バレー部からの依頼
「冬馬くん、今日はバレー部からブロッカー役の助っ人に来て欲しいって依頼が来てるんだけど・・・行って来てくれるかな?」
いつもの部室、副部長の優斗先輩からお願いされた。どうやら今日の依頼らしい。
「分かりました優斗先輩。ちなみに今日は僕だけですか?」
冬馬はそそくさと準備を始めながら副部長に聞いてみる。
「そうだね。今日は冬馬くんだけみたいだ」
そう言いながら優斗先輩は[万屋箱]と書かれた箱の中を漁っている。しかし、やはり中には一枚しか入ってなかったみたいだ。
「なーんだ、じゃあ今日のご褒美はシロだけかー」
「残念でしたね杏果さん。ちなみに今日ご褒美はなんだったんですか?」
ちぇーっと机に突っ伏しながら長いポニーテールをくったりさせている杏果さんを尻目に優斗先輩に尋ねてみる。
「今日はね、蜂蜜レモンのチーズケーキだよ。今回はチーズタルトにしてみたんだ」
そう言うと部室の冷蔵庫からケーキを取り出してきた。ケーキの登場と共に杏果さんは目を光らせながらポニーテールを横に揺らして興奮している様だった。
「私の一番好きなケーキじゃん!優斗~私にも頂戴~」
「ダメだよ杏果ちゃん。ご褒美は依頼を受けた人が貰える、そういうルールでしょ」
そう言いながら優斗先輩はケーキを冷蔵庫の中に戻した。
まるでわがままを言う子供に言い聞かせるお母さんみたいだ。
「優斗のケチー!」
そう言い放ち杏果さんは扉に向かって走り去っていった。
杏果さんが扉に向かっていったタイミングで部室の扉がガラガラと開いた。
「わわわ、杏ちゃん先輩!?」
部室に入ってきた瞬間いきなり胸の中に飛び込んできた杏果さんに慌てる美月ちゃん。
「うわーんみーちゃん、優斗がね、優斗がいじめてくるの~!」
「杏果さん、あの・・・」
「いい加減にしろ杏果!」
冬馬が言いかけた後ろの席から大きな声がした。
「全く・・・菓子の一つで嘆かわしい・・・それでも1先輩か!」
そう言いながら部長は杏果さんの元へとゆっくり歩いて近づいた。
「依頼をこなさん者に褒美はない!さぁ、諦めて美月ちゃんを離し・・・」
「うっさいクソデブ!」
素早いターンからくりだされた鋭いボディブロウが部長のお腹に突き刺さった。
絶叫しながら転げまわる部長。半泣き状態で美月ちゃんに泣きつく杏果さん。訳も分からずあわあわする美月ちゃん。一人落ち着いてお茶を入れている優斗先輩。
ご褒美一つでここまでカオスになるとは・・・
「あの・・・杏果さん・・・」
流石に見かねて杏果さんに近寄る。
「実はなんですけど、今日の課題で分からないところがありまして・・・僕からの依頼として教えてもらえませんか?」
杏果さんは少しの間キョトンとした顔を見せたあと、パッと笑顔になり、
「うん!教えてあげる!依頼なら仕方ないよね!優斗!依頼だよ!依頼だからご褒美もらえるよね!」
「ルールだからね、頑張った子にはご褒美があるよ」
「やった!シロ!しっかり教えてあげるからね!」
ついさっきとは真逆の元気の良さに苦笑いしながら依頼書に依頼内容と依頼者の名前を書いて優斗先輩に紙を手渡した。
「気をつかってくれてありがとう冬馬くん。今日は杏果ちゃん宛の依頼があると踏んでたんだけどね」
ニッコリと笑いながら優斗先輩は紙を受け取り依頼受付のはんこを押してくれた。
「僕も困ってたのは事実ですしちょうど良かったですよ。じゃあバレー部の依頼、行ってきますね」
「うん、気をつけてね」
「帰ってきたらケーキだぞ!」
「が、がんばってきてくださいね!」
みんなの声を背に冬馬は部室を後にした。