裏切られた勇者は最初から全部知っていたので問題ありませんでした。
習作一本目となります。作者はド素人ですので注意して下さい。
「うおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
裂帛の気合を込めた雄叫びを上げ、荘厳な白銀の鎧を身に纏った青年の手にした剣が、魔王の胸を刺し貫いた。
そこは、魔物にとっての心臓とも言うべき、魔石の収まる場所。それを砕かれてしまえば、如何なる魔物であろうとひとたまりもない。
魔王という絶大な力を持つ存在であろうと、魔物であることには変わりなく、遂にその命を散らす事になった。
「はぁ、はぁ……やった、遂に魔王を倒したぞ!」
青年は勇者と呼ばれる存在であった。
いや、勇者とは異業を為した者にこそ与えられるべき称号である。青年は、今、この瞬間にに誠の勇者となったのだ。
「やったな、ユート。お前こそ、真に勇者と呼ばれる人間だ」
そう声を掛けたのは、これもまた豪奢な金の鎧を着る男だった。
「本当におめでとう、ユート」
次の若い女性の声がユートに掛かる。
「ありがとう。ジュリアスにシーラ……ここまで、本当にありがとう」
ユートは倒れ、魔石からの魔力の配給を失い身体の崩れゆく魔王から目を反らし、二人に向けて笑顔を浮かべた。
ジュリアスと呼ばれた男はユートの所属する、グロリア王国の王子の一人であり、剣聖とも呼ばれている。そして、女性の名はシーラ。ユートの幼馴染であり、教会に所属しており聖女と呼ばれている。
勇者、剣聖、聖女。
この三名が少数精鋭をもって魔王に特攻を仕掛ける人類の切り札であった。
魔王の城の各所、そして外からは総攻撃を仕掛けた各国の騎士、兵士達の怒号が未だに響いてくる。
まだ、全ての戦いが終わった訳ではないのだ。
「そうだ、すぐに他の人達のところに援護に行かなければ!」
ユートは今もまだ魔物の軍勢を引き付け、押し留める者達の事を思い出すとその場から駆け出そうとする。
しかし、それを呼び止める者が居た。
「まぁ、待てよ。まだ魔王を倒したばかりなんだぜ? 一息くらいつかなきゃ体力が持たないだろ」
「そうですよ。ユート、この体力回復のポーションを飲んで、少しだけ休んで下さい」
そう言うと、シーラは一本の瓶をユートに手渡す。
「二人がそういうなら……そうだな、少し息を整える必要があるかもしれないね」
ユートはそう言うと、手にした瓶に口をつけ、中身を一気に飲み干した。
通常であれば、みるみるとまでは行かないまでも、確実に疲れ切った身体を癒す体力回復のポーションであるが、この時は違った。
「な、なんだ……これ……」
体力が回復するどころか、身体が痺れ動かなくなっていくような気がした。
「ふふ、飲んだな……身体が動かないだろう? そういう薬だからな」
ニタリと醜悪に顔を歪め、ジュリアスがそう言う。
そして、ゲラゲラと笑いながらシーラの肩を抱き自分の方へと引き寄せる。
「悪いな、ユート。お前はここで魔王と相打ちになって死んだ事になるんだわ。お前が勇者になられちゃ、国にとっては面白くねぇからな、親父からもそうしろって命じられてんだよ……それに、シーラにとっても、元恋人だったなんて言われちゃ迷惑にしかならねぇだろ?」
「ふふ、そうね。ごめんね、ユート。わたし、聖女として勇者であるあなたと一緒になるよりも、ジュリアスと結婚して王妃様になって贅沢に暮らしたいの……でも、あなたが恋人だったって話が広まっちゃうと、聖女として貞淑がどうのって話になる可能性があるのよね。そうなると、また精神を鍛えるなんて面倒なことをさせられるかもしれないでしょ? だから、ね? 死人に口なしって言うじゃない?」
うっとりとした顔でジュリアスを見つめながら、シーラはそう云い放った。
