春のお花見大会⑥
女の子は時々周りをきょろきょろしてその場から一歩動いたと思ったらまた戻ってを繰り返していた。
うーん…どう見ても迷子…だよね…あれ。
少し様子を見ていると女の子は今にも泣き出しそうになっていった。
そんな姿に見かねて慌てながらもゆっくりと女の子に近づいてみる。
「ね、ねぇ、君」
声をかけると女の子は少し驚いたのかビクッとしてこちらを向いた。
「どうしたのかな?お父さんとかお母さんは一緒じゃないの?」
目線を女の子に合わせるためしゃがみ、ゆっくりと聞いてみる。
その言葉を聞いた女の子は、顔を歪め、今にも泣き出しそうになった。
目元に溜まった涙は決壊寸前だった。
「ちょちょちょ、な、泣かないで、大丈夫だから!」
どうしようどうしようどうしよう…!!!
こんな時ってどう対処したら良いんだろう!?
今にも泣き出しそうな女の子を前に必死に回転させた僕の脳内から一つの解答が弾き出された。
「ちょ、ちょっとだけ待っててね!すぐ戻ってくるから!」
それだけ言って全速力で食堂の中に入り、入り口近くの自動販売機でオレンジジュースを買って女の子の元へとすぐさま戻った。
「ハァ…ハァ…はい、これでも飲んで落ち着いて」
にっこりと微笑みながら買ってきたオレンジジュースを女の子に渡す。
女の子は少し戸惑いながらもジュースを受け取るとゆっくりと飲み始めた。
それを見て僕は少しだけ安心した。
「落ち着いたかな?」
「うん…ありがとぅ、おにぃちゃん」
「そっか、それならよかった」
まだ若干怖がってるみたいだけどさっきよりは落ち着いてくれてるみたいだ。
「えっと…僕は冬馬って言うんだ。君のお名前はなんて言うの?」
「はなほしゆいか、です…」
「そっか、ゆいかちゃんだね。お母さんとかお父さんとかは一緒じゃないの?」
「いっしょだった…けど、きがついたらはぐれちゃって……」
ふぇ…っとまた泣き出しそうになるゆいかちゃん。
「だ、大丈夫だよ!お兄ちゃんが見つけてあげるからね!」
咄嗟に安心させるように大きな声を出してしまった。
「ほんとぅ…?」
「うん、任せて!お兄ちゃんはここのお巡りさんみたいなものだから!だから元気出して、すぐ会えるからね!」
それを聞いて安心したのかゆいかちゃんの顔が少し明るくなった。
よし、とりあえず…
僕はスマホのグループチャットに今の状況を送信し、協力を要請した。
ーー数分後ーー
「おーいシロ〜大丈夫か?」
「あ、杏果さん、来てくれたんですね」
「流石に来ないわけには行かないからな。で、その子が迷子の子か?」
「ゆいかちゃんです」
杏果さんはゆっくりゆいかちゃんに近づくき微笑みかけた。
「初めまして、私は杏果って言うの。よろしくね♪」
その顔と声色は普段の杏果さんではなく明らかに作ったようなものだったけどここで何か言うと後が怖いから何も言うまい。
僕はグッと笑うのを堪えた。
杏果さんはいきなり本題にいかず、普通にゆいかちゃんとお話をした。
そのおかげでゆいかちゃんは少しずつ心を許していってくれたのか笑顔が増えていった。
さすがは杏果さん。頼りになる。
「じゃあゆいかちゃんも元気になってきたし、お父さんとお母さん一緒に探しに行こっか!」
「うん!いっしょにさがす!」
ゆいかちゃんは笑顔で声を出すくらいすっかり元気を取り戻していた。
「じゃあそんなゆいかちゃんに特等席を用意してあげるね」
「とくとうせき?」
「シロ〜、しゃがんで」
いきなり杏果さんが素に戻って指示を出してきた。
「え?、あ、はい」
ほぼ反射気味にその指示に従い、僕はしゃがむと、
「じゃあゆいかちゃん、ここに乗っていいよ♪」
と作った可愛い声が聞こえてきた。
まさか…
そう思った頃には肩のところに重量を感じていた。
「シロ、ゆっくり立ってね」
「あの…杏果さん…これって…」
「ん?肩車だよ?そのほうが目立つでしょ?」
やっぱりか…
「とうまおにぃちゃん、だいじょうぶ?」
「ほら、ゆいかちゃんも待ってるから、早く〜」
「くっ……分かりましたよ!ゆいかちゃんちゃんとつかまっててね!」
ほんと…あとで覚えててくださいよ…!
僕はゆっくりと慎重に立ち上がった。
「よいしょっと…ゆいかちゃん、大丈夫?」
「すご〜い!たか〜い!」
どうやら大丈夫そうみたいだ。
「じゃあ探しに行くよ〜。シロ、落とさないようにね」
「とうまおにぃちゃん、はっしん!」
「はいはい」
全くこの2人は…
いつの間にかゆいかちゃんにまで振り回されるようになってるこの現状を少しずつ受け入れながら慎重に歩き始めた。