袖直し
ある日の放課後。農林部で柿の収穫の手伝いの依頼を済ませ部室に戻る冬馬。
「戻りました〜」
「シロくん、お疲れ様です」
「お疲れ様、冬馬くん。今日はロイヤルミルクティーだよ。ご褒美と一緒にお上がり」
「ありがとうございます。部長と杏果さんはまだ帰ってないんですか?」
部室には美月ちゃんと優斗先輩の二人しかいなかった。
「杏果ちゃんはまだ柔道部でスパーリングの相手をしてると思うよ。なんでも週末柔道部で試合があるみたいだからね、じっくりやって欲しいんだって。琢磨くんはもうじき帰ってくるんじゃないかな」
そう言いながら優斗先輩はミルクティーとご褒美を用意してくれた。
今日はスイートポテトみたいだ。
「シロくん、その長袖どうしたんですか?」
出されたミルクティーをいただこうとした時、美月ちゃんが僕の右手の裾のところを指さしながら聞いてきた。
見てみると体操服の袖のところがほつれて穴があいていた。
「あ〜・・・もしかしたら収穫の時気に引っ掛けちゃったのかも。気付かなかったな〜」
「怪我はないかい?」
「怪我は大丈夫ですけど・・・どうしようかな・・・」
結構しっかり穴があいちゃっている。
「もしよかったら直しましょうか?」
「え、直せるの?」
「それくらいの穴なら塞いだらなんとかなると思います」
そう言うと美月ちゃんは自分の鞄からちいさな箱を取り出した。
中には針が数本と小さなハサミ、糸が何種類か入っていた。
「へぇ〜、それって小さいけど裁縫セットかい?」
「はい、箱とかは自分で作って持ち運びしやすいようにしたんです。持ってると何かと便利なので」
「美月ちゃん全部自作したんだ。結構しっかり出来てるしすごいね」
褒められ慣れてないのか美月ちゃんは少し照れてるみたいだった。
僕は美月ちゃんに長袖を渡すとすぐに直し始めてくれた。
「すごいね美月ちゃん。なかなか手慣れてる。普段から裁縫とかしてるのかい?」
「はい。妹がよく服を作って欲しいって言ってくるのでそれで少し」
服まで自作できるのか。
美月ちゃんってもしかして万能の人だったりするんだろうか。
「優斗先輩も裁縫とかってできるんですか?」
「ん〜、僕もできるっちゃできるけどせいぜい応急処置程度かな。杏果ちゃんがよくボタンを取れかけにしてくるからね。それを直せるくらいだよ」
それでも十分だと思うんですけど・・・
「できました!」
いつの間にか穴は塞がっていた。あっという間だ。
直った長袖を早速着てみる。
「きつくなったりしてないですか?」
「うん!全然大丈夫。跡も全然見えないし」
完璧な処置だ。
「良かった♪」
にっこり微笑んで裁縫セットを鞄の中にしまう美月ちゃん。
「ふむ・・・見事なお手前だな」
「部長いつの間に・・・」
真後ろに部長がいた。一体いつからいたんだろう。いたなら声かけてくれればよかったのに・・・
「おかえり琢磨くん。今お茶入れるね」
「部長さんおかえりなさい」
「あぁただいま。美月ちゃん、ちょっといいかな?お願いというか〜その、力を貸して欲しいんだ」
「はい、なんでしょうか?」
「ちょっとこっちに来てくれ。あと優斗も」
あれ?僕だけ除け者?
でもなぜだろう・・・美月ちゃんにお願いするときの部長の顔・・・すごくニヤついてたけど・・・
部長の不適な笑みにすごく嫌な予感を感じた。
〜万屋部メモ〜
・川神冬馬
〜プロフィール〜
・いちおうこの物語の主人公。
・身長が高い185センチくらい。
・その他は特筆して凄いところはない。平凡である。
・のんびりな性格で基本的に争い事とかは好まない。平和主義。
・実は甘党。
・お願いされると断りきれず大抵のことは聞いてしまう。
・この部に入った経緯は、その身長の高さから色んな運動部から声がかかっていたけどどこに入ればいいか悩んで決めかねているところを琢磨から勧誘され万屋部に入った。