ユートは、その言い分に口を出そうとするが、痺れが回っているのか声を発することも出来ないようだ。
「でだ、なんで痺れ薬かというとだ……もちろん、おれがてめぇの留めを刺すからに決まってんだろうが! はは、悔しいか、悔しいだろうなぁ? ここまで来て、お前は全てを失うんだよ! 今までの努力、名声、恋人もこの先の栄光もぜぇーんぶなぁ!!」
振り下ろされるジュリアスの剣。それは、確実にユートを殺す為の一撃だった。
しかし、しかしである。
「浅はかだなぁ……ほんと、悲しくなるくらいにね」
ひょいっと起き上がってユートが手にした聖剣でその剣を受け止める。
キィンっと言う金属同士のぶつかり合う甲高い音が、魔王の部屋に空しく響いた。
「な……あ、が……な、なんで……」
ジュリアスが驚きの余りにまともに言葉を発することが出来ない。
その隣に立つ、シーラもまた同様に驚きで目を見開くだけで、何も言う言葉が出ない様子であった。
「浅はかと言ったんだよ。そもそもだ、お前らがおれを殺そうとしている事に気付いていないとでも思ったのか? いや、てかさ……お前ら、おれを裏切る相談とか宿でするんだもんなぁ。それにシーラ、お前、浮気して他の男とイチャイチャするなら、せめて連れ込み宿にくらい行け。いや、普通行くだろ? なんでみんなで泊まった宿であれこれヤッてんだよ。気付かない訳ねぇだろ?」
痺れて動くことが出来ないはずのユートが起き上がり、あまつさえべらべらと文句を並べる様を愕然とした様子で見ていたジュリアスとシーラだが、その文句で自分達の行動がユートに筒抜けであったことを知った。
「し、知っていたのなら、何故……」
「んなもん決まってるだろ? 少なくとも、魔王を倒すまではお前らの手があった方が便利だったし、今この状況でお前に動いてもらって決定的な証拠って奴を掴まなければならなかったからだよ。ってことで、こいつ等がべらべらを喋ってたの、きっちり撮れてたか?」
ユートはジュリアス達の背後、魔王の部屋の入口に方に目を向けそう言い放った。
「……撮って……だと」
ジュリアスがユートの目線を追い、入口の方へと振り向く。
「はい、しっかりと記録しています。しかも、グロリア王からの命であったという言葉入り。我らが連合都市国家の主達もお喜びになる事でしょう」
「然り、我らが皇帝陛下も勇者の所属する国と言うだけで幅をきかせ、やっかいこの上なかった王国の失態にさぞお喜びになられる事でしょうな」
そこには、暗い魔王城に存在する影に紛れるよう、黒い服装をした数人の男女が存在していた。
「バカな、今の今まで気配を感じなかったぞ……」
「それはそうだ。彼らは皆、ユキニア連合都市国家やグラン帝国の一流の諜報員達だ。魔王を傷つける力は無くとも、諜報という一点に関しては誰よりも上を行く者達だぞ? お前達程度に気付けるものか」
愕然とするジュリアスとシーラに冷たい視線を向けながら、ユートはただ真実を言う。
そして、ゆっくりとジュリアス達に向かい歩き始めた。
「お前達は知らなかっただろうが、彼らは魔王の居城を探す旅の段階から、おれ達に付いてきていた。理由は簡単だ、王国所属のおれ達の行動の監視の為だな……あー、そういう意味ではここでおれが間抜けにも殺されていたとしても、お前らには未来なんてなかったって事か、さて……」
そう嘲笑いながら、ユートは聖剣を構えた。
「くっ!?」
ジュリアスとシーラもそんなユートの姿を見て、各々の手にした武器を構える。ここに至っては、もうやるしかないのだ。何もしなければ待つのは絶対に明るくはない未来。しかし、ここで全て皆殺しにすることが出来れば、まだなんとかなるはずだ。
性根が腐っていよう剣聖と聖女。二人が組めば勇者といえど勝つことが出来る。そして、まともに魔物と戦う力すら持たぬ間者など敵ですら無い。
