケーキ食べ放題だから。好きなだけ食べていいからね。好きなだけ食べていいから、だからいこっか」
杏果さんはこくんと頷き小声で「食べるぅ・・・」と言いながら優斗先輩に連れられて食堂に向かっていった。
「ん〜、やっぱり普通に似合ってるよな。不覚にも可愛いと思ってしまった」
「ですね・・・」
「私もメイク中に上目遣いされてる時キュンキュンしちゃいました」
恐るべし杏果さん。
そんなこんなありつつも撮影会の方は順調に進んでいった。
たらふくケーキを食べて満足したのか杏果さんの機嫌も回復していったし撮影会は大成功で幕を閉じた。
後日、学内新聞にその時の写真が使われた記事が書かれてあった。幸せそうな笑顔でケーキを食べる杏果さんとそんな杏果さんに紅茶をくべている僕の構図の写真が採用されていた。
そんな学内新聞を見てちょっと恥ずかしく思いながら今日も僕は部室へと足を運んだ。
「いやだーーーーーー!!」
凄い勢いで杏果さんが部室から飛び出して逃げていった。
「な、何事ですか!?」
「やぁお疲れ様冬馬くん」
「お疲れ様です」
部室の机には万屋箱とともに大量の紙が置いてあった。
「なんですかその紙の山」
「全部依頼なんです。しかも杏ちゃん先輩宛のがほとんどで…」
見てみると
[藤村さんの写真を撮らせてください!出来ればゴスロリで!氏名:宮本]
[モデルを依頼したいです。藤村さんをお願いします。衣装はこちらで用意します。氏名:久保]
[藤村さんのメイド写真をください。氏名:松岡]
などなどだった。
依頼もあればただの要望もありで凄いことになっている。
「これは杏果さん逃げるわけだ…」
この日からとうぶんのあいだ杏果さん宛の依頼とは別の手紙も入るようになるのだった。