迷魂者は望まない
ミズハを倒した俺とカミナ、そして戦死した冬馬に、英雄賞が贈られた。手を叩いて喜ぶ人達を尻目に、贈られる二人の心が晴れることはない。初めて獲得した能力もここでは使えない、嬉しさも口から出る事はない。
「冬馬君は...、ミズハを倒せて喜んでると思うよ...。」
冬馬は、それを喜んでいなかった。
ずっと3人で笑っていたかった。
脇に証書を挟み、一礼して部屋を出た。
翌日、英雄二人を出迎える為に育成所のみんなが出迎えた。思わず立ち止まってカミナに声をかけた。
「一緒に学校行こうってこう言うことだったんだな、てっきり愛の告白かと思ったよ。」
その金に靡く髪を見た、長い髪は妖艶さを醸し出している。
「そりゃ君は好きだけど恋愛対象じゃないよ、本音を言うと冬馬君の方が好きだし。」
「あーあピュアな男の子の心を傷付けた。」
「ふふ、死ぬよりマシでしょ?。」
その言葉を聞いて返事しようとしたとき、彼女の顔を見て驚いた。目の下の隈を隠す様に化粧がしてある。きっと、辛いのだろう。
「おかえりー!!!。」
その声と同時にクラスメイトが二人を囲んだ。
「その年で英雄かぁ!、ハルカやっぱりお前最高かよ!」
中学からの付き合い、螺良カイトだ、無理に肩を組んで耳元で叫んでくる。
「う、うん...。」
後ろめたい事がある、それだけだ。
「どうしたんだよ、いつもなら剣術だけで英雄になってやる〜なんて言ってるくせに。」
「冬馬が、いないからさ...。」
「いいんだよ、アイツ死ぬまでに英雄になりたいって言ってたしよ!、英雄になったから浮かばれただろ!」
虫唾が走る。なにも知らないくせに。
「よしじゃあパーティーの始まりだぜ!、すでにテレビ局も来てる!、英雄様よぉ、はよお入りなすって!。」
カミナの方もそう言われている様だ。だが一歩でも校内に入りたいと思わなかった。会場となる体育館に人が屯しているのがよくわかる。背中を押されて不意に校内に入った。
(頼む...!、鳴らないでくれ...!)
ビービービーとブザーが鳴った。
「校内に、未確認能力を持つ人物が侵入しました、繰り返します、未確認能力を持つ人物が侵入しました、」
「おいおい誰だよ!、キチンと協会に申請しとけよ!。」
(できないんだよ...!)
育成所の先生が手にスピーカー様なものを持ち、集まったみんなを写した。
「異常なし、異常なし、異常なし...!?。」
それはハルカの前で止まった。それに気付いたカイトは言う。
「ハルカお前やっと能力に目覚めたのかよ!、だからミズハに勝てたみたいな?ドラマチックな展開だなぁ!、」
「離れろ!みんな!」
先生が叫んだ。訓練されたみんなが咄嗟に離れた。
ハルカとカミナだけが取り残される。
「ハ、ハルカ、なぜその能力を持っている?」
先生の震えた声に心が縛られる。
「なにも、言えません」
「答えろ!」
「言えません!」
「なぜお前が、冬馬の能力を持っている!!」
歯を食いしばった。みんなの顔が変わっていく。
「おいおい、飾者「歌舞伎」の話かよ、確かに冬馬しか持ってないけど。」
「言えないんです...、」
隣から猛烈な視線を感じた。カミナが能力を使い刀を振りかざしている。額を切られる寸前で、それを使用した。
飾者「歌舞伎」使用
あたり一面が花びらが舞い、ハルカの服装が変化する。
目から頬にかけて赤い線が描かれる。
「ハルカ...ッ!、アンタ...ッ!。」
両刀ククリ刀を持ってハルカに近寄り、斬りかかる。
「殺してやるッ!、」
切りかかったカミナを軽く受け止めて蹴り飛ばす。
俺はこの間まで無能力者で、剣はここらで名を馳せるほどの腕前だ。負けるはずがない。
「お前が俺にッ!、剣で勝ったことなんてないだろッ!。」
「冬馬は!!、冬馬は....!。」
「ごめん...。」
そう言って地面に衝撃波を発生させ、砂埃を舞わせた。その隙に逃げようとしたがカミナがそれを追いかけた。
「飾者「歌舞伎」使用」
空中で花びらが舞い、味気ない街の色が明るくなる。その家を伝って逃げるが後ろからはカミナが付いてきている。
その能力を見て戦意を喪失したカミナが泣きながら落下して行く。
「とう、ま...。」
何も言えず、逃げた。
(ハッハッハァ!、もしかしたら引っかからずにいつも通り過ごせると思ったなぁ!?。)
脳内に直接響く、うるさい...。
「望んじゃ悪いかよ...。」
(タダで手に入る楽は存在しねぇぜ?)
「ミズハは俺の体にタダで入ってるだろ」
(楽じゃねぇからいいんだよ)
(で、これからどうすんよ、能力を奪うのは御法度のこのご時世、お前は懸賞金つけられて殺されるかもなぁ、ハハハハ!、)
「そん時はそん時だよ」
家で心残りを全て取り除き、戦争で戦死した親の写真立てを持って家を出た。思い返したかの様に徐に剣を取り出し。家を全壊させた。
(良いのかよ、親が来るかもよぉ?。)
「もう、来ないさ、俺も親も...。」
そう言って山奥へと向かった。
(はぁー、しょうもな、こんなところで隠居生活かよ...。)
「お前を解き放つわけにはいかないからな」
(それなら自殺しろよ自殺、俺様も退屈でしんじゃーう。)
「お前でもジョークは言えるんだな」
木を切ってテントを貼ったり、川を切って魚を取ったり、何気ない1週間はすぐに過ぎた。時折、思い出したかの様に歌舞伎を使って剣術を練習する。
(退屈ダァァァ〜、なぁハルカ?」
「これが良いんだよ、戦争に駆り出されるよりかな」
(おい、きたぞ)
「ん?、なにが?。」
後ろから迫り来る者に気付かず、あっさりと背後をとられて刃を向けられた。
歌舞伎を使用した。
ゆっくりと進む世界の中、後ろを振り返りその主の顔を見て引き下がる。
「おお、幻想的な能力だなぁ、これをずっと見られる訳か。」
バンダナを巻いた20後半程度の男、見ただけで、いや背後をとられた時点で強い事がわかる。
「その言い分だと、俺を殺さないつもりですか?。」
「ああ、お前、協会で働け」
沈黙が続いた、予想してなかったからだ。
「はぁ?。」
これが俺の、人生の岐路となった。