そう、考えて居たのだ。だが、現実はそうもいかない。
ユートの一振りは二人の身体を薙ぎ払い、入口近くの壁まで吹き飛ばしたのだ。
「あがっ!?」
「きゃあああぁぁぁぁぁっ!?」
悲鳴を上げ、壁に激突する二人。
「魔王を倒したおれを、お前らがどうこう出来る訳がないだろ? ちょこまかと動く盾とポーション程度にはね。道具として役には立ったよ」
倒れ伏す様を見ながら、ユートは辛辣な言葉を吐く。ユートとて、元はそんな考えはなく、二人を信頼していた。しかし、二人が裏切りの相談をしているのを聞いてからは、そのようにしか二人を見ることが出来なかった。
「浮気は別にいいさ。ちゃんと言っては欲しかったけどね。恋愛だし、色々とある。出会って別れて、それを繰り返してやっと出会えるってこともあるんだしさ。でも、殺すっていうのは絶対に容認出来ない。名誉とか栄光とか、どうだっていいんだよ。あって困る物でも無いけどさ。それよりも、魔物に脅かされて縮こまって生きるような世の中でなくなるってだけで、そんな世の中でのんびりと生きていけるってだけで良かったんだよ。おれがお前らや王国にとって邪魔なら、そう言ってくれればお前らの前から消えてやったのにな」
ジュリアスの首に聖剣を突き付け、ユートはただそう言い放つ。
「お、おれを殺すのか!?」
「や、やめてごめん。謝るから、許して!!」
喚く二人を聖剣の腹で打ち付け、気絶させる。
「殺す価値もないよ。もっとも、ここで死んでいた方がマシだったって事になるかもしれないけどね」
深い溜息と共にそう呟き、ユートは諜報員達の方に顔を向ける。
その意味を理解した諜報員達は、懐からロープや鎖を取り出し二人の身体を縛りあげた。
「ありがとう……さて、ぼくは行くね。まだ戦っている人達を放っては置けない。この二人や王は許しはしないけど、そこで暮らす人達や平和を勝ち取る為に戦ってる人達には関係の無い話だ」
「わかりました。勇者様、宜しければ戦いが終わった後には連合国家にお越し下さい。いい村か町を紹介しますよ」
「いやいや、帝国にぜひ。観光地としても名高い場所も多いですし、なにより温泉が多い! のんびりと観光を楽しめますぞ!」
そんな勇者の背中には、温かい……いや、多くの打算も含まれているだろうが、それでも温もりを感じる言葉が諜報員達からかけられた。
そこには、魔王を倒した勇者に対する尊敬と感謝がしっかりと込められていた。だからこそ、温かく感じたのだろう。
「戦いが終わったら、きっと!」
ユートは明るくそう言うと、再び戦場へと駆けて行く。
一人でも、多くの命を救うためにだ。
人類と魔物たちの戦いは。こうして終わりを迎えた。
魔物たちは人類の結束の前に敗れ、その多くが討伐され、大陸の奥地へと追い立てられた。しかし、全滅させる事は出来なかった。大陸は広大であり、奥地ともなると大森林や巨大な山脈などが存在し、そこに逃げ込まれてはとてもでは無いが追うことは出来なかったからだ。
今の人類には未踏破地へと遠征を行う余裕が無かったというのも現実だった。
何時かまた、生き残った魔物たちの中に王が産まれ、人類を脅かす勢力となるかもしれない。そう危惧した連合国と帝国は手を取り合い、未踏破地の手前にいくつかの町や村を作り、そこを拠点として新たな組織を立ち上げる事にした。
それは冒険者ギルドと呼ばれ、未踏破地の開拓、そして魔物の間引きを行う者達を纏めあげる為の組織であった。
そして、その組織の財源には連合都市国家や帝国に分割吸収された、今は無き王国の宝物庫に貯め込まれた財宝が使用されたと言う。
どうでしたでしょうか?
あくまでも、わたしの脳内でふと浮かんだ話を文章にしてみただけの物ですので、ふぅ~んって感じでしょうか?
これから、少しづつ練習していって、いつかは連載物を書ければなーっと考えています。